2025年11月17日、東京・杉並区のマンションで、小学1年生の男の子が4階から転落する事故が起きました。
男の子はインフルエンザで学校を休んでいて、母親が薬を受け取りに外出しているあいだ、1人で家にいるときに転落したとみられています。幸い、搬送時には意識はあったものの、会話はできない状態だと報じられています。
このニュースを目にして、
- 「インフルエンザと“転落”って、どうつながるの?」
- 「薬を飲むと“おかしな行動”が出るって本当?」
- 「うちの子もインフルになったら、ベランダが心配…」
と、不安になった方も多いと思います。
この記事では、この痛ましいニュースをきっかけに、
- インフルエンザと“異常行動”の関係
- 抗インフルエンザ薬(タミフルなど)との関係
- 親としてできる「事故を防ぐための現実的な対策」
を解説していきます。
※この記事は、報道で出ている情報と、厚生労働省・医師の解説など「一般的にわかっていること」を整理したものであり、今回の男の子の事故の“原因”を断定するものではありません。警察が調査中であり、どの要素がどう関係したのかは、まだ分かっていません。
今回の事故で分かっていることを整理しよう
ニュース報道をまとめると、現時点でわかっているのは、主に次のような点です。
- 場所:東京都杉並区のマンション
- 時間帯:11月17日 正午前後
- 状況:
- 「子どもがマンションから落ちた」と通報
- 小学1年生の男の子が4階のベランダから転落したとみられる
- マンション敷地内で倒れているところを発見
- 病院搬送時、意識はあるものの会話はできない状態
- 背景:
- 男の子はインフルエンザで学校を休んでいた
- 母親は薬を受け取るため外出しており、男の子は1人で家にいたとみられる
- 警視庁が転落の詳しい原因を捜査中
ポイントは、
「インフルエンザで療養中の小1男児が、1人で自宅にいたときに、4階のベランダから転落した」
という事実だけであって、
- 男の子が“飛び降りようとした”のか
- ぼんやりしていて“ふらっと落ちた”のか
- ベランダから身を乗り出して“何かを見ようとした”結果なのか
といった「なぜそうなったのか」は、まだはっきりしていません。
ここを勝手に決めつけて「親の責任だ」「薬が悪い」と断定するのは、事実にも本人・家族にも失礼です。
この記事では、あくまで「一般論」として、インフルエンザと転落事故・薬の関係を整理する、という立場を大事にしていきます。
インフルエンザで「おかしな行動」が出ることは本当にあるの?
結論からいうと、インフルエンザのときに“いつもと違う行動”が出ることは、実際にあります。
医師の解説では、次のような例が「異常行動」として報告されています。
- 急に部屋の中を歩き回る、走り出す
- 意味不明な言葉を叫ぶ
- 泣き叫んだり、暴れたりする
- ベランダに出ようとする、窓を開けようとする
- 家から外に飛び出そうとする など
こうした状態は、多くの場合、「熱せんもう」と呼ばれます。
熱せんもうって何?
ざっくり言うと、
高い熱で、一時的に脳が“オーバーヒート”して、頭が混乱してしまった状態
だと思ってください。
- 子どもの脳はまだ発達途中で、とてもデリケート
- インフルエンザでは、39〜40℃近い高熱が急に出ることがある
- その急激な高熱で、脳の働きが一時的に乱れる → いつもと違う行動が出る
という流れです。
ポイントは、「薬を飲んだからおかしくなる」というより、まず「インフルエンザそのもの」や「高熱」が大きく関わっている、ということです。
「タミフルで飛び降り」が話題になった過去
インフルエンザと聞いて、多くの方が思い出すのが、
「タミフルを飲んだあと、子どもがベランダから飛び降りた」
というニュースではないでしょうか。
かつての報道とその後の調査
- 2001年にタミフル(オセルタミビル)が販売開始
- 2001〜2008年のあいだに、12〜17歳の未成年が「転落・飛び降り」で死亡する事例が8件報告された
- インフルエンザ患者の「異常行動」との関連が大きく取り上げられた
これを受けて、厚生労働省や研究班が、大規模な調査・検証を行いました。その結果、現在の公式な考え方は、おおむね次のようなものです。
- インフルエンザの患者では、薬を飲んでいても・飲んでいなくても、高熱の時期に異常行動が起こりうる
- タミフルをはじめとする抗インフルエンザ薬と、異常行動とのはっきりした因果関係は証明されていない
- ただし、10代の未成年では、服用後に転落などの事故が報告されており、注意喚起は必要
つまり、
「薬が異常行動を“直接引き起こしている”とまでは言えないが、“インフルエンザ+薬を飲んでいる時期の子ども”には、とくに注意して見守ってください」
というスタンスです。
今回の小1男児と「薬」の関係はどうなの?
ここが一番気になるところだと思いますが、現時点の報道では
- どの薬を飲んでいたのか
- その薬をいつ飲んだのか
- 飲んだあとに様子がどう変わったのか
といった情報は、一切出ていません。
つまり、
「今回の事故が、薬の影響で起こったのかどうか」は、まったく分からない
というのが正直なところです。
それでも、「一般論」として言えるのは次の3点です。
- インフルエンザそのものや高熱だけでも、異常行動やふらつきは起こりうる
- 薬が直接の原因と証明されたわけではないが、異常行動が出た事例があるため、『見守りの強化』が公式に呼びかけられている
- だからこそ、「薬さえ飲ませなければ安全」でもないし、「薬が悪い」と決めつけるのも危険
私たちができるのは、
「インフルエンザ+高熱+薬(を飲んでいる場合)」という“リスクが高まりやすいタイミング”を知って、
その時間帯はできるだけ1人にしない・ベランダや窓まわりに近づけない工夫をする
という方向です。
インフルエンザ時に起こりうる「3つのリスク」
ここで、インフルエンザのときに、子どもに起こりやすいリスクを3つに整理してみます。
① 高熱によるふらつき・転倒
- 39〜40℃近い熱が出ると、大人でもフラフラしますよね。
- 子どもは体格も小さく、筋力も弱いため、なおさらバランスを崩しやすいです。
- ふらっと立ち上がったときに転んでテーブルの角に頭を打つ、階段から落ちる…といった事故が起こりえます。
② 熱せんもう・異常行動
先ほど触れた通り、高熱による一時的な脳の混乱で、
- いつも言わないようなことを言う
- 急に歩き回る・走り出す
- 窓や玄関から外に出ようとする
といった行動が出ることがあります。
とくに、
- 発熱から1〜2日以内
- 夜間や明け方(寝ぼけやすい時間帯)
に起こりやすいとされています。
③ インフルエンザ脳症などの重い合併症
数としては多くありませんが、インフルエンザ脳症など、命に関わる合併症が起こることもあります。
- 意識がもうろうとして呼びかけに反応しない
- けいれんが続く
- ぐったりして起きてこない
こうした場合は、119番通報や救急相談窓口(#7119など)にすぐ相談すべき状態です。
「異常行動」といっても、単なる熱せんもうの場合と、命に関わる病気が隠れている場合の両方があり得ます。
ですから、
「変だな?」と思ったら、自己判断で様子を見すぎず、医療機関や相談窓口に早めに相談する
ことが大切です。
親としてできる「ベランダ・窓まわり」の安全対策
今回のようなニュースを見ると、やはり気になるのはベランダや窓からの転落事故です。
インフルエンザに限らず、小さな子どもがいる家庭では、次のような対策が有効です。
① ベランダの鍵を「いつも」かける習慣
- 「洗濯物を干したあと、つい開けっぱなし」が一番危険です。
- ベランダに出入りしたら、「鍵までかけてセットで終了」と、家族でルール化しておくと安心感が違います。
- 子どもが届かない位置に補助ロックをつけるのも有効です。
② ベランダに“足場”になるものを置かない
- エアコン室外機の上に乗る
- プランター台、踏み台、イスを動かして柵に手をかける
こういった行動から転落につながるケースが多く報告されています。
「よじ登れるものは置かない」「どうしても置くなら柵から離す」
この2点だけでも、かなりリスクは下げられます。
③ 窓際に、登れる家具を置かない
- ソファ
- タンス
- 棚
などが窓のすぐそばにあると、子どもがそこに乗って外をのぞき込み、バランスを崩す危険があります。
「ここに登ったら、窓の外に届いてしまう場所はないか?」
という視点で、部屋を一度見直してみるとよいです。
④ 熱が高い・薬を飲んだ直後は“特に”目を離さない
厚労省や製薬会社の注意でも、インフルエンザの子どもでは、高熱・治療開始から少なくとも2日間は、できるだけ1人にしないで見守るようにとされています。
現実には、仕事や下の子の世話などで「24時間べったり」とはいきませんが、
- 夜間・明け方
- 薬を飲んだ直後
- 熱が急に上がったタイミング
など、「危なそうな時間帯だけでも極力そばにいる」という考え方が現実的です。
どうしても外出しなければならないとき、何ができる?
今回のニュースでは、母親は「薬を受け取るために外出していた」と報じられています。
正直なところ、
子どもを看病しながら、病院や薬局にも行かなければならない
というのは、多くの家庭で起こりうる状況です。
「出たのが悪い」「親が悪い」と簡単に責められる問題ではありません。
そのうえで、「これから自分の身に同じ状況が起こったら?」という視点で、現実的な対処法を考えてみます。
① まずは「家族・近所・友人」のサポート候補をリスト化
- パートナー
- 近くに住む祖父母
- 同じマンションの仲の良いご家庭
- ママ友・パパ友
など、「いざというとき、30分〜1時間だけ見ていてもらえそうな人」を、普段からイメージしておくと、いざというとき頼みやすくなります。
② 病院や薬局に「代理で受け取り」ができないか相談
- 家族が代理で薬だけ取りに行けるか
- 場合によっては、医師に電話で相談して処方を調整してもらえないか
など、事前にかかりつけ医に相談しておくと、選択肢が増えます。
③ オンライン診療・配達を使える地域か確認
最近では、オンライン診療でインフルエンザの診察を受け、薬を自宅に配送してくれるサービスも増えています。
- お住まいの地域で利用できるサービスがあるか
- かかりつけクリニックがオンライン診療に対応しているか
を、普段から調べておくだけでも、「どうしても1人にしなきゃ…」という場面を減らせるかもしれません。
④ それでも短時間1人にするしかない場合は…
理想論だけでは回らないのが子育てです。
どうしても数十分だけ1人にしないといけない場面もあるでしょう。
その場合は、最低限として、
- ベランダの鍵を必ず閉める
- 窓を開けっぱなしにしない
- 玄関の鍵も内側から簡単に開けられないようにしておく
- ロフトや階段に近づけないようにする
- 子どもには「ベッドから出ないでね」「ソファで寝ててね」と、できる範囲の“行動の約束”をしておく
といった対策が考えられます。
もちろん、それでも100%安全とは言えません。
だからこそ、「どんな状況でも親が悪い」と一方的に責めるのではなく、「社会全体で事故を減らすにはどうするか」を考えることが大切だと思います。
8. よくある疑問Q&A
Q1. 「薬が怖いから、インフルでも飲ませない方が安全ですか?」
A. 自己判断で「薬は全部やめる」はおすすめできません。
- 抗インフルエンザ薬は、発症から早めに使うことで、症状を軽くしたり、高熱の期間を短くしたりする効果が期待されています。
- 高熱の時間が短くなれば、「熱せんもう」や「ふらつき」のリスクが減る可能性もあります。
大事なのは、
「薬を飲ませる・飲ませない」を親だけで決めないこと。
- 医師の説明をよく聞く
- 不安な点はその場で質問する
- 異常行動のリスクと、薬のメリット両方を理解したうえで、一緒に判断する
という姿勢が安心につながります。
Q2. 異常行動が出たら、すぐ薬をやめるべき?
A. まずは安全確保と緊急性の判断が優先です。
- ベランダ・窓・階段など、危険な場所から子どもを遠ざける
- 強く揺さぶったりせず、できるだけ落ち着かせる
- 「おかしい」と感じたら、#7119(救急相談)などに電話して状況を説明し、指示を仰ぐ
- 意識がはっきりしない、けいれんが続く、呼びかけに反応しないなどの場合は、迷わず119番
薬を続けるかどうかは、その後、医師と相談して決めるのが安全です。
Q3. 何歳ぐらいまで「異常行動」に気をつけるべき?
厚労省の注意喚起では、特に10代の未成年での転落事故に注意が必要とされていますが、異常行動自体は、小学生以下でも報告されています。
目安としては、
「子ども」と言える年齢(少なくとも小学生のあいだ)は、高熱時には“目を離しすぎない”
という意識を持っておくとよいでしょう。
今回のニュースから、私たちが学べること
最後に、今回の小1男児の転落事故から、私たちが「自分ごと」として受け止められるポイントを整理します。
- インフルエンザは「熱としんどさ」だけの病気ではない
高熱や脳への影響で、異常行動やふらつきが起こり、転落事故につながることもある。 - 薬だけを“犯人”にするのは危険
過去の調査では、薬と異常行動の明確な因果関係は証明されていません。一方で、注意喚起が必要な事例もあり、「薬+インフルエンザ+高熱の時期の子どもはよく見守る」というバランスが大事です。 - ベランダ・窓・階段など、家の「高い場所」は常にリスクがある
とくに、高熱時・夜間・親が不在のタイミングは危険度が上がります。「鍵をかける」「足場になるものを置かない」など、日常的な工夫が命を守ります。 - 親だけに責任を押しつけず、「どうしたら事故を減らせるか」を社会全体で考えることが必要
オンライン診療や薬の配達サービス、地域での助け合いなど、仕組みや環境づくりも大事な要素です。
おわりに:不安になった心を、少しだけ「行動」に変える
突然のニュースで、「うちの子もインフルになったらどうしよう」と不安になった方も多いと思います。
でも、不安を不安のまま抱えているだけだと、ただつらくなってしまうんですよね。
この記事を読み終えたら、ぜひ今日できることを1つだけでいいのでやってみてください。
- ベランダと窓の鍵を全部チェックしてみる
- ベランダに「足場になりそうなもの」がないか見直す
- かかりつけ医やオンライン診療の情報をスマホにメモしておく
- パートナーや家族と、「インフルのときの見守りルール」について話してみる
小さな一歩でも、「何も知らない状態」よりは確実に、安全に近づいています。
今回の小1男児の一日も早い回復を心から願いつつ、
この痛ましい事故を「ただのニュース」で終わらせず、
私たち一人ひとりができる備えにつなげていけたらと思います。
※この記事は医師による個別診察ではありません。具体的な症状や心配事がある場合は、必ずかかりつけ医や医療機関、救急相談窓口にご相談ください。

