まず、いきなり結論からいきます。
現役ドラフトとは、今いるチームで出場機会が少ない選手を、他の球団が指名して獲得できる制度のことです。
目的は、
「塩漬けになっている実力者に、新しいステージでチャンスをあげよう」
というもの。日本野球機構(NPB)が2022年からスタートさせた新しい仕組みで、毎年12月に実施されています。
もともとアメリカ・メジャーリーグの「ルール5ドラフト」という制度を参考に作られていて、
「2軍でしっかり結果を出しているのに、1軍の枠やチーム事情で使ってもらえない選手」に光を当てる狙いがあります。
通常ドラフトとの違い
「これから入る人」か「すでにプロで戦っている人」か
まずは分かりやすいところから、「普通のドラフト(新人ドラフト)」とどう違うのかを整理しておきましょう。
対象となる選手が違う
- 通常ドラフト
- 高校生・大学生・社会人など、まだプロに所属していない選手
- 「これからプロに入る人」を各球団が指名するイベント
- 現役ドラフト
- すでにNPBの球団に所属している現役選手
- 「今プロにいるけど、出番が少ない人」を他球団が指名する
つまり、
「入口を決めるのが通常ドラフト」
「席替えをするのが現役ドラフト」
というイメージです。
実施されるタイミングが違う
- 通常ドラフト:シーズン終盤(10月頃)に行われる
- 現役ドラフト:シーズン終了後、12月に行われる
シーズンが終わり、来年の戦力を考えはじめるタイミングで、
「ウチでは出番を作りにくいけど、他球団ならチャンスがあるかも」という選手を動かすわけですね。
目的が違う
- 通常ドラフト:
- 将来を見据えた戦力補強
- 「いい素材を早く囲い込む」がテーマ
- 現役ドラフト:
- 出場機会の少ない選手の救済
- 選手のキャリアを動かし、各球団の戦力を“ならす”狙い
どちらも「戦力補強」であることには変わりませんが、
新人ドラフトは“将来への投資”、現役ドラフトは“今いる人材の再配置”という違いが大きいです。
トレードとの違い
「球団同士の交渉」か「共通ルールのドラフト」か
次に、よく比べられるのがトレードです。
トレードも、現役ドラフトと同じく「移籍」の一種ですが、仕組みはかなり違います。
誰が動かすのか
- トレード
- 球団同士が直接交渉して、
「ウチの○○をそっちの△△と交換しない?」
と話をまとめる。 - 1対1、2対1、金銭トレードなど形はさまざま。
- 球団同士が直接交渉して、
- 現役ドラフト
- NPBが決めたルールのもとで、
12球団が一斉に「ドラフト会議」のような形で指名する。
- NPBが決めたルールのもとで、
選手側からすると、トレードは「水面下で話が進んで、ある日いきなり発表される」のに対し、現役ドラフトは「リストに入る可能性があり、当日まとめて発表される」という違いがあります。
主な目的の違い
- トレード
- 足りないポジションを補強する
- お互いの“ニーズの交換”
- 現役ドラフト
- 出場機会の少ない選手にチャンスを与える
- 移籍によって選手のキャリアの停滞を防ぐ
もちろん現役ドラフトも「補強」であることには変わりませんが、
“ベンチで眠っている選手を起こす”という色がかなり濃い制度です。
現役ドラフトの具体的なルール(2025年時点)
2025年の情報をもとに、できるだけシンプルにルールをまとめます。
いつ行われる?
- 2025年は12月9日に実施
- 2022年のスタートから数えて第4回目の現役ドラフト
- 会議はオンライン・非公開で行われ、結果だけが公式サイトなどで発表されます。
どんな選手が対象?
各球団は、2人以上の「現役ドラフト対象選手」をリストアップします。
ただし、以下のような選手は対象外です。
- 新人選手(ドラフトで入ったばかり)
- FA権を持っている、または過去に行使した選手
- 複数年契約中の選手
- 育成選手
- 外国人選手
- シーズン終了後に育成→支配下になった選手
- シーズン終了後に移籍した選手
- 来季年俸5000万円以上の選手
ざっくり言うと、
「一軍の主力級ではなく、ベンチや二軍にいることが多い日本人現役選手」
が中心になります。
12球団の義務
- 全12球団が、対象選手を2人以上リストアップする
- そして、必ず1人以上は指名して獲得しなければならない
つまり、
「出ていく選手が必ず1人以上いて、入ってくる選手も必ず1人以上いる」
という“出入りセット”の仕組みです。
2巡目ルールの変更(2025年のポイント)
2025年は、第4回目にして2巡目のルールが一部変更されました。
- 従来:
- 「2巡目で指名する意思がある球団だけ」参加
- 2025年から:
- 自分は選手を獲得しなくても、所属選手を他球団に移籍させる目的だけで2巡目に参加することも可能
つまり、
「ウチでは出番ないから、誰か取ってあげて」
と手を挙げることもやりやすくしたわけです。
…ところが。
2025年も2巡目の指名はゼロ。
移籍した選手は、1巡目の12人だけという結果に終わりました。
制度の「活性化」という意味では、まだまだ改善の余地があると言われています。
過去の「大当たり」事例
細川成也・大竹耕太郎・水谷瞬・田中瑛斗…
「本当にチャンスになるの?」という疑問に答えるうえで、過去の成功例は欠かせません。
細川 成也(DeNA→中日)
- 2022年、第1回現役ドラフトでDeNAから中日へ
- 移籍後、3年連続20本塁打の主砲に成長
- オールスター出場、ベストナイン獲得と完全に“看板選手”へ
大竹 耕太郎(ソフトバンク→阪神)
- 同じく2022年の現役ドラフトでソフトバンクから阪神へ
- 阪神で2年連続2ケタ勝利を挙げ、優勝にも貢献
- 「現役ドラフト成功例」として必ず名前が挙がる存在に
水谷 瞬(ソフトバンク→日本ハム)
- 2023年の第2回現役ドラフトでソフトバンクから日本ハムへ
- 移籍後、交流戦で最高打率をマークするなどブレイク
田中 瑛斗(日本ハム→巨人)
- 2024年の第3回現役ドラフトで日本ハムから巨人へ
- 2025年シーズンに大ブレイクし、ローテーションの一角に定着
このように、
「元チームでは“伸び悩み”扱いでも、環境が変わった途端、大化けする選手」
が現役ドラフトから何人も出ています。
一方で、「指名されたけれど、翌年には戦力外通告…」という厳しいケースも少なくありません。2回目の現役ドラフトで移籍した選手の約半数が1年で退団・戦力外になったというデータもあり、「制度として本当に選手のためになっているのか?」という議論も続いています。
2025年の現役ドラフト結果
第4回・12人の移籍で見えた“傾向”
では、2025年の現役ドラフト(第4回)では、どんな選手が動いたのか。
NPB公式発表をもとに、ざっくり整理してみます。
2025年・第1巡目指名選手(抜粋)
- 巨人 → 松浦 慶斗 投手(元・日本ハム)
- ヤクルト → 大道 温貴 投手(元・広島)
- DeNA → 濱 将乃介 外野手(元・中日)
- 中日 → 知野 直人 内野手(元・DeNA)
- 阪神 → 濱田 太貴 外野手(元・ヤクルト)
- 広島 → 辰見 鴻之介 内野手(元・楽天)
- 日本ハム → 菊地 大稀 投手(元・巨人)
- 楽天 → 佐藤 直樹 外野手(元・ソフトバンク)
- 西武 → 茶野 篤政 外野手(元・オリックス)
- ロッテ → 井上 広大 外野手(元・阪神)
- オリックス → 平沼 翔太 内野手(元・西武)
- ソフトバンク → 中村 稔弥 投手(元・ロッテ)
特徴を一言で言うと、
「外野手・内野手・中継ぎ投手といった“即戦力候補”がバランスよく動いた」
という感じです。
「実質トレード」のような動きも
- 日本ハム ⇄ 巨人(菊地大稀と松浦慶斗)
- オリックス ⇄ 西武(茶野篤政と平沼翔太)
といった、“実質トレード”のような入れ替わりもありました。
一方で、
- 阪神の将来の4番候補・井上広大がロッテへ
- ヤクルトの長距離砲・濱田太貴が阪神へ
- ソフトバンクのドラ1外野手・佐藤直樹が楽天へ
など、ファンから見てもインパクトのある移籍が目立ちました。
「完全な戦力外候補」ではなく、まだまだ伸びしろがある“未完の大器”が動きやすくなっている印象です。
2025年の事例から分かる「現役ドラフトらしさ」
出場機会の“ミスマッチ”を埋める制度
たとえば:
- 井上広大:
- 阪神では外野の層が厚く、1軍出場はわずか
- しかし2軍では首位打者を獲得するなど、「下では無双」のタイプ
- ロッテ側から見ると「右の長距離砲がほしい」というニーズにぴったり
- 佐藤直樹:
- ソフトバンクで104試合出場と、それなりに出番はあった
- とはいえ、層の厚い外野陣の中でレギュラーを完全に掴むまでには至らず
- 楽天では「守れて走れる外野手」が欲しい状況とマッチ
- 中村稔弥:
- ロッテでは左の中継ぎとして一定の役割
- ソフトバンクは「左腕リリーフの補強」が課題
こうして見てみると、
「今のチームだとポジションがないけど、別のチームなら需要がある」
という選手が、現役ドラフトで動いていることがわかります。
「名前だけ聞くと惜しい選手」も対象になる
2025年のリストを見ると、
- 元ドラフト1位
- 1軍で100試合以上出ている
- 若くしてタイトル経験あり(2軍含む)
といった、“それなりに実績のある選手”も少なくありません。
制度スタート前は、
「どうせ戦力外一歩手前の選手ばかりじゃないの?」
という不安もありましたが、実際には
- 球団としても「ちゃんと使ってくれるなら、移籍させた方がいい」と判断した選手
- 新天地でスタメン争いに食い込めそうな選手
が多く含まれるようになってきています。
現役ドラフトのメリット・デメリット・課題
メリット
- 選手にとってのセカンドチャンス
- 2軍でくすぶっていた選手が、一気に1軍のレギュラーへ、という物語が現実に起きている。
- 球団にとっての“低コスト補強”
- FAや大型トレードほどリスクやコストをかけずに、即戦力候補を獲得できる。
- プロ野球全体の“流動性アップ”
- 特定の球団に選手が溜まりすぎるのを防ぎ、リーグ全体の戦力バランスを調整しやすくなる。
デメリット・課題
- 「1年で戦力外」が少なくない
- “チャンス”のはずが、そのまま引退・戦力外につながってしまうケースも目立つ。
- リストの質次第で「制度の形骸化」の恐れ
- 本当にチャンスを与えたいのか、単なる“整理”なのか。
- 各球団がどういう選手をリストに入れるかで、制度の価値が大きく変わる。
- 2巡目がなかなか機能しない
- 2024年に1件だけ実施された2巡目指名。
- 2025年はルール変更までしたのに、結局2巡目ゼロ。
- 「もっと動いてほしい」というNPBの思惑と、球団側の慎重さのギャップが浮き彫りに。
制度としてはまだ発展途上で、
「選手にとって本当にプラスになる仕組みにできるか」
「球団が“本気の選手”を出し続けられるか」
が、今後の大きなテーマになりそうです。
ファン目線での「現役ドラフト」の楽しみ方
最後に、この記事を読んでいる“プロ野球ファン目線”での楽しみ方も少しだけ。
- 「なぜこの選手が動いたのか?」を考える
- ポジション、年齢、年俸、チーム事情…
- 移籍の意味を考えると、その選手を見る目が一気に変わります。
- 2軍成績や過去のドラフト順位を見てニヤニヤする
- 「実は2軍の打点王だった」
- 「元ドラ1がここで再スタートか」
など、背景を知ると応援したくなります。
- “第2の細川・大竹・水谷・田中瑛斗”を探す
- 毎年、「今年の大当たりはこの人だ!」と予想するのも現役ドラフトの醍醐味です。
まとめ
ここまでのポイントを、サクッとまとめます。
最後に
ふと自分の部屋を見回してみました。
- 使っていないダンベル
- 3年前に買って開いてない英語テキスト
- ダイエットしようと思って買ったストレッチポール
……どう見ても、出場機会に恵まれていない戦力だらけです。
「よし、オレも“家庭内現役ドラフト”をやろう。
使ってくれる人のところへ、この子たちを移籍させてあげよう!」
と決意して、メルカリを開いたその瞬間――
出品する前に、久しぶりにダンベルを持ち上げてみたら、
腕がプルプル震えて10回でギブアップ。
どうやら、
一番新天地に出されるべきなのは、出番のない道具ではなく、
「動かない自分自身」だったようです。

