韓国ソウルの飲酒運転事故のニュースを見て、胸がぎゅっと苦しくなった人も多いと思います。
「なんで、まだこんな事故が起きてしまうの?」「韓国って飲酒運転に甘い国なの?」「日本と何が違うの?」
この記事では、
までを、順番に解説していきます。
なぜ今「韓国ソウルの飲酒運転事故」が注目されているのか
2025年11月2日の夜、ソウル市中心部の交差点付近で、日本人の母娘が飲酒運転の車にはねられる事故が起きました。
- 場所:ソウル・鍾路区の東大門駅近くの交差点周辺
 - 時間:夜10時ごろ
 - 被害者:観光で来ていた日本人の母(50代)と娘(30代)
 - 状況:歩道・横断歩道付近に車が突っ込む
 - 結果:母親は心肺停止の状態で病院へ運ばれ、その後死亡。娘はけが。
 
運転していたのは30代の韓国人男性で、
・血中アルコール濃度は「免許取り消し」レベルの高さ
・「飲酒運転」と「危険運転致死」などの容疑で現行犯逮捕
という報道が出ています。
韓国では、飲酒運転による事故が大きな社会問題になっており、2018年に「ユン・チャンホ法」という名前の法律改正も行われました。それでも今回のような痛ましい事故が起きてしまった――という点が、多くの人の不安や怒りにつながっています。
韓国の飲酒運転の現状:減ってはいるけれど「ゼロ」にはほど遠い
まず、「韓国は飲酒運転が多い国なのか?」という疑問から見ていきましょう。
韓国では、2018年末〜2019年にかけて飲酒運転の罰則が大幅に強化されました。その結果、
- ソウル市内では、飲酒運転の摘発件数が約2割減った
 - 全国的にも、施行後1〜2年で飲酒運転の取り締まり件数が17〜18%ほど減った
 
といったデータが出ています。
一方で、保険会社や研究機関の調査では、
- 法改正直後はいったん減ったものの
 - 数年たつと「慣れ」が出て、再び飲酒運転が増えた年もある
 
という指摘もあります。
飲酒運転がなくならない背景として、韓国では
- お酒を飲む文化が非常に強い(会社の飲み会、友人との集まりなど)
 - タクシーや地下鉄は発達しているが、地方では車に頼る生活も多い
 - 「少しくらいなら大丈夫」という油断がまだ残っている
 
といった社会的な要因も指摘されています。
つまり、法律はかなり厳しくなっているものの、「人の意識」まですべて変えるのは簡単ではない、というのが今の韓国の姿です。
「ユン・チャンホ法」とは? 一人の青年の死が変えた法律
では、その「厳しくなった法律」とは何でしょうか。それが、いわゆる 「ユン・チャンホ法(ユン・チャンホ法案)」 と呼ばれる一連の法改正です。
きっかけは2018年の痛ましい事故
2018年9月、韓国・釜山で22歳の兵役中の男性ユン・チャンホさんが、飲酒運転の車にはねられ、のちに亡くなりました。
- 加害者は強い酒を飲んだ状態で運転
 - ユンさんは重体となり、数週間後に死亡
 - 友人や遺族が署名活動を行い、「飲酒運転は殺人に近い」と社会に訴えた
 
この事件が大きく報じられ、国中で「飲酒運転はただの『事故』ではない」という空気が一気に高まりました。
その結果として、2018年末〜2019年にかけて、
- 「特定犯罪加重処罰法」(飲酒運転による死傷を重く扱う法律)
 - 「道路交通法」(免許停止・取り消しの基準など)
 
がまとめて改正され、これらが「ユン・チャンホ法」と呼ばれるようになりました。
ユン・チャンホ法で何が変わったのか(ポイントをやさしく整理)
ユン・チャンホ法の中身は細かく見るとたくさんありますが、私たちがイメージしやすいポイントは大きく3つです。
1. 「死者が出たら最大・無期懲役」級の重い罰則
飲酒運転の結果、人が亡くなった場合の刑罰が大きく引き上げられました。
- 以前:
- 最低1年以上の懲役
 
 - 改正後:
- 最低3年以上〜最長・無期懲役(終身刑)まで
 
 
とても重い罰則になっています。
今回の日本人観光客の事故でも、加害ドライバーは「飲酒運転」とともに、この重い罰則がかかる「危険運転致死」などの容疑で捜査されています。
2. 免許停止・取り消しになる「アルコール濃度」が引き下げられた
次に、運転中のアルコール濃度(血中アルコール濃度=BAC)の基準も厳しくなりました。
改正前(〜2018年)
- 0.05%以上:免許停止
 - 0.10%以上:免許取り消し
 
改正後(ユン・チャンホ法第2弾)
- 0.03%以上:免許停止
 - 0.08%以上:免許取り消し
 
と、かなり低い値でもアウトになるように変わりました。
「ビール1〜2杯でも状況によってはすぐ基準に達する」と言われるレベルで、ほぼ『飲んだら乗れない』と考えた方が安全です。
3. 常習犯(くり返し飲酒運転する人)への罰が重くなった
また、何度も飲酒運転で摘発される「常習犯」への罰則も強化されました。
- 再犯・多重犯の場合、
- 懲役の上限が引き上げられたり
 - 免許の再取得が難しくなったり
 
 
といった厳しい扱いがされます。
ユン・チャンホ法の効果:減った数字と「慣れ」の問題
では、「ユン・チャンホ法」は本当に効果があったのでしょうか?
韓国の警察や研究のデータでは、
- 法律施行後の1〜2年で
- 飲酒運転の取り締まり件数が約18%減少
 - ソウルでは飲酒運転事故が2〜3割減少
 
 
という結果が出ています。
また、重症事故の割合も下がったという研究もあり、「法律を厳しくすると、一定の効果は出る」ことが確認されています。
しかし一方で、
- 時間がたつと「もう大丈夫だろう」という油断
 - コロナ禍で「密を避けるために車移動が増えた」ことによる影響
 
などから、再び飲酒運転が増えた年もあると報告されています。
つまり、
法律を変えるだけでは、「人の行動」までは完全には変えられない
という、シンプルだけれどとても難しい現実が見えてきます。
日本の飲酒運転のルールと韓国との違い
次に、「日本と韓国、どっちが厳しいの?」という疑問について整理してみましょう。
アルコール基準値の比較
韓国
- 0.03%以上:飲酒運転として検挙対象、免許停止
 - 0.08%以上:免許取り消し
 
日本
日本も、法的な血中アルコール濃度の基準は 0.03% が目安とされています。
実際の運用では「呼気中0.15mg/L以上」で「酒気帯び運転」とされます。
数字だけ見ると、
- 「飲酒運転かどうか」の入り口の厳しさ(0.03%)は、韓国も日本もほぼ同じレベル
 
と言ってよいでしょう。
刑罰の重さ
日本の例(自動車のケース)
- 酒気帯び運転(DUI):
- 3年以下の懲役または50万円以下の罰金
 
 - 酒酔い運転(DWI):
- 5年以下の懲役または100万円以下の罰金
 
 - さらに、人を死傷させた場合は「危険運転致死傷罪」などが適用され、
- 死亡事故では 1年以上20年以下 の懲役が科される可能性があります。
 
 
また日本では、
- 飲酒運転の車に同乗した人
 - お酒や車を提供した人
 
にも、刑事罰や行政処分が下される「連帯責任」の仕組みがあります。
韓国(ユン・チャンホ法後)の例
- 飲酒運転で死亡事故を起こした場合:
- 3年以上〜無期懲役(終身刑)
 
 
ここだけを見ると、
死亡事故に対する「最高刑の重さ」は、日本より韓国の方がさらに一段階重い
ということがわかります。
実際の事故数や死亡者数の違い
- 韓国の2022年の交通事故による死亡者数は 2,735人(人口約5,100万人)
 - 日本の2020年の交通事故死亡者数は 2,839人(人口約1億2,000万人)で、戦後最少レベル
 
人口で割ると、
- 日本の方が「交通事故死の率」はかなり低い
 
とされています。
これは、
- 車の安全性能の向上
 - シートベルト・チャイルドシートの普及
 - そして何より、飲酒運転などに対する「国民の意識」と「取り締まり」が長年続いてきた
 
といった要因が重なっていると考えられます。
それでも飲酒運転がなくならない理由
ここまで見てきたように、韓国も日本も「数字上の厳しさ」だけ見れば、世界的に見てもかなり厳しい部類です。
それでも飲酒運転がゼロにならないのは、次のような人間の心理があるからだとよく言われます。
- 「今日はそんなに飲んでないから大丈夫」
 - 「家まで近いし、ちょっとだけなら平気」
 - 「バレないだろう」
 
しかし、アルコールは
- 判断力を鈍らせる
 - 反応を遅らせる
 - 「自分は大丈夫」という過信を生み出す
 
という性質を持っています。
その結果、
「気をつけていたつもりだった」
「自分は大丈夫だと思っていた」
という人が、一瞬で取り返しのつかない事故を起こしてしまう――
これが飲酒運転の一番怖いところです。
旅行者としてできる「自分と家族を守る行動」
最後に、韓国ソウルに限らず、海外旅行で私たちができる「自衛策」を簡単にまとめておきます。
1. 「車優先」の場所・時間帯を知っておく
- 夜遅い時間(特に21時以降)の繁華街
 - 車線が多い大通り
 - 信号があっても、右左折車が多い交差点
 
では、「青信号でも絶対に油断しない」ことが大切です。
信号が青になっても、いきなり歩き出さず、
- 左右から来る車が本当に止まりそうか
 - スピードを落とさず近づいてくる車がいないか
 
を一呼吸おいて確認するだけでも、リスクを減らせます。
2. 夜はなるべく「明るい道・人通りの多い道」を歩く
- ネオンの少ない裏通り
 - 車がスピードを出しやすい郊外の道
 
は、歩行者が「見えにくい」場所です。
できるだけ
- 大通り
 - 街灯が多い道
 - 店や人の多いエリア
 
を選んで歩くようにしましょう。
3. 自分も「絶対に運転しない」ルールを守る
レンタカーを借りて運転する場合は、
- 一杯でも飲んだら運転しない
 - 同乗者も「飲んだ人に運転させない」
 
という、日本の「三つの禁止(飲まない・乗らない・運転させない)」の感覚を海外でも徹底することが大切です。
4. 子どもや家族と「もしも」のときの行動を話し合っておく
- 横断歩道の渡り方
 - 信号待ちのときは、車道ギリギリには立たない
 - 車が突っ込んできたときは「とにかく横へ逃げる」
 
など、シンプルなルールを事前に共有しておくだけでも、いざというときの反応が変わります。
まとめ:法律は「最後の砦」、私たちの行動が「最初の盾」
ここまで、
- ソウルで起きた日本人観光客の飲酒運転事故の概要
 - 韓国の飲酒運転の現状と、ユン・チャンホ法の内容
 - 日本との違い(基準値・刑罰・事故状況)
 - それでも事故がなくならない理由
 - 旅行者としてできる自衛策
 
を見てきました。
ポイントをもう一度まとめると:
といった行動が、自分と大切な人を守る「最初の盾」になります。
法律は、事故が起きた後に責任を問う「最後の砦」にすぎません。この記事が、「飲酒運転は絶対にしない」「させない」「許さない」という気持ちを、少しでも強くするきっかけになれば幸いです。
  
  
  
  
