若い世代を中心に広がってきた「退職代行サービス」。
その中でも、短期間で「業界最大手」と言われるまで急成長したのが、退職代行サービス「モームリ」です。
ところが2025年、モームリの運営会社を巡って、
- 社長個人へのパワハラ疑惑報道
- 退職代行ビジネスに関する非弁行為(弁護士法違反)の疑いと家宅捜索
- 元社員に対する2200万円超の損害賠償請求訴訟
といったニュースが次々と報じられ、大きな注目を集めています。
この記事では、あくまで公に報道されている内容をもとに、
- 何が起きていると言われているのか
- 法律的にはどんなポイントが問題になっているのか
- 私たち「働く側」「会社側」はそこから何を学べるのか
を整理していきます。
※この記事の内容は、2026年2月3日時点での各種報道をもとにまとめたものです。
捜査・裁判は進行中であり、「事実かどうか」の最終的な判断は、今後の司法手続きによって決まっていきます。
ここでは、「~と報じられている」「~と主張している」レベルの話として読んでください。
退職代行モームリと谷本慎二社長とは?
モームリとはどんなサービス?
退職代行モームリは、依頼者本人の代わりに会社へ電話などで退職の意思を伝え、
有給休暇の扱いや貸与品の返却など、退職に関わる事務をサポートするサービスです。
特徴としてよく挙げられていたのは、
- LINEで相談・申し込みができる
- 24時間365日対応
- 「退職率100%」「累計4万件以上の退職成立」をうたう実績アピール
などで、特に20〜30代の若い世代から支持を集め、「退職代行といえばモームリ」というイメージを築いていました。
谷本慎二社長のプロフィール
インタビュー記事などによると、谷本慎二氏は1989年生まれ。
神戸学院大学を卒業後、東証一部上場企業で接客サービス業に従事し、
エリアマネージャーとして新店舗立ち上げなどを経験したのち、2021年に退職。
その後、東京都内で株式会社アルバトロスを設立し、
2022年3月に退職代行「モームリ」をスタートさせました。
モームリは、テレビ番組やラジオ、Webメディアなどの取材にも数多く登場し、
- 「働く人と会社の関係を対等にしたい」
- 「退職に悩む人の駆け込み寺になりたい」
といったメッセージを繰り返し発信してきたとされています。
そうした「働く人を守る存在」というイメージが広がっていた中で、今回の一連の報道が出てきたため、多くの人にとって衝撃が大きかったわけです。
パワハラ疑惑報道 ― 何が告発されたのか?
週刊誌が報じた「パワハラ疑惑」
2025年4月16日、週刊誌系のオンラインメディアが、
「退職代行モームリの社長にパワハラ疑惑がある」という趣旨の記事を配信しました。
そこでは、複数の元従業員が
- 毎日のように社員全員の前で厳しく叱責された
- 精神的に追い詰められて動けなくなった
といった内容を証言していると伝えられています。
また、他のビジネスメディアの記事では、
「外見をからかうような発言」や「度を越えた叱責」が、
日常的に行われていたと元社員が語る様子も紹介されています。
ここで重要なのは、
これらはあくまで元従業員側の証言をもとにした「疑惑」の段階であり、
裁判で「事実認定」されたわけではない
という点です。
記事によっては、谷本社長や会社側にも取材を行い、
「パワハラに該当する認識はない」「適切な指導の範囲だ」といった趣旨の反論を掲載しているものもあります(細かな内容は記事ごとに異なります)。
そもそも「パワハラ」とは何か?
この疑惑を理解するためには、「法律上のパワハラ」のイメージを持っておくと分かりやすいです。
厚生労働省などの資料では、職場のパワハラとは、ざっくりいうと以下の3つをすべて満たす行為だと説明されています。
- 優越的な関係を背景とした言動
(上司と部下など、言い返しづらい関係) - 業務上必要な範囲を超えている
(指導というより「人格攻撃」「必要以上の叱責」など) - その結果として働く環境が害される
(出社できなくなる、体調を崩すなど)
また、2020年から大企業、2022年から中小企業にも、
「パワハラ防止措置をとること」が義務とされました。
つまり企業には、
- 就業規則等で「パワハラはダメ」と明確に示す
- 相談窓口や調査体制を整える
- 事案が発生したら、事実確認や再発防止策をとる
といった取り組みを行う責任があります。
今回のモームリのケースでは、
「どこまでが指導で、どこからがパワハラか」という線引きや、
会社としての対応が適切だったかどうかが、今後もし裁判などになれば争点になる可能性があります。
非弁行為報道と家宅捜索 ― 退職代行ビジネスの“グレーゾーン”
警視庁による家宅捜索
2025年10月22日、警視庁は退職代行モームリを運営する株式会社アルバトロス本社や、
提携弁護士が所属する法律事務所などに、弁護士法違反(非弁行為・非弁提携)の疑いで家宅捜索を行いました。
報道によると、
- 退職希望者を提携弁護士に紹介し
- その見返りとして紹介料を受け取っていた疑いがある
とされています。
また、退職代行の現場で、
会社側と「退職条件」などについて実質的な交渉を行っていた可能性がある、
との指摘もなされています。
ここでよく誤解されがちなのが、
退職代行サービスそのものが違法とされたわけではない
という点です。
問題になっているのは、そのやり方が法律に触れていなかったかどうか、です。
「非弁行為」「非弁提携」とは?
弁護士法第72条では、簡単に言うと、
弁護士ではない人が、お金をもらって法律に関する交渉や手続きの代理をしてはいけない
と規定されています。
具体的には、
- 残業代の支払いを求めて会社と交渉する
- 退職日や退職金、有給消化などをめぐって条件交渉をする
といった「法律的な交渉」は、弁護士や労働組合だけが行ってよい、という考え方です。
また、弁護士法第27条などでは、
特定の弁護士に顧客を紹介し、その見返りとして「紹介料」などを受け取る行為
も原則として禁止されており、これがいわゆる**「非弁提携」**と呼ばれます。
退職代行モームリのケースでは、
- 退職希望者を提携弁護士へ紹介
- その対価として報酬を受け取っていた疑い
- 退職条件等の交渉も行っていた可能性
が捜査の対象になっているとされています。
ただし、現時点では捜査段階であり、
起訴・有罪判決といった「最終的な結論」が出たという報道は確認できません(2026年2月3日時点)。
2200万円超の損害賠償訴訟 ― 何が争われているのか?
元社員2名に対する高額訴訟
2025年10月、公器メディアの「coki」やビジネス誌系のWebメディアが、
アルバトロス社が、元社員2名に対して2200万円超の損害賠償を求める訴訟を起こした
と報じました。
これらの記事によると、
- 元社員は、モームリの非弁行為の疑いや社内実態について内部告発を行った
- その中で、生配信中などに「パワハラがあった」と発言した
- アルバトロス社は、その発言によって名誉が傷つけられたとして、2200万円超の賠償を請求
と説明されています。
元社員側の代理人弁護士は、この訴訟について
- 「実際には弁護士法違反の疑いがあり、それを公益通報したに過ぎない」
- 「それにもかかわらず高額の損害賠償を求めるのは、“口封じ”のための訴訟=スラップ訴訟ではないか」
と主張していると報じられています。
「スラップ訴訟」とは?
「スラップ訴訟(SLAPP)」とは、
政治家や企業など、力のある側が、批判者・内部告発者・ジャーナリストなどに対して、
高額な損害賠償請求訴訟を起こすことで、発言を萎縮させ、黙らせることを目的とした裁判
を指す言葉です。
ポイントは、
- 本当に損害を回復したいからというより
- 「訴えられるのが怖いから、もう何も言わないでおこう」と思わせる効果を狙っている
と評価されるようなケースを問題視する概念だということです。
今回のモームリの訴訟が本当にスラップ訴訟に当たるのかどうかは、
最終的には裁判所の判断や、より詳しい証拠関係に基づいて評価されるべき話であり、
現時点で断定することはできません。
ただ、公益通報者を守る「公益通報者保護法」では、
- 公益通報を理由とした解雇・不利益取扱いは禁止
- 事業者が公益通報者に損害賠償請求をすることも禁止
とされており、近年は報復行為に刑事罰を導入する方向で法改正も進んでいます。
その意味で、この訴訟がどのような判断になるかは、
「内部告発者をどこまで守るのか」という日本社会全体の課題とも関わる、
重要なケースだと見る専門家もいます。
一連の報道から見える3つの争点
ここまでの内容を、「何が争点になっているのか」という観点から整理してみます。
争点① 社内のハラスメント体質の有無
- 元社員は「日常的な叱責や人格攻撃があった」と証言
- 一部メディアは「ハラスメント三昧」と強い表現で報じている
- 一方で、会社側は「指導の範囲内」などと反論しているとされる
ここでは、
- 具体的にどんな言動が、どの程度の頻度で行われていたのか
- 会社としてハラスメント防止策や相談窓口は用意されていたのか
- 問題が指摘された後の対応は適切だったか
といった点が、今後も注目されます。
争点② 退職代行ビジネスの「合法ライン」を守っていたか
- 依頼者を弁護士に紹介し、紹介料を受け取った疑い
- 退職日や有給の扱いなどについて、実質的な「交渉」をしていた可能性
が捜査の対象とされています。
ここでは、
- どこまでが「退職意思の伝達」で、どこからが「交渉」なのか
- 弁護士への紹介と紹介料のやり取りがどういうスキームだったのか
など、退職代行ビジネス全体が抱えるグレーゾーンが改めて浮き彫りになっています。
争点③ 内部告発者への対応と2200万円訴訟の妥当性
- 元社員は「弁護士法違反の疑い」を内部告発したと主張
- 会社側は、その発言で名誉が傷つけられたとして高額訴訟
- 代理人弁護士は「スラップ訴訟だ」と批判
という構図です。
ここで焦点になるのは、
- その発言が「公益通報」と認められる範囲のものか
- 金額や訴訟の内容が、正当な賠償請求として妥当なのか
- 会社側に「報復目的」があったと評価されるのかどうか
といった点でしょう。
私たちが学べること(利用者・会社それぞれの視点)
最後に、この一連の問題から「一般の私たちが学べること」を整理しておきます。
退職代行サービスを利用する側として
退職代行自体は、使い方によっては本当に心強いサービスです。
しかし、今回のケースからは、次のようなポイントが見えてきます。
① 運営主体を確認する
- 弁護士が運営する退職代行
- 労働組合が運営する退職代行
- 一般企業が運営する退職代行
では、法律的にできること・できないことが異なります。
弁護士や労働組合が運営するサービスの方が、
非弁行為に当たるリスクは相対的に低いと解説する弁護士もいます。
② 「過剰なサービス」をうたっていないか
- 「有給を全額取らせます」「退職金を取ってきます」といった、
交渉結果を約束するような宣伝 - 「弁護士監修」「弁護士提携」を過度にアピールしているが、
仕組みがよく分からない
といった場合は、一度立ち止まって、
「ここまでやると非弁行為にならないか?」という視点で考えた方が安全です。
③ 口コミ・報道もチェックする
- 実際に利用した人の声
- 今回のような法的トラブルの有無
も含めて、複数の情報源から企業をチェックする習慣が大切です。
会社側が学ぶべきこと
① パワハラ防止は「やっているつもり」では足りない
- 方針の明文化
- 相談窓口の設置・周知
- 管理職への教育・研修
などをきちんと整備していないと、
「トップや管理職の感覚」と「現場の受け止め方」のギャップが大きくなり、
今回のような深刻な告発につながる可能性があります。
② 内部告発・内部通報への向き合い方
公益通報者保護法の改正によって、
- 公益通報を理由とした解雇・不利益取扱いは原則禁止
- 通報者への報復人事に刑事罰が科される方向
へとルールが強化されています。
内部告発があったときに、
- 「裏切り者」と見なして排除する
- 高額訴訟で黙らせようとする
といった発想は、法的リスクが高まっているだけでなく、
社会的な信用を一気に失う時代になっています。
③ 「社会的ミッション」と実態のギャップに注意
モームリは、
- 「働く人を守る」
- 「退職の駆け込み寺」
といった社会的メッセージを打ち出してきたサービスです。
だからこそ、
- 社内の労働環境やハラスメント対策
- 内部告発への対応
- 法令遵守の姿勢
に大きな矛盾があると疑われたときのダメージは非常に大きくなります。
これはモームリに限らず、
「社会貢献」「人権」「コンプライアンス」などを掲げるすべての企業に共通する教訓と言えるでしょう。
おわりに
ここまで見てきたように、
- パワハラ疑惑
- 非弁行為の疑い
- 2200万円超の損害賠償訴訟
という3つのテーマは、それぞれが独立しているようでいて、
実は「働く人を守る」と掲げていた企業の内側で何が起きていたのか
という一本の線でつながっています。
ただし、繰り返しになりますが、
● 捜査は進行中であり、弁護士法違反が認定されるかどうかはこれから
● パワハラの有無や程度も、裁判等で事実認定されていく段階
● 2200万円訴訟についても、最終的な司法判断はまだ出ていない
という「未確定の部分」が多いのも事実です。
そのため、私たちができるのは、
- 感情的な「〇〇は絶対に悪だ」と決めつける前に、
複数の情報源や専門家の解説を読み比べること - 同時に、自分の職場やビジネスでも、
同じような問題が起きないように何ができるかを考えること
この2つではないでしょうか。
退職代行も、内部告発も、パワハラ防止も、
すべては「誰かが一方的に損をしない働き方」をつくるための仕組みです。
モームリを巡る一連の報道は、
その仕組みをどう運用すべきかを私たちに問い直している――
そう捉えると、このニュースも「他人事」ではなくなってくるはずです。


