今、話題の「ニセGTR」「偽物のGT-R」。
きっかけは、ドイツの中古車情報サイトに“R35 GT-Rそっくり”なクルマが約140万円(7500ユーロ)で出品されている、というニュースです。
見た目はどう見てもR35型GT-R。
なのに値段は、今どきの軽自動車より安いレベル。
当然ですが、
「そんな安いGT-Rあるわけないやろ!」
とクルマ好きのツッコミが世界中から飛び交っています。
では、この“ニセGTR”とは、いったい何者なのか?
そして、本物のR35 GT-Rとはどこが違うのか?
を整理してみます。
ニセGTRの正体:中身はフォード「クーガ」
ベースはアメリカ車のクーペ
ドイツの自動車メディアや日本のニュース記事によると、この“ニセGTR”の中身は フォード・クーガ(Ford Cougar) です。
フォード・クーガといっても、日本で売られていたSUV「Kuga」ではなく、
1990年代終盤にヨーロッパ向けに販売されていた3ドアクーペのほう。
主なスペックはこんな感じです(代表的な2.5L V6モデル)
- エンジン:2.5L V6(自然吸気)
- 最高出力:170馬力前後
- 駆動方式:FF(前輪駆動)
- 0-100km/h加速:約8秒台
- トランスミッション:5速MTが主流
数字だけ見れば「そこそこ速いスポーティクーペ」レベル。
でも、スーパーカーと言われる世界からすると、かなりおとなしいクルマです。
外側だけR35 GT-R風ボディに“着替え”
今回話題のニセGTRは、このクーガの ボディにR35 GT-R風の外装を被せたレプリカ。
- フロントマスク
- サイドのライン
- リアの丸いテールランプ
- 4本出しマフラー風のバンパー
など、パッと見は本物のR35をかなり意識したデザインになっています。
ただし、元のクーガ自体がGT-Rよりひと回り小さいので、
よく見ると「ちょっと縮んだGT-R?」という、不思議なバランスになっています。
価格は7500ユーロ(約140万円)
ドイツの中古車サイトでは、
7500ユーロ(約140万円)
という値段で出品。
日本でGT-Rの中古車を探すと、
年式・状態にもよりますが 安くても数百万円〜1000万円超 が当たり前の世界。
それと比べると、
「GT-R風を味わえる“コスプレカー”としては、激安」
と言ってもいい価格帯です。
本物のR35 GT-Rってどんなクルマ?
せっかくなので、本物のR35 GT-Rがどれだけエグいクルマなのかも、ざっくり整理しておきます。
18年走り続けた“怪物”
- 初代R35登場:2007年
- 生産終了:2025年8月に最終車がラインオフ(約18年のロングライフ)
「誰でも、どこでも、どんな時でも最高のスーパーカーライフを楽しめる」
というコンセプトのもと作られた、日本が世界に誇るスーパーカーです。
エンジンと性能
R35 GT-Rの心臓部は、
- 3.8L V6 ツインターボ「VR38DETT」
- 初期モデルで480ps、後期では570ps、NISMOでは600psまでパワーアップ
- 0-100km/h加速は約3秒前後というモンスタースペック
- 駆動方式は高性能な4WD
エンジンは熟練工「匠」が1基ずつ手組みし、
世界中のサーキットでタイムアタックを繰り返して磨かれてきた、まさに化け物マシンです。
新車価格と中古価格
- 日本登場時の価格:777万円(ベースグレード)と言われていました
- 最終モデルや特別仕様は、新車で2000万円近いものも
- 中古市場でも、状態がいい個体は1000万円オーバーがゴロゴロ
この価格帯を知っている人からすると、
「GT-Rが140万円」は、どう考えても“何かある”と分かります。
ニセGTR vs 本物GT-R:分かりやすく比較してみた
ここからは、クルマに詳しくない人でもイメージしやすいように、
ニセGTR(クーガベース)と本物R35を、ざっくり比べてみます。
① エンジン性能の違い
ニセGTR(フォード・クーガ V6)
- 排気量:2.5L V6(自然吸気)
- 出力:170〜200ps前後
- 0-100km/h:8秒台
- 駆動方式:FF(前輪駆動)
本物R35 GT-R
- 排気量:3.8L V6 ツインターボ
- 出力:480〜570ps(NISMOは600ps)
- 0-100km/h:約3秒前後
- 駆動方式:高性能4WD
ざっくり言えば、
ニセGTR:普通の速めのスポーツクーペ
本物GT-R:ジェットコースター並みの加速をする怪物
というレベルの差があります。
信号ダッシュで全開にしたら、
スタート直後から 景色の流れ方がまるで別世界 です。
② 駆動方式と走りのキャラクター
- ニセGTR(クーガ):前輪で引っ張るFF
- 本物GT-R:電子制御付きの本格4WD
FFは普段使いではとても扱いやすいですが、
ハイパワーになればなるほど、トラクションの限界が先に来ます。
GT-Rの4WDは、前後の駆動力を細かくコントロールしながら、
「誰が乗っても速く、安全に走れる」ように作られているのがポイントです。
見た目が似ていても、
コーナーでの安定感・ブレーキ・加速のつながりは、完全に別物と考えておきましょう。
③ ボディサイズと存在感
サイズ感も比べてみます。
フォード・クーガ(クーペ)
- 全長:約4.7m
- 全幅:約1.77〜1.78m
- 全高:約1.3m台
R35 GT-R
- 全長:約4.7〜4.8m
- 全幅:約1.9m弱
- 全高:約1.37m前後
数字だけ見ると、全長は近いのですが、
GT-Rのほうが“横にグッと張り出した”ワイドボディ。
そこにレプリカボディをかぶせているので、
「写真だとGT-Rっぽいけど、よく見るとなんか細い…」
という、ちょっと不思議なスタイルになっています。
なぜ人は「ニセGTR」に惹かれてしまうのか?
ここからは、少し心理的な話です。
「本物は手が届かない」からこそ、レプリカに夢を見る
本物のR35 GT-Rは、新車でも中古でも簡単に手が出る価格ではありません。
- 車両代
- 維持費(税金・保険・タイヤ・ブレーキなど)
- 燃料代(ハイオク+大排気量)
などを考えると、
「欲しいけど、現実的には無理」 と諦める人がほとんどです。
そこで出てくるのが、
「せめて見た目だけでもGT-Rっぽいクルマに乗りたい」
という願望。
それに応える形で、各国には
- GT-R風のエアロキット
- 別の車種をベースにしたフルコンバージョン
- そもそも全然違う車から作ったレプリカ
などが存在します。
今回のニセGTRも、
そんな「夢を形にした一台」と言えるかもしれません。
でもやっぱり「偽物」とバレるポイント
ただし、クルマ好きの目はごまかせません。
- ホイールベース(前後タイヤの間隔)の違い
- ピラーの太さ・窓の形
- 室内のスイッチ類・メーターのデザイン
- エンジン音や加速感
ちょっと詳しい人なら、一瞬で「ん? これ本物じゃないな」と気づきます。
いわばこれは、
GT-Rの“コスプレ”をしたクーガ
です。
それを分かったうえで、
- 「ネタとして面白い」
- 「140万円でこの見た目ならアリかも」
と楽しめる人には、ある意味最高のおもちゃかもしれません。
もしニセGTRを買うとしたら…どんなリスクがある?
※ここはあくまで一般論であり、
特定車両の購入を推奨したり、法的助言をするものではありません。
登録や保険の問題
- 見た目はGT-Rでも、書類上はフォード・クーガ
- 改造内容によっては、車検や登録で引っかかる可能性
- 保険会社も、実態と書類が合わないとトラブルのもと
特に日本に輸入する場合、
構造変更や陸運局での審査など、かなりハードルが高くなります。
期待と現実のギャップ
- 見た目はスーパーカー
- 中身はあくまで「ちょっと速いクーペ」
として割り切れないと、
「思ってたのと違う…」
というガッカリにつながります。
街で「うわ、GT-Rだ!」とテンションを上げて近づいてきた人に、
「いや、実は中身クーガでさ…」と毎回説明するのも、
人によってはちょっと気まずいかもしれません。
売るときの難しさ
ニセGTRに限らず、重度のカスタムカー全般に言えることですが、
- 好みが合う人にしか刺さらない
- ノーマル車より値段が付きにくい
- 「ネタ」としての価値が評価されるかは運しだい
というデメリットもあります。
それでもニセGTRが教えてくれるもの
このニュースを見て、
「なんだ偽物かよ」と笑って終わらせることもできます。
でも、別の見方をすれば、
「それだけGT-Rというクルマが世界中の人に愛されている」
という証拠でもあります。
- 本物は高くて買えない
- でも、どうしてもあのスタイルに乗りたい
- 自分なりの“GT-Rっぽい何か”を作ってしまう
そこには、ちょっといびつだけど、確かな「愛」があります。
まとめ
ここまでをざっくりまとめると――
そして最後に、この記事のテーマでもある
「どっちが正解?」
という問い。
結論は、かなり身も蓋もないですが、
「自分が分かったうえで楽しめるなら、どっちも正解」
だと思います。
本気でこのニセGTRを買ったなら
もしあなたが本気でこのニセGTRを買ったとします。
- 140万円でGT-R“風”の見た目を手に入れる
- 信号待ちで子どもに「GT-Rだー!」と指をさされる
- でも全開加速した瞬間、隣の本物GT-Rに一瞬で点にされる
そして家に帰って一言。
「やっぱり中身までGT-Rにはなれなかったわ…」
と苦笑いしながら、
いつもの軽自動車でスーパーに買い物に出かける――
結局、今日も生活感まみれ。
一番リアルなのは、ニセGTRでも本物でもなく「食費のレシート」だった。

