フリースタイルスキー・モーグル日本代表のエース、堀島行真(ほりしま・いくま)選手。
世界選手権で何度も金メダルを取り、北京オリンピックでも銅メダルを獲得した、日本モーグル界の中心人物です。
そんな堀島選手の代名詞になりつつあるのが、
コーク1440(フォーティーンフォーティ)
という超大技。
2025年の世界選手権や、その後のワールドカップで何度も成功させ、解説者や実況がそろって「エグい」「えぐすぎる」と叫ぶレベルのインパクトを残しています。
とはいえ、
- 「1440ってそもそも何回転?」
- 「コークって、バック宙と何が違うの?」
- 「モーグルってターンとスピードも採点されるはずだけど、エアの点にどれくらい影響あるの?」
と、細かいところはよくわからない…という人も多いはずです。
そこでこの記事では、
- コーク1440とはどんな技なのか(回転数・名前の意味)
- なぜ「エグい」と言われるほど難しいのか
- モーグルの採点と、コーク1440がスコアに与える影響
- 堀島行真がどうやってこの技を武器にしたのか
- 観戦がもっと楽しくなる「コーク1440のチェックポイント」
を解説していきます。
コーク1440とは?数字と名前の意味をやさしく整理
「1440」は“4回転”を意味する数字
まず、「1440」という数字の意味から。
スキーやスノーボードの世界では、
- 1回転:360度
- 2回転:720度
- 3回転:1080度
- 4回転:1440度
という考え方をします。
つまり、
1440 = 360度 × 4回 = 空中で4回転
という意味です。
今までのモーグルでは、3回転(1080)でも相当な大技でした。
堀島選手は、そこからさらに1回転増やし、「1440」を試合で入れてきたわけです。
「コーク」は“斜め軸で回る”回転のスタイル
次に「コーク」という言葉。
普通の後方宙返り(バックフリップ)は、
- 頭から足までの軸がまっすぐ
- その軸を中心に後ろ向きにくるっと回る
シンプルな回転です。
一方、コークは
体の軸を少し斜めに倒した状態で回転する“ひねり系”の回転
です。
ざっくりイメージすると、
- 真後ろにぐるっと回るのが「バックフリップ」
- ちょっと横に倒れたままクルクル回るのが「コーク」
という感じですね。
堀島選手のコーク1440は、
斜め軸(コーク軸)で、4回ひねりながら回る
という、見ているだけで目が回りそうな技です。
なぜコーク1440は「エグい」ほど難しいのか
そもそも成功者がほとんどいないレベルの大技
スポーツ雑誌『Number』などによると、
モーグルの試合でコーク1440を決めた選手は、世界的に見てもごく少数。しかも「たまに成功する程度」で、安定して決め続けられる選手はほとんどいません。
そんな中で堀島選手は、
- ワールドカップの開幕戦からコーク1440を入れ始め
- 世界選手権やルカのワールドカップなど、大事な試合で何度も成功
- 世界トップレベルの試合で“武器”として使えるレベルにまで引き上げた
と言われています。
「技自体が難しい」だけでなく、
「試合で、しかも何度も決める」という部分まで含めて、エグいレベル
というわけです。
4回転なのに“時間が短い”
フリースタイルスキーのビッグエアやスロープスタイルなら、
大きなジャンプ台から高く飛び出せるので、空中にいられる時間も長くなります。
しかしモーグルでは、
- コブの並んだ急斜面の途中にジャンプ台がある
- コース全体のスピードも重要なので、あまり大きく飛びすぎると時間ロスになる
という制約があります。
つまり、
「空中にいられる時間は、他の種目より短いのに、4回もひねる」
必要があるわけです。
これはシンプルに、かなり無茶なチャレンジです。
着地も「斜面の途中」という過酷さ
そして忘れてはいけないのが「着地」。
モーグルの着地は、
- ただの平らな面ではなく
- その先にもコブが続いている急斜面
です。
コーク1440は、回転数が多いぶん、
- 少しでも回転が足りない
- または、少し回りすぎる
と、そのまま転倒につながります。
しかも、
着地に失敗すると、そのあとすぐコブに突っ込んでいく
ので、ケガのリスクもかなり高いです。
だからこそ、
- 高い回転数
- 斜め軸
- 短い滞空時間
- 急斜面への着地
という条件が全部そろっているコーク1440は、
「成功するだけですごい」
「試合でバンバン決めてくるのは“エグい”」
と言われるわけですね。
モーグルの採点ルールをかんたんにおさらい
「コーク1440がすごいのはわかったけど、実際何点くらいプラスになるの?」
と気になる人もいると思います。
ここで一度、モーグルの採点ルールを整理しておきましょう。
モーグルの得点は「ターン」「エア」「スピード」
国際スキー連盟(FIS)や記事などの説明を総合すると、モーグルの採点はざっくりこうなっています。
- ターン(コブの滑り・ライン取りなど):60点満点
- エア(2回のジャンプの技):20点満点
- スピード(タイム):20点満点
合計100点満点のイメージです。
つまり、
一番大事なのは「ターン」だけど、
「エア」と「スピード」もそれぞれ2割を占める
というバランスです。
エアの中で見られているポイント
エアは、ただ「回っていればOK」というわけではありません。
FISやオリンピックの説明などでは、モーグルのエアは次のような点で評価されるとされています。
- 技の 難易度(回転数やひねりの数、姿勢の変化など)
- ジャンプの 高さ
- 空中での 安定感(ブレの少なさ・美しさ)
- 着地の正確さ(前後左右のブレ、流れの良さ)
- 2つのエア全体の 流れや多様性
コーク1440は、もちろん「難易度」の部分で強烈にアピールしますが、
- 高さ
- 安定感
- 着地
- 流れ
も同時にこなさないと、高得点にはなりません。
「とりあえず4回転して転びました」では意味がない
ということですね。
コーク1440がスコアに与える影響|何がそんなにおいしいのか?
2〜3点の“アドバンテージ”になる武器
トヨタのスポーツサイトのインタビューで、堀島選手はコーク1440について、
- この技をやらない選手に比べて、エアの点数が「2〜3点」上乗せされる感覚がある
- そのぶんターンやスピードを少し抑えるなど、駆け引きの幅が広がる
といった趣旨の話をしています。
これはかなり大きな差です。
モーグルでは、トップ選手同士の争いになると、
1点差、0.数点差で順位が入れ替わる
ことも珍しくありません。
その中で、
「同じようなターンとスピードなら、1440を入れた選手が上に来やすい」
という状態を作れるのは、かなり強力な武器と言えます。
エアで“貯金”を作って、他を安定寄りに
堀島選手は同じインタビューの中で、
「エアでしっかり得点を稼げれば、ターンやスピードを少し抑えるという駆け引きができる」
という考え方も話しています。
たとえば、
- 無理にギリギリのスピードを攻めなくてもいい
- ターンもリスクの高いラインを選ばず、安定重視にできる
といった「安全側の選択」をしながら、
トータルの点数ではライバルより上に行くことができる、という戦略です。
逆にいうと、
「エアに自信がない選手は、ターンとスピードで勝負するしかない」
ので、どうしてもリスクが大きくなります。
コーク1440は、
- 単に派手で見栄えがいいだけでなく
- 「試合運びそのものを変えられる武器」
でもあるわけです。
実際の大会でどう使われているのか|具体例でイメージしよう
世界選手権での金メダルを呼び込んだ1440
2025年のフリースタイルスキー&スノーボード世界選手権(エンガディン)では、
堀島選手がモーグルで8年ぶりの世界王者に返り咲きました。
そのときも、
- 上のエア(1つ目のジャンプ)で別の高難度技
- 下のエア(2つ目のジャンプ)でコーク1440
という構成で、大きな得点をたたき出しています。
FISの動画タイトルにも「massive 1440」と強調されていて、
彼の代名詞として世界中のファンに認識されるようになりました。
ルカ(フィンランド)でのシーズン開幕戦
2025/26シーズンのワールドカップ開幕戦(フィンランド・ルカ)でも、
堀島選手はコーク1440を決めて優勝しています。
FISのレポートによると、
- 上のエアで「ダブルフル」(2回ひねりの前方宙返り系の大技)
- 下のエアで「巨大なコーク1440」
- スコアは83.48点で優勝
という内容でした。
ここからも、
「コーク1440を下のエアに入れる」
「上のエアも高難度技でまとめる」
という構成が、今の堀島選手の“必勝パターン”になっているのがわかります。
どうやってコーク1440を身につけたのか
ノルウェー移住と「2年計画」のチャレンジ
日本のテレビやドキュメンタリー番組の取材によると、
堀島選手はこのコーク1440を身につけるために、
- 2年前からノルウェーを拠点に生活
- 世界トップレベルの練習環境で、大技の習得に集中してきた
という「2カ年計画」で取り組んできたと紹介されています。
単に思いつきでやり始めたわけではなく、
「次の世界選手権、そしてミラノ・コルティナ五輪で金メダルを取るためのプロジェクト」
として、シーズンをまたいで準備してきたわけです。
オフシーズンに「100回成功」を目標に
トヨタの特集記事では、
オフシーズンの練習で「コーク1440を100回成功させる」という目標を立てていたことも紹介されています。
- 最初はなかなか成功率が上がらない
- それでも試合が始まるまでに、成功率を少しずつ上げていった
- シーズンが始まってからも、失敗と成功をくり返しながら完成度を高めていった
という“積み上げ型”のチャレンジでした。
「世界選手権でいきなり決まった」
「天才だからできた」
のではなく、
「何十回、何百回というトライの積み重ねの結果」
ということが、よくわかります。
技術的に見る「コーク1440」のポイント(初心者向けイメージ)
ここからは、少しだけ技術的な話を、
できるだけシンプルなイメージで説明してみます。
スタート時点で“勝負が決まる”テイクオフ
モーグルのエアに関する研究では、
- テイクオフ(踏み切り)の姿勢とタイミングが、
難易度の高い技ほど重要になる
と指摘されています。
コーク1440のような大技では、
- ジャンプ台に入る前のスピード
- 踏み切る瞬間の体の向き・姿勢
- 上半身と下半身の「ひねり」のタイミング
がほんの少しズレただけで、
- 回転不足
- 回りすぎ
- 着地でバランスを崩す
につながります。
これは、野球でいうと
「投げた瞬間の指のかかり」で球の行き先がほぼ決まる
のと同じような世界です。
空中では「回しているようで、実は“止めて”いる」
4回転もしていると、
- とにかく全力で回している
ように見えますが、
トップ選手ほど、実は「回転をコントロールしている」と言われます。
- 最初の1〜2回転でしっかり回転スピードを作る
- 空中の中盤は“回しすぎないように”調整
- 最後の0.何回転かでピタッと板を揃えて着地
という流れです。
例えるなら、
きつく回したコマを、最後に指でちょんと止める
ようなイメージですね。
着地は「足だけ」じゃなく、全身で受ける
モーグルのエア研究では、
高難度技の選手ほど「着地のときに体をうまく丸めて、衝撃を全身で受けている」という特徴があるとされています。
堀島選手の着地をスローで見ると、
- 板が斜面と平行に近い角度でピタッとつく
- ひざと股関節(腰)をうまく曲げて衝撃を吸収
- 上半身はあまりブレず、そのまま次のコブへ入っていく
という「教科書のような着地」です。
「ふつうなら1回転するだけで精一杯の高さで、4回転して、しかもその着地」
だからこそ、エグいわけですね。
観戦がもっと楽しくなる「コーク1440のチェックポイント」
最後に、テレビや配信でモーグルを見るときに、
「ここを見ておくと、コーク1440のすごさがわかりやすい」
というポイントを整理しておきます。
上のエアとの“セット”で見る
堀島選手は、多くの場合、
- 上のエア:ダブルフルなどの高難度技
- 下のエア:コーク1440
というセットで構成しています。
なので、
- 最初のジャンプでどんな技をやったか
- そのあと、どれくらいスピードを落とさずにコブセクションをこなしたか
- 最後のジャンプで1440をどれくらい高さ・キレで決めてきたか
という「流れ」で見ると、点数のつき方がイメージしやすくなります。
空中の「軸のブレ」に注目
スロー映像が出たときは、ぜひ
「回転する軸が、どれくらいまっすぐ(斜めだけど一定)保たれているか」
を見てみてください。
- 回るたびに軸がズレていく選手
- 最初から最後まで、同じ軸でくるくる回っている選手
では、見た目の美しさが全然違います。
堀島選手の場合、この軸の安定感がとても高いので、
見慣れてくると「他の選手との差」がはっきりわかってきます。
着地直後の“次の一歩”
着地の瞬間だけでなく、
「板がついてから、1〜2コブ目の動き」
もチェックしてみてください。
- 着地のあとすぐ、ひざがスムーズにコブを吸収しているか
- 上半身がグラッと前後左右にブレていないか
- スピードが落ちすぎていないか
ここまで美しくまとまっていると、
「エアの完成度」として高く評価されます。
まとめ
この記事では、
「堀島行真のコーク1440がエグい」と言われる理由
を、初心者向けに整理してきました。
おさらいすると…
今後、ミラノ・コルティナ五輪に向けて、
堀島選手がどんな場面でコーク1440を出してくるのか。
- 予選から攻めるのか
- 決勝のラスト1本にだけ入れてくるのか
- 雪質やライバルの出来によって、技構成をどう変えてくるのか
そういった「駆け引き」まで想像しながら見ると、
モーグル観戦がぐっとおもしろくなります。
テレビで「1440」という言葉が出てきたら、
ぜひこの記事で紹介したポイントを思い出しながら、じっくり滑りを眺めてみてください。
「エグい」と言われる理由が、自分の目でもはっきり見えてくるはずです。





