スキージャンプ日本代表として世界を飛び回りながら、自分の会社も経営している——。
そんなちょっと変わった肩書きを持つのが、中村直幹さんです。
彼は、ジャンプ台から空を飛ぶアスリートでありながら、自分のチームでもある会社「フライングラボラトリー(FlyingLaboratory)」の代表でもあります。
なぜ、彼はあえて実業団チームに所属せず、自分で会社をつくる道を選んだのか?
そして「フライングラボラトリー」とは、いったいどんなチーム・どんな会社なのでしょうか。
この記事では、
- 中村直幹さんが「空飛ぶ起業家」と呼ばれる理由
- フライングラボラトリー設立の背景と、どんなことをしている会社なのか
- これまで・現在の所属チームまとめ
- 私たちがそこから学べる「働き方・生き方のヒント」
を解説していきます。
中村直幹ってどんな人?
まずは基本プロフィールからざっくり整理しておきます。
- 1996年9月19日生まれ
- 北海道札幌市出身(大倉山ジャンプ競技場の近くで育つ)
- 身長175cm・体重63kg前後のスラっとした体格
- 小学5年生でスキージャンプを始める
- 中学3年で全日本ジュニア代表に選出
- 高校・大学とジャンプに打ち込み、大学1年でワールドカップに初出場
現在は、自分が代表を務める「Flying Laboratory SC」というチームに所属し、ワールドカップなど世界の舞台で戦っている現役ジャンパーです。
成績も一流で、
- 2017年アジア冬季競技大会 個人・団体優勝
- 2017年冬季ユニバーシアードで金メダル
- 2022年北京オリンピック団体5位
- 2022–23シーズンにはワールドカップで初の表彰台
など、国際大会でもしっかり結果を出し続けています。
これだけでも十分「トップアスリート」ですが、彼が注目されているのはそれだけではありません。
彼は 自分の会社をつくり、自分のチームを経営しながら競技を続けている という点で、かなり “異色” の存在なのです。
「空飛ぶ起業家」が生まれた背景
海外遠征で見た「世界の現実」
中村さんが「ただ飛ぶだけではイヤだ」と考え始めたきっかけは、高校生の頃の海外遠征だったと言われています。
東欧や中東など、これまで行ったことのない地域に遠征したとき、
- デコボコの道路
- 物乞いをする子どもたち
- 野犬が走り回る街中
- 内戦のニュースが流れる空港のテレビ
こうした光景を目の当たりにし、「自分は競技で遠征に来ているけれど、この世界の格差を見て見ぬふりでいいのか?」という違和感を強く持ったそうです。
この体験が、「自分が飛ぶ意味」を深く考えるきっかけになりました。
「なぜ自分は飛ぶのか?」という問い
その後、大学ではデザインや建築を学びながら、経済や社会の仕組みにも関心を持つようになった中村さん。
勉強を続けるうちに、こんな問いが頭から離れなくなります。
「自分は、なぜスキージャンプをやっているんだろう?」
「遠くへ飛べればそれでいいのか?」
もちろん、「ジャンプが好きだから飛ぶ」というだけでも立派な理由です。
でも彼は、それだけでは満足できませんでした。
世界で見てきた 貧困・環境問題・戦争 などの現実を思い出しながら、
- スキージャンプを通じて、社会にどんな意味あることができるか
- 自分が飛ぶことを、誰かの幸せにつなげられないか
を真剣に考えるようになります。
この「飛ぶ理由を、自分の中でちゃんと定義したい」という思いが、後の起業につながっていきます。
実業団ではなく「自分の会社」を選んだ理由
日本のスキージャンプ選手の多くは、大企業や地元企業の 実業団チーム に所属します。
会社に所属することで、給料やサポートを受けながら競技に打ち込める、安定した道です。
でも中村さんは、大学卒業後、実業団チームからの誘いをあえて断り、自分でスポンサーを探す「フリー」の道 を選びました。
その理由として語られているのが、
- 企業に「所属」することへの違和感
- 「自分は何のために飛ぶのか」を、自分で決めたいという思い
- SDGsや環境問題など、社会課題への取り組みも自分の軸にしたい
といった点です。
こうして、彼は「企業に入る選手」ではなく、
“自分で会社をつくる選手” になる道 を選びました。
フライングラボラトリー設立の理由
2019年、「飛ぶ会社」を立ち上げる
2019年、中村さんは 「合同会社フライングラボラトリー」 を設立します。
会社名の「Flying(飛ぶ)」+「Laboratory(研究所・実験室)」には、
「スキージャンプを通じて、世界をもっと楽しくするための実験を続ける場所」
という意味合いが込められています。
しかもこの会社、単なる「個人事務所」ではありません。
スキージャンプという競技そのものを軸にしながら、SDGs(持続可能な開発目標) に取り組むことを前面に出しているのが、大きな特徴です。
目標は「世界で一番スポーツを楽しめる場所をつくる」
公式サイトによると、フライングラボラトリーの目的は、
「世界で一番スポーツを楽しめる場所をつくること」
と紹介されています。
とてもシンプルですが、よく考えるとすごい目標です。
- スポーツを見る側も、する側も、みんなが楽しい世界
- その楽しさを、次の世代にも残せるようにする
- そのために、環境問題や格差にも向き合う
「スポーツを楽しむこと」と「社会問題に向き合うこと」を、同じ線の上に乗せているのが、中村さんらしいところです。
SDGsとスキージャンプの組み合わせ
フライングラボラトリーは、「SDGsを意識し、持続可能な社会に貢献する」と明言しています。
ここで言うSDGsとは、
「貧困をなくす」「環境を守る」「誰一人取り残さない」 など、国連が決めた17の目標のことです。
一見すると、スキージャンプとSDGsは関係なさそうに見えますが、
中村さんは、
- 地球温暖化で雪が減ると、ジャンプ台も使えなくなる
- 雪は札幌にとって、とても大切な資源だ
- スポーツも、環境があってこそ続けられる
という視点で、環境問題についても積極的に発信しています。
「雪がなければ自分の競技も成り立たない。だからこそ雪を守ること、地球を守ることに取り組みたい」
——こうした考え方は、とてもわかりやすく、説得力がありますよね。
フライングラボラトリーは何をしている会社?
フライングラボラトリーの主な事業内容を、ざっくり整理するとこんな感じです。
- スキージャンプ選手のマネジメント
- オンラインコミュニティ運営
- グッズやチームウェアのオンライン販売
- 企業とのパートナーシップ・プロモーション
- SDGs関連の発信・イベント協力 など
ひとつずつ、わかりやすく見ていきましょう。
自分で自分をマネジメントする選手
普通の選手なら、所属する企業やマネジメント会社が、
- スポンサーとの契約
- メディア対応
- グッズ販売
などを行います。
しかし中村さんの場合は、自分が代表を務める会社が、
自分自身のマネジメントをしている という特殊な形です。
つまり、
- CEO(社長)として、チームや会社を運営する
- スキージャンパーとして、世界で戦う
という二つの役割を同時にこなしているわけです。
オンラインコミュニティ「FLYING LABORATORY」
フライングラボラトリーは、ファンや仲間とのオンラインコミュニティも運営しています。
ここでは、
- 中村さんの遠征の様子やトレーニングの様子をシェア
- スキージャンプのマニアックな話
- SDGsについて一緒に学ぶ「SDGs開発室」
- メンバー同士の交流・オンラインイベント
などが行われています。
ただ応援してもらうだけでなく、
「一緒に考え、一緒に行動する仲間(Fellow)」 を増やすことを重視しているのがポイントです。
グッズ・チームウェアの販売
公式サイトには、チームグッズやウェアを販売するオンラインショップも用意されています。
- 応援Tシャツ
- 帽子
- スウェットやパーカー
などを販売し、その売上がチームの活動資金の一部になっています。
これも、普通は企業が用意してくれる部分ですが、
中村さんのチームでは 自分たちでデザイン・販売まで行っている のが特徴です。
所属チームのこれまでと「Flying Laboratory SC」
記事タイトルにもある「所属チーム」についても整理しておきましょう。
学生時代〜代表入りまで
- 小・中学校では札幌の地元クラブでスキージャンプを続ける
- 高校はスキージャンプ強豪の東海大学付属第四高校(現・東海大学付属札幌高等学校)へ進学
- 大学は東海大学デザイン文化学科で学びながら競技を継続
- 大学1年時にワールドカップデビュー、その後全日本チーム入り
ここまでは、いわゆる「エリートアスリート」の王道コースです。
実業団ではなく、自分のチームをつくる
ところが大学卒業のタイミングで、
中村さんは実業団チームには所属せず、自分で会社とチームをつくる道を選びます。
現在、全日本スキー連盟の登録上の所属は、
Flying Laboratory SC
となっており、自身が代表を務める会社のチームとして、ワールドカップでも戦っています。
つまり、
- 選手としては「Flying Laboratory SC」所属
- 経営者としては「合同会社フライングラボラトリー」の代表
という二つの顔を持っている、ということですね。
拠点はドイツ・バイエルン州
近年は、ジャンプ台の多いドイツ・バイエルン州に拠点を移し、
日常的なトレーニングもヨーロッパでこなしています。
現地では、限られた予算の中で小型車を買い、
そこにギリギリまでスキー板を詰め込んで遠征に出かける——
そんなエピソードも紹介されており、「空飛ぶCEO」のリアルな生活感が伝わってきます。
「空飛ぶ起業家」としての働き方
ここまで読むと、中村さんがなぜ「空飛ぶ起業家」や「空飛ぶCEO」と呼ばれているのか、イメージが湧いてきたと思います。
まとめると、彼の働き方は次のような特徴があります。
- 選手と経営者の二刀流
- 日中はトレーニングや試合
- 合間には会社としての打ち合わせ・企画・発信
- 自分の飛び方も、自分のビジネスも、自分でデザインする
- どんなスポンサーと組むか
- どんなメッセージを発信するか
- どんな商品やサービスをつくるか
- 「社会課題」を自分の競技テーマとつなげる
- 雪を守る=環境を守る=自分の競技を守る
- スポーツのワクワクを、社会を良くする力に変える
多くのアスリートは、競技生活が終わってから「セカンドキャリア」を考えます。
でも中村さんは、現役のうちから「競技とビジネス」を同時に育てている という点で、かなり先を行く存在と言えるでしょう。
私たちが学べる「3つのポイント」
最後に、一般の私たちの働き方・生き方にも応用できそうなポイントを、3つにまとめてみます。
「自分はなぜこの仕事をするのか?」を言葉にしてみる
中村さんは、「自分はなぜ飛ぶのか?」という問いから逃げませんでした。
この姿勢は、どんな仕事をしていても参考になります。
- なぜ、この仕事をしているのか
- 誰の、どんな役に立ちたいのか
- 自分なりの「ゴール」は何なのか
一度、紙やメモアプリに書き出してみるだけでも、
仕事の見え方がかなり変わってくるはずです。
「好きなこと × 社会への貢献」で考えてみる
中村さんの例でいうと、
- 好きなこと:スキージャンプ
- 社会への貢献:SDGs・環境問題・格差の解消
この2つを掛け合わせることで、「フライングラボラトリー」という独自のポジション が生まれました。
私たちも、
- 自分の「好き」や「得意」は何か
- 社会や身近な人が困っていることは何か
を掛け算して考えると、今の仕事の中でも、新しい役割やサービスのヒントが見えてくるかもしれません。
働き方は「用意された枠」だけではない
日本では、
- 大学を出て企業に就職する
- 実業団に入って競技を続ける
といった “用意されたルート” に乗るのが当たり前、と考えがちです。
でも中村さんは、
「実業団に所属しないと競技を続けられない」
という “常識” を、一度疑ってみた
結果として、自分で会社をつくり、
自分でチームを運営しながら、世界の第一線で戦う道を選びました。
もちろん、誰もが同じことをする必要はありません。
ただ、「今ある選択肢だけが答えじゃない」と知っておくことは、
自分の人生を考えるうえで大きなヒントになります。
まとめ
改めて、この記事の内容を簡単にまとめます。
「飛ぶことを通じて、世界を少しでも良くしたい」
そんな思いでスキー板をはき、会社を動かし、仲間を集めているのが中村直幹さんです。
これからも、ジャンプ台の上からだけでなく、
ビジネスやSDGsの分野でも、どんな “飛び方” を見せてくれるのか。
まさに、「空飛ぶ起業家」から目が離せませんね。






