「スーツアクター」は、変身ヒーローや怪獣など、“中に入って演じる人”のことです。
- 仮面ライダー
- スーパー戦隊シリーズ
- ウルトラマン
- 怪獣・怪人・ゆるキャラ など
こういった「顔が見えないキャラクター」の中で、アクション全部を担当する俳優・スタントマンが、スーツアクターです。
特徴をざっくりまとめると、こんな感じです。
- マスクやスーツで顔も表情も見えない
- セリフはあとから声優さんや俳優さんが録音(アフレコ)
- それでも“性格”や“感情”を動きだけで伝える
- 殺陣(たて)やアクロバット、ワイヤーアクションもこなす
- 「スタントマン」でもあり「俳優」でもある存在
つまり、
「危険なアクションをやる人」+「キャラクターのお芝居をする人」
この二つを同時にこなす仕事なんです。
どれくらい大変な仕事なの?
スーツアクターの現場は、想像以上にハードです。
視界がほとんどない
ヒーローのマスク、かっこいいですよね。
でも中から見ると、
- 視界がものすごく狭い
- 曇る
- 暗い
と、ほぼ「小さなのぞき穴」状態だと言われています。
そんな状態で、
- 敵と剣を交える
- 後ろからの攻撃をよける
- 段差を飛び越える
- バイクや車を使ったスタントをする
…という、かなり無茶なことをやっています。
スーツの中はサウナ状態
スーツや着ぐるみの中は、風が通りません。
夏場の撮影だと、着ているだけで汗がだくだく。
ある記事では、
1日の撮影で体重が5キロ落ちることもある
と書かれているほど、体への負担が大きい仕事です。
それでも、カメラの前では余裕そうに見せなければいけません。
命がけのスタントもある
初代『仮面ライダー』では、主演の藤岡弘、さんが自分でスーツを着てバイクスタントを行い、撮影中の事故で大怪我を負ったことがあります。
この事故をきっかけに、今では俳優本人には危険なスーツアクションをさせないというルールになり、スーツアクターが本格的に活躍するようになりました。
- 高所からの落下
- 爆破の横を走り抜ける
- バイクでジャンプする
こういった“命がけ”の部分を引き受けているのが、スーツアクターたちなのです。
「動きだけで演技をする」プロ
スーツアクターは、単に派手なアクションをするだけではありません。
大事なのは、「キャラクターらしさ」を体で表現することです。
たとえば、
- 熱血キャラ → 大きく、前のめりな動き
- クールキャラ → 無駄のない、キレのある小さめの動き
- コミカルキャラ → 軽く飛び跳ねるようなアクション
など、変身前の俳優さんの性格や演技に合わせた動きを、全身で作り上げています。
スーツアクターの「すごさ」がわかるポイント
整理すると、スーツアクターのすごさは、主にこの5つ。
- 視界が悪い・暑い・重いという悪条件の中で動く
- 命の危険があるスタントも引き受ける
- キャラクターの性格を「動き」だけで表現する
- カメラの位置や編集まで頭に入れて、見栄えのいい画を作る
- 主役なのに、名前がほとんど出ない“裏方”として作品を支える
この「主役なのに、顔も名前も出ない」というところが、まさに職人の世界ですよね。
凄さがわかるアクションシーン5選
ここからは、スーツアクターのすごさが実感できる代表的なシーンを5つ選んで、どこがすごいのかを解説していきます。
※作品名や話数は、あくまで代表例として挙げています。ネタバレはできるだけ控えめにします。
① 『仮面ライダー龍騎』第1話
「空から剣が降ってくる」シーン
- スーツアクター:高岩成二さん(多くの平成ライダーの中の人として有名)
有名なシーンとして語られるのが、『仮面ライダー龍騎』第1話で、変身したばかりの龍騎の足元に、空から剣が突き刺さるシーンです。
普通なら、
剣が刺さる → すぐにかっこよく抜いて構える
という“ヒーローらしい”動きになりそうですが、この時の龍騎は違います。
- 剣をすぐには抜かない
- きょろきょろと空を見上げる
- 「え、今なにが起きた!?」という戸惑いを全身で表現
監督が「なぜ空を見上げたの?」と聞いたところ、高岩さんは
「剣が降ってきたら、その落ちてきたところを見るでしょう」
と答えたそうです。
ここがすごいポイントは、
- 単に“かっこいいヒーロー”ではなく
- 「普通の青年が、いきなりヒーローになった戸惑い」を演技に落とし込んでいる
というところ。
アクロバットが大きいシーンではありませんが、
「動きだけでキャラを語る」のお手本のような演技です。
② 『仮面ライダー電王』クライマックスフォームのドタバタアクション
『仮面ライダー電王』では、電王の中に「イマジン」と呼ばれるキャラたちが憑依して動きをコントロールします。
- モモタロス(熱血)
- ウラタロス(クール)
- キンタロス(豪快)
- リュウタロス(子どもっぽい)
この4体がいっぺんに乗り移った姿が「クライマックスフォーム」。
このフォームのアクションがとにかく大変で、
- 4人分の性格が体の中でケンカしている
- 勝手に手足が動くような、落ち着きのない動き
- それでいて、ちゃんと敵も倒さないといけない
という、カオスそのもののキャラクターです。
高岩さん本人も、
「久しぶりに泣きたくなった」
と言うほど大変な動きだったそうです。
それでも画面の中では、
- コメディとしてちゃんと笑える
- ヒーローとしてもちゃんとかっこいい
という絶妙なバランスに仕上がっています。
ここで分かるのは、
スーツアクター=単なるアクションの人ではなく、
“多重人格を体一つで演じる俳優”でもある
ということです。
③ 『ウルトラマンレオ』 二家本辰巳さんのキレキレアクション
ファンの間で「最高峰のアクション」と名前が挙がることが多いのが、『ウルトラマンレオ』でスーツアクターを務めた二家本辰巳さんです。
評価されているポイントは、
- 素早く綺麗なバク転・バク宙
- キレのあるバックスピンキック
- 敵に吹っ飛ばされる時のリアルな受け身
- 痛みをちゃんと感じているように見える演技
など、「痛み」「重さ」「スピード」が伝わってくるところ。
特に、レオは他のウルトラマンよりも武道っぽい肉弾戦が多く、
- 投げ技
- 関節技
- 連続蹴り
など、人間の格闘技に近い動きが目立ちます。
ここでのスーツアクターのすごさは、
- 「空想の巨人」でありながら
- 人間の格闘技として見ても説得力のある動きをしていること
です。
「ヒーローだから強い」のではなく、
“強く見せるための技術”が詰まっているアクションなんですね。
④ 初代『仮面ライダー』のバイクスタントと、その後の歴史
さきほど少し触れたように、初代『仮面ライダー』では、主演の藤岡弘、さんが自らスーツアクションとバイクスタントを担当していました。
- バイクでのジャンプ
- 急停止
- 崖ぎりぎりを走る
といった、今なら絶対にNGと言われそうなレベルのスタントを、本人がやっていたのです。
しかし、その撮影中に大きな事故が発生し、藤岡さんは重傷を負います。
この出来事を受けて、今では
「俳優本人に危険なスーツアクションはさせない」
というルールができ、プロのスーツアクターが前面に立つ時代になりました。
ここから分かるのは、
- スーツアクションは本来、命がけの危険がある
- だからこそ、専門の訓練を積んだプロが必要
- その結果、アクションの質もどんどん上がっていった
という歴史です。
今、安心してカッコいいアクションを楽しめるのは、
この時代に体を張ってきた人たちのおかげだと言えます。
⑤ スーパー戦隊シリーズの「最終回付近の総力戦」
東映のスーパー戦隊シリーズでは、『科学戦隊ダイナマン』以降、最終回やその近くの回で、変身前の俳優本人がスーツを着てアクションをするという演出が行われることがあります。
とはいえ、すべてを俳優本人がやっているわけではなく、
- 基本的な動き・ポーズ・ヒーローらしさ → スーツアクターが普段から作り上げている
- その「型」を、クライマックスだけ俳優本人がなぞる
という形になっています。
スーパー戦隊のアクションは特に、
- 5人(最近はそれ以上)がぴったり揃った動きをする
- カメラワーク+爆発+ワイヤーアクションが同時進行
- バラバラな位置にいるのに、最後は一枚の絵としてキレイに決まる
という、“集団アクションの芸術”のようなところがあります。
ここでのスーツアクターのすごさは、
- 自分だけでなく、周りの動きも計算しながら演技している
- 「このカットなら、自分は2歩下がって、右足で決めポーズ」など
カメラ位置と編集を読んだ“設計された動き”をしていること
です。
最終回付近で俳優本人がスーツを着てアクションをするときも、
- それまで長期間、スーツアクターが積み上げてきた「動きのキャラクター性」
- それを俳優本人に伝え、一緒に仕上げていく
という、バトンリレーのような関係があるのです。
スーツアクターになるには?
「こんな仕事があるなら、やってみたい!」と思った方のために、
ざっくりとした道のりも紹介しておきます。
アクションの養成所やプロダクションに入る
有名どころとして、こんな団体があります。
- ジャパンアクションエンタープライズ(JAE)
- レッドアクションクラブ
- そのほか、各作品に関わるプロダクション など
ここで、
- アクション(空手・カンフー・体操・トランポリンなど)
- 殺陣(たて)
- 受け身・転がり方・安全な落ち方
- カメラ映えする動き
といった基礎を徹底的に叩き込まれます。
ヒーローショーなどで経験を積む
多くのスーツアクターは、遊園地やイベントのヒーローショーからスタートします。
- 炎天下の野外ステージ
- 舞台での生の観客相手のアクション
- 子どもたちの前で転び方・立ち上がり方を体で覚える
こうした現場で経験を積みながら、テレビや映画の仕事にステップアップしていきます。
身体能力だけじゃなく「役者力」も大事
スーツアクターは、アスリートのような体の強さも必要ですが、
それ以上に「役として生きる力」が求められます。
- 「このキャラなら、こんな立ち方はしない」
- 「この性格なら、敵に背を向ける時もこう動くだろう」
といった、細かい性格づけを動きに変換する力が、プロとアマの差になります。
まとめ
ここまで見てきたように、スーツアクターとは
- 危険なアクションを引き受けるスタントマンであり
- キャラクターを命吹き込む俳優でもあり
- それでいて、名前も顔もあまり知られない“裏の主役”
という、かなり特殊で、そして尊敬すべき仕事です。
この記事で紹介した5つのポイントとシーンを思い出しながら、
- 仮面ライダーのさりげないしぐさ
- ウルトラマンの構え方や歩き方
- スーパー戦隊の全員が揃った決めポーズ
を、もう一度じっくり見てみてください。
きっと、
「あ、この一歩の出し方、めちゃくちゃ計算されてるな」
「この転び方、ほんとに痛そう…」
「キャラの性格が、動きだけで伝わってくる!」
と、新しい発見があるはずです。
これからヒーロー番組や特撮作品を見るとき、
「この中には、命がけで作品を支えている職人がいる」
そんな目線をほんの少し持ってもらえたら、
スーツアクターたちにとって、何よりの拍手になると思います。



