2025年11月7日、フジ・メディア・ホールディングス(フジHD)とフジテレビの安田美智代(やすだ みちよ)取締役が、不適切な経費精算が確認されたとして取締役を辞任しました。
内容としては、2020年以降の会食費や手土産の購入などで「事実と異なる精算」が約60件、金額にして約100万円ほどあったというものです。安田氏本人も事実と異なる精算を認め、返金の意向を示したうえで辞任を申し出たと報じられています。
今年1月には、中居正広さんをめぐるトラブルへの対応でフジテレビの会長・社長がそろって辞任し、10時間を超える異例の会見やスポンサー大量離脱が大きなニュースになったばかりです。
「またか」という空気の中で、
- フジテレビの信頼はどうなるのか
- 民放公式配信サービス「TVer」は大丈夫なのか
- テレビ業界全体にどんな影響が出るのか
こうした不安や疑問を持つ人が増えています。
この記事では、
- 何が起きたのか
- TVerってそもそも何なのか
- 安田取締役辞任でTVerはどうなるのか
- テレビ業界全体にはどんな波紋が広がるのか
を、順番に解説していきます。
今回の「安田取締役辞任」ってどんな話?
何をして辞任になったのか
フジHDとフジテレビが発表した内容を、できるだけかんたんにまとめると、こうなります。
- 2025年9月ごろ、社内のチェックで「おかしい経費」が見つかる
- 調査したところ
- 2020年以降の会食費や物品(手土産など)の購入で
- 実際とは違う内容で精算されたケースが約60件
- 金額は合計で約100万円
- 安田氏は「私的流用(完全な自分のためのお金ではない)」と主張しつつも
- 事実と違う精算があったことは認めた
- 返金する意向を示し、取締役の辞任を申し出た
会社側は、これを受けて11月7日付で取締役辞任を発表し、社長が会見で謝罪しています。
金額だけ見れば「100万円ならそこまで大きくないのでは?」と思うかもしれません。でも問題は「金額」だけではなく、
- 何年にもわたって
- 役員クラスの人が
- 事実と違う内容で経費を出していた
という「ルール軽視」と「ガバナンス(統治)の甘さ」です。
安田美智代さんってどんなポジションだった?
安田氏は、もともとフジ・メディア・ホールディングスの経営企画部門を長く担当してきた人で、グループ会社の経営管理やM&A(企業買収)などにも関わってきました。
2025年3月にはフジテレビの取締役に就任し、同年6月にはフジHDの取締役にも選任されています。
会社側は、取締役候補として
- デジタル領域
- 投資ビジネス
- 事業構造改革
に強い人材として期待していたと説明していました。
今回辞任したのは、この「フジテレビ」と「フジHD」の取締役ポジションです。
実は今年「2回目」の大きな不祥事
1月の「会長・社長ダブル辞任」からまだ1年もたっていない
忘れてはいけないのが、2025年1月に起きた、フジテレビ会長・社長のダブル辞任です。
- 元タレントの中居正広さんと女性とのトラブルに
- フジテレビ社員が関与していたと週刊誌で報じられ
- 会社の説明や会見対応が「不誠実」と強く批判された
結果として、フジテレビの港浩一社長と嘉納修治会長が2025年1月27日付で辞任しました。
その後、
- 10時間を超える長時間会見
- スポンサーがCMをACジャパンの広告に差し替える(30社どころか合計330社という数字も報告書に出ている)
- 第三者委員会による厳しい調査報告(人権意識の低さなどを指摘)
といった事態にまで発展しました。
「もう二度と同じことはしません、ガバナンスを立て直します」と宣言してから、まだ1年もたっていないタイミングで、今度は新任取締役による経費問題が発覚したわけです。
視聴者やスポンサーからすると、
「本当に体質は変わったの?」
と疑いたくなるのも、無理はありません。
TVerってそもそも何?フジとの関係
ここからは、本題の「TVerはどうなる?」に入っていきます。その前に、TVerというサービスの基本をおさらいしておきましょう。
TVerの基本:民放公式の「見逃し配信」サービス
TVerは、民放各局が共同で運営している「民放公式テレビ配信サービス」です。
ざっくり言うと、
- 日本テレビ
- テレビ朝日
- TBSテレビ
- テレビ東京
- フジテレビ
といった在京キー局が中心になって作った、公式の「見逃し配信・リアルタイム配信」サービスです。
特徴を簡単にまとめると:
- 基本無料(広告付き)
- 会員登録しなくても見られる(登録すればもっと便利に)
- 放送後1週間程度、最新回の番組を見逃し配信
- ドラマ・バラエティ・アニメ・スポーツ・ニュースなど800本以上が配信されている
- スマホ・タブレット・PC・テレビアプリなど、いろいろな端末で見られる
そして、TVerは「違法アップロード対策」という意味も持っていました。バラバラに違法動画を見るのではなく、公式にきちんと権利処理した番組を、広告付き無料で見てもらおう、という狙いです。
TVerの運営会社と株主構成
TVerを運営しているのは「株式会社TVer」という会社です。
株主構成がちょっとおもしろくて、
- 日本テレビ
- テレビ朝日
- TBSテレビ
- テレビ東京
- フジ・メディア・ホールディングス
この5社が、それぞれ16.4%ずつ出資する「横並び」の形になっています。
つまりフジは、
TVerを「一社で支配している」というより、
5社のうちの「1/5の主要株主」という立場
というイメージです。
TVerの社長は、2022年以降、フジテレビ出身の若生伸子(わこう のぶこ)氏が務めており、デジタル配信広告の拡大などで大きな成果を上げたと評価されています。
2025年1月時点の役員体制でも、TVer社長の若生氏がフジテレビ取締役として経営陣に加わっており、「地上波と配信をどう連携させていくか」という意味で、かなり重要なポジションです。
安田取締役の辞任とTVerの関係
では、今回の安田取締役の辞任は、TVerにどこまで関係してくるのでしょうか。
直接の関係は「ほぼない」と見ていい
まず事実ベースで整理すると、
- 安田氏はフジテレビとフジHDの取締役
- 経費の不正精算が問題になったのは「フジグループ内部の経費」
- 株式会社TVerの社長は若生伸子氏であり、安田氏ではない
という状態です。
現時点で、
- 「TVerの経営にも不正があった」
- 「今回の件でTVerの社長や役員が辞任する」
といった報道や公式発表は出ていません(2025年11月8日時点)。
そのため、直接的に「TVerのサービスが止まる」「運営が大きく揺らぐ」という状況ではないと考えてよいでしょう。
ただし「フジの信用低下」はTVerにもじわじわ影響
とはいえ、まったく無関係とも言えません。
理由はシンプルで、
- TVerは広告収入で成り立っている
- その広告主にとって、フジテレビはTVerの主要なコンテンツ提供者であり株主
- フジの不祥事が続くと、「グループのガバナンス大丈夫?」と見られやすい
からです。
実際、1月の不祥事の際には、スポンサーがフジのCMを大量にACジャパンに差し替えるという事態になりました。
広告主の目線で見れば、
「テレビ局本体に問題が多い会社の配信サービスに、どれだけ広告を出すべきか?」
という判断にもつながりかねません。
もちろん、TVerは「5社共同のサービス」であり、1社だけのイメージで決まるわけではありません。しかし、
- フジのガバナンス問題
- TVer社長がフジ出身であること
- デジタル広告市場でTVerが重要なポジションになりつつあること
を考えると、「フジの信頼回復」がTVerにも間接的な影響を持つのは、ほぼ間違いないでしょう。
テレビ業界への波紋①:ガバナンスとコンプライアンスが最優先テーマに
「もう一度テレビを信じてください」と言えるのか
1月の不祥事、そして今回の経費問題。立て続けに起きていることから見えてくるのは、
「テレビ局のガバナンス(組織の監視体制)は、本当に強化されたのか?」
という疑問です。
第三者委員会の報告書では、フジHDグループの問題として、
- 人権意識の低さ
- 組織内の「空気」を優先してしまう文化
- トラブル発生時の情報共有の遅さ・甘さ
などが指摘されていました。
本来なら、その反省から
- 役員の監視をもっと厳しくする
- 経費や接待の取り扱いを徹底的にチェックする
- 不祥事が出ないよう、予防的な仕組みを作る
方向に動いているはずです。
それにもかかわらず、今回のような経費問題が出てしまった、というのは、
「ルールを作っただけで、文化や意識はまだ変わり切れていない」
というサインでもあります。
視聴者から見れば、
- 「テレビは人の不祥事を厳しく報道するのに、自分たちはどうなの?」
- 「コンプラを叫ぶなら、まず自分たちが守ってよ」
と感じる人も多いはずです。
他局も「対岸の火事」ではない
そして、この問題はフジだけの話ではありません。
- テレビ朝日
- 日本テレビ
- TBS
- テレビ東京
なども含め、テレビ局全体が「視聴者の信頼」「スポンサーの信頼」で成り立っています。
TVerは「5社共同運営」ですから、一社の不祥事が「テレビ業界全体のイメージダウン」につながるリスクを、他局も真剣に考えざるを得ません。
結果として、
- 各局のガバナンス体制の見直し
- TVer社内のコンプライアンス体制強化
- グループ全体での「再発防止策」の共有
のような動きが、今後さらに加速する可能性は高いでしょう。
テレビ業界への波紋②:TVerが担う「命綱」としての役割
若い世代の「テレビ離れ」とTVerの成長
地上波テレビの視聴率が長期的に下がっているのは、もう誰の目にも明らかです。
一方で、TVerはここ数年で急成長しています。
- 月間ユニークユーザー(MUB)は3,000万超(2023年時点)
- 全国115局の番組、650本以上が配信対象(2020年時点)
- コネクテッドTV(ネット接続テレビ)での再生数も急増中
若い世代は、
- テレビではなく、TVerアプリでドラマを見ている
- 家のテレビは、地上波というより「TVerアプリを見るための大画面」
という人も増えています。
つまりテレビ局にとってTVerは、
「視聴者との接点をつなぎ止める“命綱”のような存在」
と言ってもいい状況になってきています。
だからこそ「TVerの信頼」は超重要
そんな中で、フジグループの不祥事が続くことは、単に一社の問題ではなく、
「テレビ業界のデジタル戦略の中核であるTVerのイメージ」にも影を落としうる
という意味で、とても重い問題です。
もし、
- 「テレビ局って、内部はぐちゃぐちゃなんでしょ」
- 「コンプラ甘い会社が作る配信サービスって大丈夫?」
といったイメージが広がってしまうと、
- 視聴者が離れる
- 広告主が慎重になる
- 配信ビジネスの成長が鈍る
という悪循環になりかねません。
逆に言えば、
- TVerとして透明性の高い運営を行う
- 広告主・視聴者に対して、情報や数字をオープンにする
- 共同出資の5社で、ガバナンスのルールをしっかり共有する
ことができれば、
「テレビ局もちゃんと変わろうとしている」
というメッセージを、TVerを通じて示すこともできます。
TVerは、テレビ業界にとって
- 単なる「見逃し配信アプリ」ではなく
- 「テレビの信頼を取り戻すための重要な窓口」
になりつつある、という見方もできるのです。
これからTVerはどうなる?3つのポイント
最後に、「TVerはどうなるのか?」というテーマについて、今後のポイントを3つに整理しておきます。ここから先は、報道されている“事実”というより、今ある情報から考えられる「見通し・可能性」です。
サービスがすぐ止まる可能性は低い
まず結論から言うと、
「今回の安田取締役辞任が原因で、TVerのサービスがすぐ止まる」可能性は、今のところ低い
と考えて良さそうです。
理由は:
- 安田氏はTVerの役員ではない
- TVerは5社共同出資で運営されており、一社のトラブルだけで即停止する構造ではない
- 今のところ、TVer側から経営上の異常やトップ交代などは発表されていない(2025年11月8日時点)
だからです。
むしろ「ガバナンス強化」でTVerが“試金石”になる可能性
一方で、
- フジHD・フジテレビは、今年二度目の大きな不祥事
- すでに第三者委員会から厳しい指摘を受けている最中
という状況からすると、「もう後がない」くらいの覚悟でガバナンス改革を進めざるを得ません。
その流れの中で、
- TVerにどれだけ厳しいコンプライアンス基準を適用できるか
- 5社連携で、どこまで“透明で開かれた運営”を実現できるか
が、テレビ業界全体の“試金石”になる可能性もあります。
もしTVerが、
- 不祥事とは距離をとりつつ
- 公正でクリーンなイメージを確立できれば
「テレビ×配信」の未来に、もう一度希望が見えてくるはずです。
視聴者としてできること:冷静に情報を見て、必要なら声を上げる
最後に、私たち視聴者側ができることも、少しだけ考えてみます。
- 情報をうのみにせず、一次情報(公式発表・第三者委員会報告など)もチェックする
- 不祥事に対して「おかしい」と感じたら、SNSや問い合わせフォームなどで意見を伝える
- 同時に、良い番組や真面目に作られたコンテンツには、ちゃんと反応して応援する
こうした積み重ねが、
「視聴者の声が、テレビと配信の未来を少しずつ変えていく」
ことにつながります。
おわりに:TVerの行方は「テレビ業界の未来」そのもの
今回の安田取締役辞任は、
- 金額だけ見れば「100万円」の話かもしれませんが
- タイミングや背景を考えると、フジにとって非常に重い出来事
です。
- 今年1月の会長・社長ダブル辞任
- そこからのガバナンス改革宣言
- そのわずか数か月後の、取締役による経費問題
この流れは、視聴者やスポンサーにとって、
「本当に体質は変わるのか?」
という強い疑問を投げかけています。
そして、その問いは、テレビ局だけでなく、
- TVerをはじめとする「公式配信サービス」
- テレビ業界のデジタル戦略
- ひいては、日本の「テレビ文化」そのもの
にも向けられつつあります。
TVerがこの先、
- ただの「便利な見逃しアプリ」で終わるのか
- それとも「テレビの信頼を取り戻すための旗印」になるのか
それを決めるのは、テレビ局のガバナンス改革と、私たち視聴者の「目」と「声」、その両方だと言えるでしょう。
※本記事は、公開されているニュース報道や公式資料をもとに執筆しています。事実関係は今後の追加調査や発表によって変わる可能性があります。



