カトリーヌ・ドヌーヴは、フランスを代表する大女優です。1943年10月22日生まれで、現在82歳。今も現役で映画に出ていて、最新作ではなんと“日本を舞台にした物語”の主人公をつとめ、竹野内豊・堺正章・風吹ジュンと共演しています。
年齢だけ聞くと「まだ出てるの!?」と思うかもしれませんが、ドヌーヴは60年以上ずっと第一線に立ち続けてきた人です。世界中の映画祭から賞や特別な名誉をもらっていて、フランス国内だけでなくヨーロッパ映画全体の“顔”とも言われる存在です。
そして今、日本でも注目されている理由はひとつ。
彼女が主演する新作映画『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』が、日本各地(群馬県高崎市、千葉県いすみ市など)で撮影され、日本人キャストと共演し、日本公開も予定されているからです。さらにこの作品は、釜山国際映画祭のクロージング作品として上映され、東京国際映画祭のガラ・セレクションにも選ばれるなど、かなり注目度が高い国際プロジェクトになっています。
この記事では、
プロフィールとキャリアの歩み
カトリーヌ・ドヌーヴ(本名:カトリーヌ・ファビエンヌ・ドルレアック)は、1943年10月22日にフランス・パリで生まれました。両親も俳優という“生まれながらの映画一家”で、なんと10代のころからスクリーンに出ています。1957年、まだ13歳のときに映画デビューして、そこからずっと女優を続けてきました。
フランス映画の「ヌーヴェルヴァーグ(フランスの新しい映画運動)」の時代から活躍し、ブリジット・バルドー、アラン・ドロンとならんで、フランスの“国民的スター”として世界に名前が知られるようになりました。
60年以上のキャリアの中で、出演した映画は100本以上。フランス国内だけで、彼女が出た映画を映画館で観た観客の合計が約1億人近いとも紹介されていて、フランスで最も多くの観客を動員した現役女優とも言われています。
さらにドヌーヴは、単なる「美人女優」では終わっていません。サスペンス、恋愛、心理ドラマ、社会派作品、ミュージカル、さらにはファンタジーまで、ジャンルを飛び越えて役を選び、年齢を重ねても“その年齢だからこそ演じられる女性像”を見せ続けてきた人です。
フランスでは国の象徴「マリアンヌ」(自由の女神のように国そのものを表す女性像)に彼女の顔が使われたこともあります。つまり「フランス=ドヌーヴの顔」というくらい、文化的シンボルになっていたということです。
代表作:この作品だけは押さえておきたい
ここでは、カトリーヌ・ドヌーヴを語るときに必ず出てくる作品を、ストーリーの意味や彼女の役どころといっしょに紹介します。
『シェルブールの雨傘』(1964年)
原題『Les Parapluies de Cherbourg』。日本でもよく知られているフランス映画の名作ミュージカルです。全編が歌で語られるドラマチックな恋物語で、ドヌーヴは若い恋人を待ち続ける女性を演じました。色彩も音楽もとてもロマンチックで、彼女を一気に“フランスの永遠の恋人”というイメージに押し上げた作品と言われています。
『昼顔/Belle de Jour』(1967年)
日本では「昼顔」という邦題でも有名。平凡な上流階級の妻が、昼だけ秘密のもうひとつの顔を持つ…という衝撃的なテーマを扱った作品です。ここでのドヌーヴは、ただ美しいだけではなく、「人間の中にある欲望や影」を表に出せる女優なんだ、ということを世界に見せました。この役で彼女は国際的な知名度を決定的なものにし、のちに英国アカデミー賞(BAFTA賞)にノミネートされています。
『反撥(Repulsion)』(1965年)、『悪の誘惑(The Hunger)』(1983年)などのスリラー系
ドヌーヴは不安や狂気、孤独を演じるのがとてもうまいと言われてきました。特に『反撥』では、精神的に追い詰められていく女性の恐怖と孤立をリアルに表現して評価されます。さらに80年代の『ハンガー(The Hunger)/悪の誘惑』では、“不老の吸血鬼のような存在”を演じ、そのクールで妖しい魅力がゴシック系・ダーク系のファンからカリスマ視されました。
『最後の愛人/恋の最終列車』ではなく『最後の地下鉄(Le Dernier Métro/The Last Metro)』(1980年)
邦題は『最後のメトロ』として知られることも多い作品で、第二次世界大戦中のパリを背景にしたフランソワ・トリュフォー監督のドラマ。ドヌーヴはナチス占領下の劇場を必死に守る女優を演じ、この作品でフランスの最高映画賞である「セザール賞 最優秀女優賞」を受賞しました。
『インドシナ』(1992年)
この作品でドヌーヴはフランス領インドシナ(現在のベトナムなど)を舞台に、養女との関係、時代のうねり、愛と別れを抱える上流階級の女性を演じます。ここで彼女はアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、さらに再びセザール賞 女優賞を受賞。60代近い年齢にさしかかっても、”フランス映画の中心にいるヒロイン”として認められ続けたことを示す重要作です。
『タイム・トゥ・ラブ(Place Vendôme)』(1998年)
彼女はこの作品で、ヴェネツィア国際映画祭の「最優秀女優賞(ヴォルピ杯)」を受賞します。落ちぶれかけた女性がもう一度立ち上がる物語で、年齢を重ねた女性のかっこよさ、苦さ、色気、全部をまとめて見せつけました。
このラインナップを見るとわかる通り、ドヌーヴは「若いころの美しさで終わった女優」ではなく、「年齢ごとに新しい魅力を作り直している女優」なんです。それが、いま82歳になっても主役を張れる理由でもあります。
受賞歴と評価:どれくらいすごい人なの?
受賞や評価をざっくりまとめると、こんな感じになります。
わかりやすく言うと、「映画の世界で長くトップを走り続けているだけじゃなく、国を超えて“生きている伝説”として扱われている」というレベルです。
ここまで評価される女優はめったにいません。
最新の姿・近影:82歳、いま何をしている?
「80代の女優さん」と聞くと、ゆっくり引退生活を送っているイメージを持つかもしれません。でもドヌーヴは全然ちがいます。
まず、国際映画祭のレッドカーペットやフォトコール(記者向けの撮影タイム)に普通に登場します。黒とゴールドを組み合わせたエレガントなドレス姿など、いまも強い存在感を見せていて、写真がニュースとして取り上げられるほどです。
さらに、彼女はフランス国内の映画界でも「象徴的な存在」として扱われています。たとえばフランスの映画賞セザール賞(これはフランス映画界にとって一番大きい年間授賞式です)では、式典の中心的な役割を任されることもある、と複数の報道で紹介されています。これは“ただのゲスト”ではなく、「フランス映画の女王として、式の格を決める人」という扱いです。
つまり、「名誉的に名前だけ置かれている」というより、「まだちゃんと現場にいて、文化の最前線で顔を出している」というのが現在のドヌーヴです。
新作『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』とは?
では、いちばん気になる最新作についてくわしく説明します。
どんな映画?
『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』は、日本・フランス・シンガポールの国際共同制作によるファンタジー×ヒューマンドラマ作品です。監督はシンガポールの映画監督エリック・クー。彼はこれまでアジアを舞台にした家族ドラマや食・記憶・アイデンティティを深く描く作品で知られており、国際映画祭でも高く評価されてきた監督です。
撮影は群馬県高崎市や千葉県いすみ市など、日本のローカルな風景で行われました。キャストは超豪華で、カトリーヌ・ドヌーヴ(フランスの伝説的女優)、竹野内豊、堺正章、風吹ジュンなど、日本でも名前を聞けば顔が浮かぶ人ばかりが並びます。
ドヌーヴの役どころ
ドヌーヴが演じるのは、フランス人の人気歌手・クレア。彼女は日本でのコンサートのために来日しますが、突然の死を迎えてしまいます。ただ、それで終わりではありません。クレアは“魂だけの存在”になって、いわば「この世とあの世のあいだ」にとどまり、日本に残された人たちを見守る存在になるのです。
「幽霊のようになった外国人アーティストが、日本の家族の物語にそっと入りこんでいく」という設定はとてもユニークです。普通の“心あたたまる再会ドラマ”ではなく、死後の世界・魂・喪失(なくしてしまったもの)・許せない後悔、といった大人のテーマが扱われています。
物語の中心
ストーリーのもう一人の主役は、竹野内豊が演じるハヤトという男性です。ハヤトは父親(堺正章が演じるユウゾウ)を亡くし、父の遺言どおりに“母にサーフボードを届けるための旅”に出ます。ところがその道中で、彼は父や母との関係、自分の生き方、これからの人生に向き合わざるをえなくなっていきます。
ここで、死後の世界をさまようクレア(=ドヌーヴの役)が、見えないガイドのように彼ら親子を見守り、物語は「家族の再生」と「人生をやり直すチャンス」というテーマに向かいます。
エリック・クー監督は、この映画を「迷っている大人たちに、もう一度やり直せる希望を見せる物語」と語っています。これはただの心霊ファンタジーではなく、“人生のつまずきからどう立ち直るか”という現実的な悩みを描いたヒューマンドラマだ、ということです。
公開・評価の流れ
『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』はアジアの大きな映画祭でクロージング作品(最後を締める特別枠)として上映されたあと、東京国際映画祭のガラ・セレクションにも選ばれ、日本国内では10月に先行上映、その後10月末から全国公開という形で紹介されています。
また、フランスでは2025年2月の公開が予定されていると報じられており、つまりこの作品は「日本発の物語だけどフランスでも大きく売り出される」という、逆輸入的な立ち位置でもあるわけです。
こういうケースは実はかなり珍しいです。ふつうは「フランス映画に日本の俳優がゲスト参加」くらいですが、今回は“両方ががっつり主役”。ドヌーヴ級の大スターが日本ロケで主演し、日本の大物俳優と対等に絡む。これは映画ファンにとっても事件クラスのトピックです。
大人にとって『スピリットワールド』はどんな映画になりそう?
いまの私たちは、家族・仕事・未来の不安をそれぞれ抱えながら生きていますよね。この映画が描いているのは、まさにその「大人の迷い」と「やり直したい気持ち」です。
- 親との関係を修復しないまま、大人になってしまった。
- 言えなかった“ありがとう”や“ごめん”が、心の中でずっと重い。
- 自分の人生、このままでいいのか、とどこかで引っかかっている。
そんな感情に対して、この映画は「それでも遅すぎないよ」「まだ間に合うよ」というメッセージを投げています。監督自身も、“迷える大人たちの希望と再生”という言葉を使ってこの作品を説明しています。
そして、その案内役をつとめるのがカトリーヌ・ドヌーヴ。
彼女は作中で、もうこの世にはいない存在=「あの世サイド」から、現実を生きている人たちを見守ります。これはただの幽霊係というよりも、「経験を積んだ大人からの静かなエール」のような役割です。
若い俳優ではなく、82歳のドヌーヴだからこそできる立ち位置。人生の終わりに近いところから、まだ生きている人へ「ちゃんと生きなさいよ」と語る。その説得力こそが、この映画のいちばんの武器になっているといえます。
まとめ
正直に言うと、「82歳のレジェンドが日本の俳優たちと共演し、しかも“死者のまなざし”から私たちの生き方を問い直す映画」なんて、そう何度も作られるものじゃありません。
カトリーヌ・ドヌーヴは、過去の名作にいる伝説ではなく、“いまも現役でこちらを見ている人”なんです。『スピリットワールド』は、そのことを一発でわからせてくれる最新の証拠だと言えます。

