この記事では、公開前の情報や監督・公式サイト・各種インタビューで語られている内容をもとに、「なぜ松谷鷹也さんが無名の新人なのに、映画『栄光のバックホーム』で主演に抜てきされたのか?」をまとめています。
映画『栄光のバックホーム』ってどんな作品?
まずは作品のおさらいからいきましょう。
元阪神・横田慎太郎さんの実話
『栄光のバックホーム』は、阪神タイガースでプレーし、28歳という若さで亡くなった横田慎太郎さんの実話がもとになった映画です。原作は、本人による著書『奇跡のバックホーム』と、ノンフィクション『栄光のバックホーム 横田慎太郎、永遠の背番号24』。
映画では、プロ野球選手としての夢をつかみ、脳腫瘍という病と闘い、それでも最後までまっすぐ生き抜いた一人の青年と、その家族の物語が描かれます。ジャンルとしては「ヒューマンドラマ+スポーツ映画」。公開は2025年11月28日、監督は秋山純さん、配給はギャガです。
豪華キャストの中で“ほぼ無名”の主演
共演者には、母・まなみ役の鈴木京香さんをはじめ、前田拳太郎さん、伊原六花さん、山崎紘菜さん、草川拓弥さん、萩原聖人さん、上地雄輔さん、古田新太さん、加藤雅也さん、佐藤浩市さん、柄本明さん、高橋克典さんなど、主役級がズラリと並びます。
そんな中で、横田慎太郎さんという“物語のど真ん中”を任されたのは、ほぼ無名の新人俳優・松谷鷹也さん。
「なんでこの人が主演なの?」
「有名なイケメン俳優ではダメだったの?」
気になっている人も多いと思います。
ここからは、その“抜てき理由”を、ひとつずつ分解していきます。
松谷鷹也ってどんな人?ざっくりプロフィール
元高校球児で、父は元プロ投手
松谷鷹也さんは、福島の強豪・学法福島高校でピッチャーとしてプレーしていた元高校球児です。父親は、巨人・近鉄で投げた元プロ野球投手の松谷竜二郎さん。スポーツ紙でも「大谷翔平に完敗した高校時代」「夢はプロ野球選手から俳優で頂点へ」と紹介されており、ガチで“野球エリートの血”を持つ人です。
高校時代はプロを目指していましたが、その夢は叶わず。そこから俳優に転身し、「別の形でてっぺんを目指す」と心に決めて活動してきました。
それでも映画界では“無名の新人”
ただし、長く芸能界で活躍してきた人ではなく、映画ファン・ドラマファンでも、名前を知っていた人は正直少数派でしょう。
だからこそ監督自身も、
「全国公開する無名の新人を主役に抜擢することは、無茶苦茶だし、リスクも高い」
と本音を吐露しています。
でもそれでもなお、
「確かに、鷹也しか横田慎太郎さんを演じられないと思う」
と決断した――ここに、キャスティングの“すごさ”があります。
監督が語った「無名の新人を選んだ理由」
監督・秋山純さんは、noteの連載「『栄光のバックホーム』への軌跡」で、主演抜てきの裏側をかなり赤裸々に語っています。ここから見えてくる“抜てき理由”を、分かりやすく整理してみましょう。
理由① 「野球をちゃんと撮る」ためには“本物の野球人”が必要だった
監督は、幻冬舎の見城徹社長から「新人主演で本当にいくのか?」と詰められたときも、こう言い切っています。
「横田慎太郎さんの、野球シーンをきちんと描きたい」
横田選手といえば、守備範囲の広さと強肩、そして“奇跡のバックホーム”に象徴される走攻守。これを、ただそれっぽく再現するのではなく、プロ野球ファンが見ても「本物だ」と納得できるレベルで撮りたい――そこに監督の強いこだわりがあったようです。
だからこそ、
- 元高校球児
- 投手としても一線級でやってきた
- プロの世界を夢見ていた
という“野球のバックボーン”を持つ松谷さんは、演技以前に「この人なら横田慎太郎のプレーをリアルに体現できる」と感じさせる存在だったのでしょう。
実際、撮影の前後で松谷さんは独立リーグ・福山ローズファイターズに練習生として参加し、のちには選手としても試合出場するほど本気で野球に向き合っています。
映画のために“役作りでちょっとキャッチボールしました”ではなく、“本気でプロを目指すくらい野球に打ち込んだ俳優”。
それが、キャスティングの最初の決め手になりました。
理由② スタローン方式?「ロッキー」と同じ勝負をした
監督は見城社長に対して、こんな言葉まで口にしたといいます。
「スタローンに出来たことは、鷹也にも出来ます」
これは、映画『ロッキー』で、当時ほぼ無名だったシルベスター・スタローンが、自分の脚本で自分が主演することを譲らなかった有名なエピソードをなぞったもの。
- 大きなリスクを取ってでも、主役に無名の新人を据える
- でも、その無名さが“作品のリアリティ”になる
という勝負を、『栄光のバックホーム』でもやるべきだ、と監督は考えたわけです。
横田慎太郎さんは、「超スター選手」ではありませんでした。
むしろ、伸び悩みやケガ、病との闘いに悩みながら、それでも懸命に一軍を目指し続けた“途中の人”です。
だからこそ、見るからにスター然とした超有名俳優よりも、
- まだ無名で
- これから何者かになろうともがいている
そんな新人のほうが、彼の人生と“波長が合う”――監督はそう感じたのでしょう。
理由③ プロデューサー陣をも動かした「熱量」と「人間性」
当然ながら、「無名だから」「野球ができるから」だけで主演が決まるほど、映画の世界は甘くありません。
幻冬舎の見城徹社長は、監督にこう問いました。
「何の実績もない新人を、主演に抜擢することの意味を、お前はわかっているのか?」
全国公開の映画で、興行的な責任も背負う立場からすれば、当然の疑問です。
それでも最終的には、見城社長の口から、
「鷹也で行こう」
という言葉が出ました。
ここに至るまでには、
- 監督の“正面突破のプレゼン”
- 松谷さん本人の真剣な姿勢
- 周囲スタッフからの評価
など、いくつもの「この人で行こう」と思わせる要素が積み重なっていったはずです。
note連載でも、監督は松谷さんについて、
- 負けん気が強い
- 誰からも愛される人間性がある
といった言葉で語っています。
野球がうまいだけではなく、“横田慎太郎という人間を、真っ直ぐに背負える人柄”であることが、決め手のひとつだったと考えられます。
松谷鷹也本人の「覚悟」もすごかった
役作りのために、ガチで野球に戻る
さきほど少し触れましたが、松谷さんはこの作品のために、独立リーグの福山ローズファイターズに実際に参加し、練習だけでなく試合にも出場しています。
普通なら、
- バッティングフォームをコーチに習う
- 動画を見てフォームをマネする
くらいで“役作り”は済ませることもできます。
でも松谷さんは、そこをはるかに超えて、
- チームに住み込みで参加(2023年12月から)
- 実際に選手としてグラウンドに立つ
というレベルまでやっています。
これはもう「役作り」というより、「横田慎太郎の人生を追体験する」覚悟に近いですよね。
甲子園や球場でのセレモニアルピッチでも“本気投球”
2025年には、阪神対DeNA戦(倉敷)や西武対日本ハム戦などでファーストピッチを務め、122キロのストレートを投げ込んだこともニュースになりました。
試合前の始球式とはいえ、そこで手を抜かない。
横田慎太郎さんのユニフォームを着て、全力で投げる姿は、
「彼の野球と人生に対して、途中から乗った“客”ではなく、同じ土の上に立つ覚悟でいる」
そんなメッセージにも見えます。
「横田慎太郎さんへの想い」がにじむエピソード
東京国際映画祭のワールドプレミアでの舞台挨拶では、松谷さんは故・横田慎太郎さんを思い、目頭を押さえて涙をこらえる場面も報じられています。
また、公式noteに載った本人の手記では、
- 大切な人の訃報に接したときの無力感
- 「自分に何ができるのか」と自問し続ける姿
- グラブを手に、思い出の地を巡る時間
などが、素直な言葉でつづられています。
ここから伝わってくるのは、
「ただの“仕事”として役を引き受けたのではなく、
横田慎太郎さんの人生そのものに、真剣に向き合おうとしている」
という強い気持ちです。
“無名の新人”だからこそ出せるリアリティ
観客が「横田慎太郎本人」として見られる
もし、すでに国民的な知名度を持つ大スターが主演をしていたら、観客はどうしても
- 「〇〇が横田慎太郎を演じている映画」
という見え方になってしまいます。
一方で、ほぼ無名だった松谷さんが演じると、
- 「この青年=横田慎太郎」として、ほぼ先入観なしで見られる
というメリットがあります。
作品のポスターを見ても、
ユニフォームの背中に「YOKOTA 24」とあることで、画面の中の人物が“本人そのもの”のように感じられます。
映画が目指しているのは「スター俳優の魅力を見せること」ではなく、
「横田慎太郎という一人の人間の物語を、そっくりそのまま届けること」。
その意味で、
無名の新人だからこそ、観客の目に“横田慎太郎本人”として映る
という、逆転の発想が働いているとも言えます。
監督・製作陣にとっても“覚悟のキャスティング”
もちろん、これは監督や製作陣にとっても、大きな賭けです。
- 興行的には、有名俳優を主役にしたほうが安全
- それでも、あえて無名の新人を選ぶ
というのは、スポンサーや配給会社に対しても説明責任が伴う選択です。
監督は、幻冬舎の社長室で、見城さんから重い言葉をぶつけられています。
それでも最終的に、
「正面突破しかない」
と覚悟を決めて押し切った――
ここに、作品づくり側の“本気度”がにじんでいます。
抜てき理由をまとめると、こうなる
ここまでの話を、シンプルにまとめると……
松谷鷹也が主演に抜てきされた理由(要約)
- 本物の野球ができるから
- 元高校球児で、父は元プロ投手。
- 役作りのために独立リーグで本当にプレーするほど、野球に向き合った。
- “ロッキー方式”の勝負を仕掛けられる新人だったから
- 監督が「スタローンに出来たことは、鷹也にも出来ます」と宣言。
- 無名の新人を主役に据えることで、作品自体が“挑戦の物語”になると判断された。
- 人としての熱量と、人間性が信頼されたから
- 負けん気の強さ、誰からも愛される人柄。
- 横田慎太郎さんやご家族に対する真摯な姿勢が、監督や見城社長の心を動かした。
- “無名”だからこそ、観客が素直に横田慎太郎として見られるから
- 有名俳優だと“その人のイメージ”が前に出てしまう。
- 無名の新人が等身大で演じることで、ドキュメンタリーに近いリアリティが生まれる。
つまりこのキャスティングは、
「野球」と「人生」と「映画の魂」、
その全部をちゃんと背負えるのは、この人しかいなかった――
という、かなり大胆で、けれどとても必然的な選択だったと言えます。
これから映画を観る人への“予習ポイント”
最後に、「これから映画館に行こうかな」と思っている人に向けて、観る前に知っておくと楽しめるポイントを、カンタンに挙げておきます。
① 守備・走塁シーンに注目
- 外野からの送球フォーム
- 打球への一歩目の速さ
- ベースランニングの勢い
こういった細かい野球の動きに、「元高校球児」「独立リーグ経験者」としての松谷さんのリアリティが出ているはずです。
② 母・まなみ役の鈴木京香との掛け合い
この映画は、単なる“スポーツ映画”ではなく、「母と息子の物語」でもあります。
- 病室での会話
- 苦しい時期の親子のやりとり
などで、無名の新人・松谷さんと、ベテラン女優・鈴木京香さんがどう呼吸を合わせているかを見ると、キャスティングの妙がより感じられます。
③ ゆず「栄光の架橋」とのシンクロ
主題歌はゆずの「栄光の架橋」。
- 歌詞の一つ一つが、横田慎太郎さんの歩みとどう重なるのか
- エンディングでどんな感情が湧いてくるのか
このあたりも、意識して聴くと心に刺さりやすくなります。
おわりに:スタローンの“ロッキー”から、松谷鷹也の“横田慎太郎”へ
『ロッキー』が、無名俳優スタローンの人生を変えたように、
『栄光のバックホーム』は、無名だった松谷鷹也さんの人生を大きく変える作品になるかもしれません。
でも、それは単に“シンデレラストーリー”という話ではなく、
- プロを夢見た野球少年が、別の形でマウンドに立つ
- 一人の青年の生涯を、全身全霊で引き受ける
- 無名だからこそ、観客に“純粋な物語”を届けられる
という、いくつもの意味を重ねた挑戦です。
映画館の暗闇の中で、
ユニフォームの背中に輝く「24」を見つめながら、
「この背番号を、誰が、どんな覚悟で背負っているのか」
を思い出してみると、
『栄光のバックホーム』は、きっとさらに深く心に残る作品になるはずです。



