まず、ニュースの全体像から。
告発状では、林氏の陣営の出納責任者(お金の責任者)が
- 少なくとも10人に合計18万1000円を選挙運動の報酬として渡した
- そのうち9人分は、報告書や領収書にウソの記載をした
- 別の5人分は、勝手に署名して領収書を偽造した
などと指摘されていると報じられています。
ここから、
「手を尽くせば、大規模な買収事件が明るみに出る可能性がある」
と上脇教授がコメントしたことが、今回のタイトルにある
「大規模な買収事件が明るみに出る可能性」 というフレーズの元ネタです。
公職選挙法違反・「買収」ってどういう意味?
今回の話は、公職選挙法 という法律にからみます。
公職選挙法とは?
一言でいうと、
「選挙をお金で汚さないためのルール集」
です。
- お金や物を配って票を集めるのは禁止
- 手伝ってくれた人への謝礼も、原則として とても厳しく制限 されています
選挙では、
- ポスター貼りなど「単純作業」のための人件費
→ 条件付きで「労務費」として支払いOK - 「○○候補をよろしく!」とお願いして回る人(運動員)
→ 原則として 報酬NG(ボランティアが基本)
というイメージです。
「運動員買収」とは?
法律では、選挙運動を手伝ってもらう代わりに
- 現金
- 商品券
- 物品(ビール券、米、ギフトセットなど)
を渡す行為は「買収」とされ、公職選挙法違反 になります。
今回の疑惑では、
- 「ポスター監視」「ポスター維持管理」
- 「はがきの宛名書き(筆耕)」
などの名目でお金が支払われていたが、
実際には「選挙カーの手振り」「つきそい」「遊説の手伝い」など、
本来は無報酬が原則の「選挙運動」をしていたのではないか、
と複数の証言が出ていると報じられています。
ここが、「運動員買収の疑い」と言われているポイントです。
具体的にどこが問題視されているのか?
報道をもとに、もう少し細かく見ていきます。
(1) 269人・約316万円の「労務費」
- 林氏の陣営は、収支報告書で
269人(+1社)に、合計約316万円の労務費を支払った と記載 - 名目は「ポスター維持管理費」「ポスター監視」「はがきの宛名書き」など
ここだけ見れば、「ポスターの貼り替え」などの単純作業の人件費にも見えます。
(2) しかし、現地の証言が食い違う
ところが、取材を受けた人の中には
- 「労務はしていない」
- 「お金は受け取っていない」
- 「そんな領収書にはサインしていない」
と話す人もいる、と報じられています。
また、
- 実際にやったのは「選挙カーから手を振った」「遊説について回った」など
→ 本来は「ボランティア扱い」になるべき活動ではないか?
という証言も出ています。
(3) 「ニセ領収書」疑惑も
さらに別の記事では、
- 本人が「自分の字じゃない」「サインしていない」と話しているのに
領収書にはその人の名前で署名がある
という、いわゆる「ニセ領収書」疑惑も報じられました。
これが事実であれば、
- 選挙運動費用収支報告書や領収書への虚偽記入
- 有印私文書偽造・同行使
といった、別の犯罪の疑いも出てきます。
なぜ「大規模な買収事件」になる可能性があるのか?
ここが、今回のタイトルど真ん中のテーマです。
上脇教授の見方
告発を行った上脇博之教授は、
「今回告発している事案は氷山の一角にすぎない」
「捜査機関が手を尽くせば、大規模な買収事件として明るみに出る可能性がある」
とコメントしています。
その根拠とされているのは、ざっくり言うと:
- 証言や領収書に、不自然な点がいくつもあること
- 関わった人の数がすでに 269人規模 にのぼること
- 一部だけをとっても「ニセ領収書」「もらっていないお金」などの話が出ていること
つまり、
「もし本気で全部調べたら、もっと多くの人・金額が問題になるかもしれない」
という意味での「大規模な買収事件になる可能性」です。
あくまで
- 専門家の「見方」
- 告発状の「主張」
であって、まだ裁判所が認定した事実ではありません。ここは強調しておきます。
林総務大臣・事務所側はどう主張しているのか?
片方の主張だけ聞くとバランスが悪くなるので、
林氏側の説明も押さえておきましょう。
報道によると、林氏の事務所はおおむね
「ポスター貼りや貼り替えといった機械的な作業の対価として支払ったもので、公職選挙法上問題のない支出だと認識している」
と説明しています。
また、国会の総務委員会などでは
- 「事務所において調査中」
- 「適切に対応する」
といった趣旨の答弁を繰り返していると報じられています。
つまり現時点では、
- 告発側・取材側:
「これは買収にあたる疑いが強い」「虚偽記入や偽造の疑いもある」 - 林氏側:
「ポスター作業などへの正当な労務費であり、違法ではない」
という 主張のぶつかり合い の段階です。
刑事告発されると、これからどうなる?
「刑事告発」と聞くと、すぐ逮捕・起訴と思いがちですが、実際の流れはもう少し段階があります。
- 告発状が受理されるかどうか
- 検察庁(今回は広島地検)が、内容をチェック
- 受理しないケースもゼロではありません
- 受理された場合、捜査がスタート
- 関係者への事情聴取
- 必要に応じて家宅捜索など
- 領収書や帳簿、銀行口座の動きなどを確認
- 起訴するかどうかの判断
- 犯罪の疑いが強く、証拠も十分と判断されれば起訴
- 証拠が足りないなどの場合は不起訴
- 裁判で有罪か無罪かが決まる
なので今は、まだ スタート地点に立っただけ の状態です。
もし買収が認定されたら、どれくらい重い話なの?
一般論として、公職選挙法の「買収」行為はかなり重い扱いです。
- 買収をした側:
→ 5年以下の懲役または禁錮、もしくは100万円以下の罰金など(条文により異なる) - 候補者本人に関係がある形で行われたと認定されると:
→ 当選無効、一定期間の立候補禁止などの可能性も
※ここでは法律の概要だけで、今回の事件でどうなるかは断定できません。
実際には、行為の内容・金額・人数・組織性など、いろいろな要素が考慮されます。
私たちが押さえておきたい3つのポイント
ここまでを、ニュースの見方という観点から整理します。
ポイント1:いまは「疑惑」「告発」の段階
- 現時点で確定しているのは「告発状が出された」という事実まで
- 有罪かどうかは、これからの捜査・裁判で決まる話
- SNSなどで、断定的に「有罪だ」「犯罪者だ」と言い切るのは、
名誉毀損のリスクもあるので要注意です
ポイント2:お金の出入りは「名目」と「実態」の両方が大事
今回のケースが象徴しているのは、
「帳簿上の名目(ポスター維持管理費)と、実際に行われた行為が合っているか?」
という点です。
- 名目がOKでも、実態が違えばアウトになりうる
- 逆に、実態が選挙法上認められる範囲なら、名目がおかしく見えても合法なこともある
ここは、素人には判断しにくいので、
きちんとした捜査や、裁判所の判断が重要になります。
ポイント3:一人の問題で終わるのか、構造の問題に広がるのか
上脇教授は、今回の件について
- 「氷山の一角」
- 「手を尽くせば、大規模な買収事件が明るみに」
と話していますが、これは
「一つの陣営・一人の政治家だけの話ではなく、選挙のやり方そのものに構造的な問題があるのでは?」
という問題提起でもあります。
過去にも、
- 政治資金パーティーの裏金問題
- 企業・団体献金の扱い
- 後援会への便宜供与
など、「政治とカネ」をめぐる疑惑は何度も起きています。
今回の件がどこまで広がるのか、
そして制度やルールの見直しにつながるのかどうかも、
私たちが見ていくべきポイントと言えます。
まとめ
最後に、この記事のポイントをもう一度。

