2025年11月9日朝、「NHK党(NHKから国民を守る党)」の立花孝志代表が、兵庫県の元県議に対する名誉毀損(めいよきそん)容疑で兵庫県警に逮捕された、と各社が一斉に報じました。
この記事では、
- そもそも何があって逮捕されたのか
- 「名誉毀損」とはどんな犯罪なのか
- 今回のケースのどこが問題視されているのか
- 私たち一般人もSNSで何に気をつけるべきか
を解説していきます。
(※この記事は、報道をもとにした解説であり、いずれの当事者の側にも立たない中立的な内容を目指しています。また、裁判が終わるまでは有罪・無罪は決まっていません。)
今回の「逮捕報道」をざっくり整理
まずは、神戸新聞などの報道内容を簡単にまとめます。
逮捕されたのは誰?
- 逮捕されたのは、
- 政治団体「NHK党」代表の 立花孝志(たちばな たかし)氏(58)
- 元NHK職員で、参院議員や地方議員を務めたあと、NHK受信料問題などをテーマに活動してきた人物です。
容疑の対象となった相手は誰?
報道によると、立花氏が名誉を傷つけたとされているのは、
- 兵庫県議会の元議員 竹内英明(たけうち ひであき)氏(すでに死亡)
です。竹内氏は、兵庫県知事に関する「告発文書問題」を調べる百条委員会(調査特別委員会)の委員として、問題を追及していた人物でした。
何をしたと「疑われている」のか?
神戸新聞などによると、逮捕容疑はおおむね次のような内容です。
- 立花氏は2024年12月ごろ、街頭演説などで
- 「竹内氏が警察の取り調べを受けている」
- 「(亡くなる前に)明日逮捕される予定だった」
といった趣旨の発言をしたとされています。
- こうした発言は、
- 竹内氏の妻の告訴(刑事告訴)
- 兵庫県警の捜査
によって「事実と違う」「名誉を傷つける内容だ」と判断され、名誉毀損容疑での逮捕につながった、と報じられています。
ここで大事なのは、まだ「容疑」の段階だという点です。
逮捕=有罪ではなく、「疑いがあるとして身柄を取った」という段階にすぎません。
「名誉毀損」とはどんな犯罪?
では、今回のニュースのキーワードである名誉毀損罪とは、そもそもどんな犯罪なのでしょうか。
法律上のざっくりした意味
刑法230条では、名誉毀損罪について
「人の名誉を傷つける事実を、みんなにわかる形で言ったら処罰される」
という趣旨のことが書かれています。
もっとやさしく言いかえると、
- 多くの人が見聞きできる場で
- だれかの社会的な評価を下げるような事実を伝える
と、名誉毀損になる可能性がある、ということです。
名誉毀損が成立するための3つのポイント
一般的に、名誉毀損が問題になるとき、よく言われるポイントは次の3つです。
- 公然性があるか
- 不特定多数の人に伝わる状態かどうか
- 例)街頭演説、テレビ・YouTube配信、X(旧Twitter)の公開ポスト など
- 事実を示しているか(事実の摘示・てきじ)
- 「○○は不倫している」「○○は犯罪者だ」のように、具体的な事実を述べているか
- 「バカ」「最低」など、単なる悪口だけなら、名誉毀損ではなく侮辱罪(べつの犯罪)が問題になることも
- 社会的評価を下げる内容か
- 「その人の評判が落ちるような内容か」というポイント
- 仕事・信用・人格などに関わる評価が下がるものかどうか
この3つがそろうと、「名誉毀損に当たる可能性が高い」と考えられます。
「本当のことを言っても名誉毀損になるの?」
ここで多くの人が疑問に思うのが、
「本当のことを言っても名誉毀損になるの?」
という点です。
結論だけ言うと、
- 刑事上は、事実が真実かどうかに関係なく、名誉毀損罪の形自体は成立しうる
- ただし、
- 公共の利害に関する事実で
- 公益を目的として
- しかも「おおむね真実」と証明できる場合は
→「違法とはいえない」とされて、処罰されないこともある
とされています。
今回も、政治家や行政トップに関する問題を巡る発言であることから、
- 公共性
- 真実性
- 公益性
などが、今後の捜査や裁判で詳しく争点になっていく可能性があります。
今回のケースで問題視されている点
では、今回の立花氏のケースでは、どのあたりが「名誉毀損の疑い」とされているのでしょうか。
※以下は、あくまで報道をもとにした「こういう点が問題とされているようだ」という解説です。事実認定を行っているわけではありません。
被害者とされる元県議の状況
報道によると、竹内英明元県議は、
- 兵庫県知事に関する「疑惑告発文書問題」を追及する百条委員会の委員を務めていた
- その過程で、SNS上で
- 「知事失職の黒幕」などと書かれ
- 強い批判や中傷の対象となっていた
- 2024年11月に県議を辞職
- 2025年1月、自ら命を絶ったとみられている
とされています。神戸新聞
つまり、激しい政治的な対立とネット上の中傷のなかで、精神的に追い込まれていたと報じられているわけです。
立花氏の発言とされる内容
竹内氏の妻が兵庫県警に出した告訴状によると、
- 2024年12月ごろ、立花氏は街頭演説などで
- 「竹内氏が警察の取り調べを受けている」
といった内容を話したとされています。
- 「竹内氏が警察の取り調べを受けている」
- さらに、竹内氏が亡くなった後も、
- 「明日逮捕される予定だった」
などと発言したと報道されています。
- 「明日逮捕される予定だった」
これらの発言について、
- 当時の兵庫県警本部長は県議会で
- 「そのような事実はまったくない」と否定した
と報じられています。
- 「そのような事実はまったくない」と否定した
もし本当に「警察の取り調べ」「逮捕予定」などが事実無根であったとすれば、
- 公然と
- 具体的な「事実」を示し
- 元県議の社会的評価(人格・信用)を下げる内容
に当たる可能性が高く、名誉毀損容疑がかけられている、という構図になります。
遺族側の主張
告訴したのは、竹内氏の妻です。報道によると、
- 立花氏の発言後、SNS上などで中傷が集中
- 竹内氏は「うつ状態」と診断されていた
- その後、亡くなるに至った
- こうした経緯から、「虚偽の情報が名誉を傷つけただけでなく、遺族の感情も深く傷つけた」と主張している
とされています。
ここでもう一度強調しておきたいのは、
これはあくまで「遺族側の主張」であり、
立花氏側がどのように反論するか、裁判所がどう判断するかは、これからの話
だという点です。
なぜ「書類送検」ではなく「逮捕」なのか?
ネット上では、
「名誉毀損で逮捕までいくの?」
「書類送検じゃなく、身柄拘束なのはなぜ?」
といった声も出ています。
ここでは、一般論として「逮捕」まで行くケースの背景を簡単に整理しておきます。
逮捕=必ずしも重罪とは限らない
まず、刑事事件の流れとしては、
- 任意捜査
- 逮捕(最大72時間の身柄拘束)
- 検察が勾留請求 → 裁判所が認めれば最大10日+延長10日
- 起訴 or 不起訴
という流れが一般的です。
名誉毀損は、法定刑で見ると
- 3年以下の懲役・禁錮 または 50万円以下の罰金
なので、殺人などの重罪に比べれば刑は軽い方です。
ただ、
- 社会的な影響が大きい
- 証拠隠滅の可能性がある
- 関係者への働きかけの恐れがある
などと警察・検察が判断すれば、身柄を押さえる(逮捕する)こと自体は法的にあり得る、という位置づけです。
今回も、
- 発言がネットや街頭演説など「公然の場」で行われたとされていること
- 亡くなった元県議や遺族の心情
- これまでの一連の政治的対立の文脈
などをふまえ、兵庫県警が「逮捕の必要がある」と判断したのではないか、と推測されています。
※ただし、「なぜ逮捕までしたのか」という警察の内心・判断理由の細かい部分は、報道だけではわかりません。
今後の流れ:これから何が起きる可能性があるか
この先、事件がどのような道筋をたどるかは、まだはっきりしません。
一般的な名誉毀損事件の流れをもとに、「あり得る展開」を整理しておきます。
逮捕後〜起訴まで
- 逮捕から最大72時間
- 警察・検察が取り調べ
- その後、検察が「勾留(こうりゅう)」を裁判所に請求するか決める
- 勾留が認められた場合
- 原則10日間
- 必要に応じてさらに最大10日延長
- その後、起訴するかどうか判断
- 起訴されれば裁判へ
- 起訴猶予や不起訴となる場合もある
名誉毀損事件では、
- 被害者・遺族との示談
- 発言の真実性や公益性の有無
なども考慮されることが多いと言われています。
裁判になった場合に争点になりそうな点
もし起訴され裁判になった場合、
- 発言内容が事実だったのかどうか(真実性)
- 公共の利害に関する事実だったか(公共性)
- 目的が専ら公益のためだったか(公益目的)
- 発言の方法・タイミング・言い方が相当だったか
などが、違法性の有無をめぐる争点になっていくと考えられます。
また、
- 被害者がすでに亡くなっていること
- 遺族の感情への配慮
- SNSや街頭での発信が、どこまで影響を与えたのか
といった点も、量刑や評価に関わってくる可能性があります。
SNS時代の「言論」と「名誉」の難しさ
今回の事件は、政治・告発・SNS・名誉毀損が絡み合った、非常に難しいケースです。
公人への批判と「名誉毀損」の境界線
政治家や公務員は、「公人」として、ある程度強い批判を受けるのは避けられません。
- 疑惑を追及する
- 政策を批判する
- 行政の不正を告発する
こうした行為は、民主主義社会にとって重要です。
一方で、
- 事実に反すること
- 根拠のない決めつけ
- 「犯罪者だ」「逮捕される」などのレッテル貼り
になると、名誉毀損と評価されるリスクが一気に高まります。
SNS・YouTubeでの発信者責任
今は誰もが、
- X(旧Twitter)
- YouTube
- TikTok
- ブログ
などで、簡単にたくさんの人に情報を広めることができます。
その一方で、
- 一度拡散した情報は完全には消せない
- 誤情報でも、多くの人が信じてしまう
- デマや誹謗中傷が、本人や家族を深く傷つける
といった問題も、毎日のように起きています。
今回の事件は、「影響力のある発信者が、どこまで慎重であるべきか」という点について、社会全体に大きな問いを投げかけています。
私たちも気をつけたい「名誉毀損」3つのNG
最後に、一般の私たちがSNSやブログで発信するときに、「これをやると名誉毀損リスクが高い」というNG例を3つだけ整理しておきます。
NG① 「ソース不明の噂話」を断定口調で広める
- 「聞いた話だけど、あいつクビになったらしいよ」
- 「○○は犯罪者だって噂だ」
など、裏が取れていない情報を「事実」として書くのは、名誉毀損リスクが高い行為です。
→ 少なくとも、
- 「噂レベルの話はそもそも書かない」
- どうしても書くなら「確認されていない情報であり、事実とは限らない」など、慎重な姿勢をとる
ことが重要です。
NG② 「この人は犯罪者」「もうすぐ逮捕される」などのレッテル貼り
- まだ捜査もされていない人に対して
- 「逮捕されるだろう」
- 「警察にマークされている」
などと書くのは、非常に危険です。
今回の事件も、まさに
「警察の取り調べを受けている」「逮捕予定だった」
といった発言の真偽が大きな争点になっています。
NG③ 個人が特定できる形での悪口・晒し行為
- 実名
- 顔写真
- 勤務先・学校名
などとセットで、
- 「あの人は最低だ」
- 「仕事ができない」
- 「犯罪スレスレのことをしている」
といった投稿をすると、名誉毀損やプライバシー侵害にあたる可能性があります。
まとめ:まだ「容疑」の段階。感情的になりすぎず、冷静に見ていこう
この記事では、
- 立花孝志氏が兵庫県警に名誉毀損容疑で逮捕されたという報道内容
- 名誉毀損罪の基本的な仕組み
- 今回のケースで問題とされているとみられる点
- SNS時代に私たちが気をつけたいポイント
を、できるだけわかりやすい言葉で整理してきました。
最後に、いちばん大切な点をもう一度だけ。
- 立花氏は「容疑がかけられている段階」であり、
- 裁判所が有罪を確定させるまでは、法律上は「無罪として扱われる」立場です。
そのうえで、
- 遺族のつらさや、
- 名誉を傷つけられた人の苦しみ、
- そして言論・告発の自由の重要性
これらをどうバランスさせるのか。
今回の事件は、私たち一人ひとりに「発信する責任」を問いかける出来事だと言えるでしょう。
感情的な議論に流されず、今後の捜査や裁判の行方を、冷静に見守ることが大切だと思います。


