10月26日(日)京都・芝3000m、三冠最後の一冠「菊花賞」。
結論から言えば、4番人気のマイユニバース(武豊騎手)は13着。勝ったのはエネルジコ(C.ルメール騎手)でした。しかもルメールはこの勝利で“史上初の菊花賞3連覇”、さらに菊花賞通算5勝で武豊騎手の最多勝記録に並ぶという節目の日。レジェンド・武豊にとっては、数字の上でも、そして内容の上でも苦い一戦になりました。
レース直後、武豊騎手は「スタートが遅くなってしまった」と振り返っています。ここがすべての歯車の狂いの入り口でした。
では何が起き、どこで勝負が分かれたのか。「10の真実」として順番に整理してみましょう。
- 真実①:「スタートが全て」を痛感する一拍の遅れ
- 真実②:通過順「11-11-3-3」が示す“道中の負担”
- 真実③:今年のペースは“後傾”、エネルジコの型にドンピシャ
- 真実④:レジェンドの“記録の重み”――ルメールが武豊に並んだ日
- 真実⑤:「勝ち筋」を外すと、人気馬でも脆い
- 真実⑥:数字で読む今年の“難しさ”
- 真実⑦:マイユニバースの“良さ”は見せた――3~4角までの内容
- 真実⑧:京都・外回り3000mは「位置」と「コーナーワーク」の試験
- 真実⑨:レースの“顔”が変わった――ルメール時代の長距離像
- 真実⑩:それでも武豊は、まだ“最前線”にいる
- レースの事実関係
- もう少しだけ深掘り:なぜ“スタートの1拍”が3000mで命取り?
- 武豊とマイユニバースの“次”に向けた現実的アクション
- さいごに:プライドは砕けたのか
真実①:「スタートが全て」を痛感する一拍の遅れ
武豊騎手自身が明かしたように、発馬でわずかに遅れ。3000mという長丁場でも、スタートの1テンポはその後の隊列、脚の使いどころ、他馬との位置関係を全部ズラします。
人気馬の多くが前受け~中団で“脚温存→勝負どころへ”の理想形を描く中、後ろから押し上げざるを得なくなると、どこかで余計な“脚(体力)”を使うことになる。結果、最後の直線での伸びに響きます。
真実②:通過順「11-11-3-3」が示す“道中の負担”
公式の通過順を見ると、マイユニバースは1~2コーナー11番手→3~4コーナー3番手まで一気に押し上げています。これは“途中で脚を使った”サインで、上がり勝負が濃厚の今年の流れでは消耗が直線に出るパターン。最後は0.1~0.2秒の積み重ねが着順をガラリと変えます。
通過順:⑪⑪③③/最終13着。レース上がりは35.3(後半3F)。脚の使いどころの難しさがそのまま着順に表れました。
真実③:今年のペースは“後傾”、エネルジコの型にドンピシャ
ラップを見ると、序盤は落ち着き、後半に速くなる“後傾ラップ”。こういう時は道中で無駄なく運べた馬が有利になります。エネルジコは15→14→8→4番手と、直線に向けてムダのない“緩→締”の推移。この「後半勝負×機動力」の噛み合いが、勝ち時計3:04.0という好内容につながりました。
真実④:レジェンドの“記録の重み”――ルメールが武豊に並んだ日
優勝したルメールは史上初の菊花賞3連覇。そして通算5勝で武豊に並ぶ最多勝。数字は無情です。長年、G1の歴史を形作ってきた武豊の隣に、新たな“絶対値”が並んだ。その日に自分は人気馬で13着――結果以上に胸に刺さる現実だったはずです。
真実⑤:「勝ち筋」を外すと、人気馬でも脆い
3000mの菊花賞は、“バテ合い”ではなく“位置と加速の整合性”が問われるレースになりやすい。だからこそ序盤~中盤の無駄が命取り。今回は、スタートの遅れ→中盤での押し上げ→直線で甘くなるという典型的な“負け筋”にはまってしまった。人気や実力に関係なく、レースの定石から外れると脆いことを示す例です。
真実⑥:数字で読む今年の“難しさ”
払い戻しは単勝380円の堅めから、3連単14万0270円の中波乱。人気馬の中でも走れる馬と走れない馬の“差し合い”が生まれたレースでした。固いようで、隊列と上がり次第ではガラッと配当が跳ねる。長距離G1の特徴が数字に出ています。
真実⑦:マイユニバースの“良さ”は見せた――3~4角までの内容
厳しい結果の中にも、3~4コーナーで3番手まで上がった脚力は素質の証明。問題は**「使いどころ」。理想は“ロス少なく運んで最後に2段階で加速”。今回は中盤に“1段階目”を強いられた**分、ラストの余力が足りなくなりました。次に3000m前後を使うなら、スタート~1角の位置決めを最優先に組み立てたい。
真実⑧:京都・外回り3000mは「位置」と「コーナーワーク」の試験
京都外回りは3~4角の下り→直線の長い加速区間が特徴。“どの位置で下り坂に入れるか”が勝負の分かれ目です。後方から外々を回すと距離ロス+加速のタイミング遅れ。今回は押し上げで内を確保→前受けという器用さは出せたものの、そこまでの消耗が影響しました。
真実⑨:レースの“顔”が変わった――ルメール時代の長距離像
ここ3年の菊花賞は、ルメールの連覇で“後半の再加速に強い馬”が勝つ構図が定着。「前半ためる→3~4角でギア」という王道が、よりシビアになっています。“後半特化”に寄せた仕上げでないと、上がりの質で見劣る。この流れの中で、武豊の「技」でねじ伏せる余地が相対的に小さくなっているのも事実です。
真実⑩:それでも武豊は、まだ“最前線”にいる
厳しい言い方をすれば、今日はレジェンドのプライドがきしんだ日です。記録で並ばれ、人気馬で崩れた。けれど、3~4角までの“これが勝ち筋だ”という絵を、道中で作りにいったのは紛れもなく武豊。スタートの一拍が、今日のすべて。だからこそ、次はスタートと位置の再現性――ここを取り戻せば、勝負はまだ動くはずです。
レースの事実関係
- 優勝:エネルジコ(C.ルメール)
→ 史上初の菊花賞3連覇。通算5勝で武豊に並ぶ。 - マイユニバース:4番人気→13着。通過順は⑪⑪③③。
- 勝ち時計:3:04.0(レース後半の上がり質が高い“後傾”の流れ)。
- 馬券:単勝380円/3連単14万0270円(“堅め~中波乱”の配当バランス)。
- 武豊のコメント要旨:「スタートが遅くなってしまった」。ここが敗因の入り口。
もう少しだけ深掘り:なぜ“スタートの1拍”が3000mで命取り?
「距離が長いから多少出遅れても取り返せるのでは?」と思いがちですが、菊花賞は“加速区間の質”が勝敗を分けるレース。
スタートが遅れると、
- 1コーナーまでに理想の“列”に入れない(内・外の損得が大きい)。
- ペースが落ち着いたところで押し上げざるを得ない(ここで脚を使う)。
- 最後の再加速でキレ負け(本来勝負に使うべき脚が残らない)。
というドミノが起きます。マイユニバースは3~4角で3番手まで押し上げられるだけの力は見せましたが、“最終直線用の燃料”を先払いしてしまった――これが13着の正体です。
武豊とマイユニバースの“次”に向けた現実的アクション
- 発馬対策の再徹底:ゲート内での“我慢”と“反応”。出遅れ率を下げることが最優先。
- 位置取りの柔軟さ:中団やや前を“基準”に、流れ次第で内ポケット or 外め早め進出。
- 距離レンジの見直し:3000mはこなすが、2400m前後でのパフォーマンス最大化も選択肢。
- 「上がりの質」強化:直線でもう一段のギアを作るため、中盤での省エネ運びをチーム全体で設計。
“完敗”は、次の“勝ち筋の設計図”でもあります。出遅れという入口の修正と、位置+上がりの再構築。レジェンドは、それを何度も実現してきました。だからこそ、今日が折れる日ではなく繋ぐ日になります。
参考・出典
- 全着順・マイユニバース13着、およびルメール3連覇・通算5勝で武豊に並ぶの報道。nikkansports.com
- 公式レース結果(通過順・ラップ・勝ち時計・着順)。競馬ラボ
- 払戻(配当)。dメニュースポーツ
- 武豊「スタートが遅く…」コメント。netkeibaニュース
さいごに:プライドは砕けたのか
タイトルは刺激的ですが、事実として言えるのは「自分のミスを言葉にする勇気」を武豊は見せた、ということです。
騎手の世界で「スタートが遅れた」は、言い訳にも自己批判にもなる重い言葉。それをあえて口にして、次へ向かう。それは砕け散るプライドではなく、磨かれ続ける矜持のほうです。
次は“あの一拍”を取り戻した武豊を、またG1の最前線で見たい。そしてマイユニバースの“正しい勝ち筋”が描かれるその日を、静かに待ちたい。

