「ひらやすみ」のドラマ化って、何がそんなにすごいの?
原作マンガとの違いや、ドラマならではの良さが気になっている人向けに解説していきます。
そもそも「ひらやすみ」ってどんな作品?
原作は真造圭伍の“癒やし系”日常マンガ
『ひらやすみ』は、真造圭伍(しんぞう けいご)さんが「週刊ビッグコミックスピリッツ」で連載中のマンガです。
- 舞台:東京・杉並区 阿佐ヶ谷・高円寺
- 主人公:29歳フリーターの生田ヒロト
- ヒロトは近所のおばあちゃん・はなえさんから“タダで平屋一軒家”をもらう
- 山形から上京してきた18歳のいとこ・なつみと、平屋で二人暮らしがスタート
そこへ、
- 不動産会社で働く女性(立花よもぎ)
- 家具店の店員
- 小説家志望の人 など
ちょっと生きづらさを抱えた人たちが集まってくる、“都会の隅っこの、静かな人間ドラマ”です。
評価もかなり高い作品
原作マンガは「マンガ大賞2022」で第3位に選ばれ、
「心が救われる」「読んでいて呼吸が深くなる」といった声が多い作品です。
- 有名マンガ家たちからの推薦コメント
- 雑誌「BRUTUS」での特集
- 海外版も出ている
など、“知る人ぞ知る名作”というポジションでした。
そんなマンガが、2025年11月からNHK夜ドラとして映像化されたのが、今回のドラマ版『ひらやすみ』です。
ドラマ版『ひらやすみ』の基本情報
NHK「夜ドラ」枠で放送中
ドラマ版『ひらやすみ』は、NHK総合の「夜ドラ」枠で放送されています。
- 放送局:NHK総合
- 枠:夜ドラ(月〜木)
- 時間:22:45〜23:00(1話15分)
1時間ドラマではなく、15分×4日=週60分というスタイル。
この「ちょっとだけ覗き見する」ような長さが、作品の雰囲気とすごく合っています。
キャストが“原作からそのまま出てきた感”
主なキャストはこんな感じです。
- 生田ヒロト:岡山天音
- 小林なつみ:森七菜
- 立花よもぎ:吉岡里帆
- 野口ヒデキ:吉村界人
- 和田はなえ:根岸季衣
原作ファンからは、
「え、イメージ通りすぎない?」
という声も多く、キャスティングの時点で“勝ち”に近い作品になっています。
「ドラマ化はどこがすごい?」大きな3つのポイント
ここからが本題です。
「ひらやすみ」のドラマ化が“うまい&すごい”と言われる理由を、3つに分けて解説します。
① “ケアドラマ”としての完成度が高い
東洋経済オンラインのコラムでは、
夜ドラ『ひらやすみ』を「心身ともに疲弊しがちな私たちのための“ケアドラマ”」と表現しています。
- 大きな事件は起きない
- 誰かが劇的に成長するわけでもない
- でも、見ていると心の中にたまった“モヤモヤ”が少しずつ溶けていく
この「ケアドラマ感」を、15分ドラマという枠でしっかり表現しているのがまずすごいところです。
15分という短さの中で、
- 登場人物の表情
- 会話の“間”
- ごはんの湯気や、部屋に差し込む光
を丁寧に見せてくれるので、
「物語を追う」というよりも
「一緒にそこに座っている」ような気持ちになってきます。
② 阿佐ヶ谷の“空気”をちゃんと映像にしている
原作マンガの大きな魅力のひとつが、
阿佐ヶ谷〜高円寺あたりの、ちょっと素朴な街の空気です。
- 小さな商店
- 昭和っぽい飲み屋
- 緑の多い住宅街
- 七夕まつり など
「住んでいる人の生活を感じる街」として描かれています。
ドラマ版でも、
- 商店街
- 銭湯
- スーパー
- 阿佐ヶ谷七夕祭り
といった風景が登場し、
そこに暮らす人たちの「生活の温度」がちゃんと伝わってくる映像になっています。
ロケの選び方と撮り方が、とにかく“わかってる”感じ。
「観光地としてのオシャレ阿佐ヶ谷」ではなく、
「今日も普通に暮らしている阿佐ヶ谷」を写しているのがポイントです。
③ キャラの“体温”を感じる演技
とくに評価されているのが、主演の岡山天音さんのヒロト像です。
ヒロトは、
- 仕事もフリーター
- 将来の夢もあいまい
- でも、なぜか周りの人に慕われる
という、“弱くも強くもない、ごく普通の人”です。
この「普通さ」を、
・声のトーン
・ゆるい立ち姿
・人の話を聞く時の目線
などで自然に出しているのが、かなり巧い。
森七菜さん演じる なつみ も、
- 自意識過剰で
- すぐに落ち込み
- でも、好きなことにはまっすぐ
という“こじらせ美大生”ぶりがリアルで、
「あ〜、こういう子クラスにいたわ…」と感じる人も多いはずです。
吉岡里帆さんの よもぎ は、
- 仕事はできるけど
- プライベートでは空回りしがち
- ヒロトにイライラしながらも、少しずつ惹かれていく
という、「こじらせた大人の女性」を、
かわいくなりすぎない絶妙なバランスで演じています。
原作マンガとの違い:どこが変わっている?
次に、原作マンガとドラマ版の“違い”を、ネタバレをできるだけ避けながら、ざっくり説明します。
違い①:時間の流れとエピソードの取捨選択
マンガは、
- 1話ごとにゆったりと日常が進んでいく構成で
- 巻が進むごとに、周りのキャラクターの掘り下げが増えていきます。
一方、ドラマには放送話数の制限があります。
そのためドラマ版では、
- 原作のエピソードを「どこまで入れるか」
- どのキャラをどのくらい目立たせるか
をかなり整理していると考えられます。
具体的に、
- 早めに“よもぎ”との関係性を前に出している回が続く
- なつみの学校での悩みをピンポイントで描く
など、「誰のどの感情にフォーカスするか」が絞られています。
原作=広く・じっくり
ドラマ=ポイントを絞って濃く
というイメージです。
違い②:ヒロトの“心の声”の見せ方
マンガでは、
- モノローグ(心の声)
- コマの間の「沈黙」
を通じて、ヒロトたちの心情が伝わってきます。
ドラマは当然、
「心理描写を全部テロップで出す」わけにはいきません。
代わりに、
- ちょっと目をそらす
- ごはんを口に運ぶスピードが変わる
- 返事をするまでの“間”が長くなる
といった、細かい演技と演出で心の揺れを見せているのがドラマ版の特徴です。
原作では文字で読んでいた感情が、
ドラマでは「表情の変化」として体感できる、という違いがあります。
違い③:ごはんシーンの破壊力
原作にも、おいしそうなごはんはたくさん出てきますが、
ドラマ版の“飯テロ度”はさらに高いです。
- 焼きそば+目玉焼き
- カツと味噌汁
- シンプルなそうめん
など、特別な料理ではないのに、画面に出るととにかく食べたくなる。
湯気、音、食べるスピード、器の質感――
こういった“映像ならではの情報”が足されているので、
「あ、今日ちゃんとごはん作ろうかな」
と、見ているこっちの生活まで少し変えたくなります。
違い④:よもぎの“ドラマ度”が少し上がっている
原作でも人気キャラのひとりである、
不動産会社の女性・立花よもぎ。
ドラマ版では、
- ヒロトとの偶然の遭遇シーンが繰り返し描かれる
- 駅・銭湯・スーパー・祭りなどで「また会った…」という空気が続く
といった“ドラマ的演出”が強くなっています。
恋愛ドラマというほどベタではないけれど、
「この2人、今後どうなるんだろう?」と気にならせる見せ方になっており、
ここは原作以上に“連ドラっぽさ”が出ているポイントと言えます。
「原作ファン」と「ドラマから入る人」それぞれの楽しみ方
原作ファン目線:変えてほしくないところをちゃんと守っている
原作ファンが一番気にするのは、
「作品の空気が壊されていないか?」
という点だと思います。
その点、夜ドラ『ひらやすみ』は、
- 阿佐ヶ谷の空気感
- 平屋の“ちょっとボロいけど居心地いい感じ”
- 人の弱さを否定しない視線
といった、原作の根っこの部分をきちんと守ったうえで映像化している印象です。
細かいエピソードの取捨選択は当然あるものの、
「これは別作品になっちゃったな…」という感じはありません。
ドラマから入る人目線:あとから原作を読むと“補完”される
一方、ドラマから『ひらやすみ』に触れた人にとっては、
「もっとヒロトの過去を知りたい」
「なつみの大学生活、もう少し詳しく見たい」
「よもぎ以外のキャラも気になる」
という気持ちが出てくるはずです。
その“もっと知りたい”部分を、原作マンガがガッツリ補ってくれます。
- ドラマで好きになったキャラのエピソードを原作で深掘り
- ドラマでは描かれていない細かい日常や季節の移り変わりを味わう
- コマで見るからこそ伝わる「静かな間」を再体験
といった楽しみ方ができるので、
ドラマ→原作の順でハマるルートもかなりおすすめです。
どんな人に刺さるドラマ&マンガなのか
最後に、
『ひらやすみ』ドラマ&原作が特に刺さりやすい人をまとめておきます。
① 仕事や人間関係にちょっと疲れている人
- 頑張っているのに報われた感じがしない
- 他人と自分を比べて落ち込みがち
- 「もっと努力しろ!」系の物語は今はきつい
そんな人には、“がんばらなくてもいい時間”をくれる作品です。
ヒロトたちの日常を眺めることで、
「自分の暮らしも、そんなに悪くないかも」と思えるかもしれません。
② 将来がぼんやり不安な20〜30代
- 正社員でもない
- このままでいいのか分からない
- でも、夢をきっぱり捨てる勇気もない
ヒロト(29歳フリーター)や、なつみ(18歳美大生・漫画家志望)は、
まさに「今の若い世代のリアル」を背負ったキャラクターです。
彼らの姿を通して、
「ちゃんとできてなくても、生きてていいよね」
という感覚を、自然と受け取れるはずです。
③ 日常系・ごはん系のドラマやマンガが好きな人
- 『かもめ食堂』『深夜食堂』『きのう何食べた?』などが好き
- 「大事件より、普通のごはんのシーンが好き」
そんな人には、どストライクの世界観です。
マンガ版はじっくり味わう“読書のごちそう”、
ドラマ版は平日の夜にさくっとつまむ“お惣菜”みたいな感じで楽しめます。
まとめ
ここまでをまとめると――
いちばんのポイントは、
「ドラマが、原作のいちばん大事な“空気”をちゃんと守ったまま、映像作品としての面白さも足してきた」
というところだと思います。
まだ見ていない人は、平日の夜15分の“ひらやすみ”として。
すでにドラマにハマっている人は、原作マンガでさらに深呼吸するつもりで、
ぜひ両方に触れてみてください。


