ニデックの「不適切会計疑惑」と、元社長・関潤(せき じゅん)氏の更迭劇。
ニュースを見ても、正直こう思った人が多いはずです。
「名前は聞いたことあるけど、結局“何がどうなってる”の?」
この記事では、
①関潤氏がニデックに来てから出ていくまでの流れと
②そのあとに表面化した不適切会計疑惑
を、時系列で整理していきます。
まず前提:「ニデック」と「関潤氏」って誰?
ニデックとはどんな会社?
ニデックは、旧社名「日本電産」。
小型モーターでは世界トップクラスの、日本を代表する製造業です。
- パソコンのHDDモーター
- スマホや家電向けの小型モーター
- 電気自動車向けのモーター
など、「モーター」と名の付くものなら、とにかく手広くやっている会社です。
創業者は永守重信(ながもり しげのぶ)氏。
超ハードワークで知られる“カリスマ経営者”で、
「売上10兆円」をぶち上げるような攻めのビジョンを掲げてきました。
関潤氏とは?
一方の関潤氏は、もともと日産自動車のナンバー3(副COO)まで登りつめた、いわゆる「プロ経営者」。
- 日産ではゴーン体制の中枢を経験
- 2019〜2020年頃にニデックへ電撃移籍
- 2020年:ニデックの社長兼COOに就任
- 2021年:CEO(最高経営責任者)にも就任し、「永守氏の後継者」と目される
一時は「後継者問題に決着がついた」とまで言われました。
ところが、この“蜜月”は長く続きません。
時系列①:関潤氏「電撃登場」から「突然の降格」まで
ここからは、ざっくり年表形式で見ていきます。
■ 2020年:期待の「外部出身社長」としてニデック入り
- 2020年、関氏はニデックの特別顧問〜社長兼COOに就任。
- 永守氏は「人格と能力を兼ね備えた後継者」として大絶賛していたと報じられています。
2021年には、社長兼CEOに就任。
名実ともに「ニデックのトップ」になり、永守氏は一歩引いて“会長”に回る形になりました。
「いい歌い手(永守氏)のあとでカラオケを歌う気分だが、自分も負けない」
そんな冗談まじりのコメントも残していて、当時はむしろ“明るい船出”のムードでした。
■ 2022年4月:CEOから突然の「降格」
しかし、状況が変わります。
- 2022年に入ると、業績の伸び悩みや株価の停滞が目立ち始めます。
- 2022年4月、永守氏が再び前面に出てきて、関氏は
- CEOから外され、「代表取締役社長兼COO」に
- 事実上の“降格”と受け止められました。
報道によると、この頃から永守氏と関氏の間で
- 早朝出社をめぐる意見の対立
- 会議での激しい叱責
など、現場レベルの軋轢が出てきたとされています。
時系列②:2022年夏〜秋「更迭ドキュメント」
■ 2022年7月:永守氏から「通知書」2通
ダイヤモンド社の取材によると、2022年7月1日と4日、永守氏から関氏に「2通の通知書」が渡されます。
これが、事実上の「最後通告」だったと報じられています。
その背景として、
- 永守氏が求める「短期での高い利益目標」
- 関氏側の「現場実態を見た、より慎重な姿勢」
このギャップがどんどん大きくなっていたようです。
■ 2022年9月2日:社長解任(事実上の更迭)
- 2022年9月2日、ニデックは
「業績悪化の責任を取るため」として、関氏の社長・COO辞任を発表します。 - 後任には、創業メンバーの一人である神戸治氏が就任。
もともとは9月末の臨時株主総会までは在任する案もあったものの、
最終的には9月2日付での退任に前倒しされた、とも報じられています。
このあたりから、
「関氏は“追い出された”のでは?」
という見方が強まり、「更迭劇」としてメディアでも大きく取り上げられるようになりました。
■ 2023年2月:関氏は台湾・鴻海(ホンハイ)へ
関氏は、その後どうしたのか。
- 2023年2月、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)が
電気自動車(EV)事業のCSO(最高戦略責任者)として迎え入れたことを発表。
つまり関氏は、
「ニデックを去ったあと、EVビジネスの世界で再び要職に就いた」
という流れになります。
時系列③:2025年、今度は「不適切会計疑惑」が噴出
関氏がニデックを去って約3年。
今度は会社側で「不適切会計」の疑惑が表面化します。
ここは情報がやや複雑なので、ポイントを整理してみます。
■ 2025年5〜6月:海外子会社の監査遅延から始まる
- 2025年5月、ニデックは
「海外子会社の監査が遅れている」というリリースを出します。 - 会計監査人からの監査報告が間に合わず、
有価証券報告書の提出を2025年9月26日まで延長することに。
この時点では、
「イタリア子会社での貿易取引と関税の問題」
が中心と説明されていました。
■ 2025年7〜9月:中国子会社の処理をきっかけに、第三者委員会設置
- 2025年7月、中国の子会社(ニデックテクノモータ浙江)で
値引きに相当する約2億円分の入金が、
適切に会計処理されていなかった疑いが浮上。 - 調査の過程で、
「資産の評価減のタイミングを恣意的に遅らせた疑い」など、
他のグループ会社にも怪しい処理が広がっているかもしれない
という資料が見つかります。
これを受けて、
2025年9月3日、ニデックは第三者委員会の設置を発表。
- 外部の弁護士・会計士を入れて調査
- 経営陣の関与・認識の有無も含めて検証
という、かなり踏み込んだ内容になっています。
■ 2025年9月末:監査法人が「意見不表明」、東証が“特別注意銘柄”に
- 調査が長引いた結果、
2025年9月26日に提出された有価証券報告書について、
監査法人は「意見不表明」という異例の対応を取ります。 - これを受けて、10月には東京証券取引所が
ニデック株を「特別注意銘柄」に指定。
東証を傘下に持つ日本取引所グループの社長は、
「内部統制の改善を急がないと、最悪の場合“上場廃止”もありうる」と、
かなり強いトーンで改善を求めています。
■ 2025年11月:損失は「877億円」規模に
ニデックが発表した2025年度上期決算では、
- 売上高は増収
- しかし、計877億円規模の損失を特別に計上し、
純利益は大幅減となりました。
内容としては、
- 問題取引に関連する損失引当金
- 一部事業での採算悪化に備えた評価損
などが積み上がった結果とされています。
■ 会計処理の中身:グレーな“慣行”が広がっていた疑い
東洋経済などの報道によれば、
ニデックでは過去から、
- 売上や利益を前倒し・後ろ倒しするような調整
- 減価償却や資産計上のタイミングを“工夫”する
- 本社と子会社の数字のズレを「違算」と呼び、毎期のように埋め合わせていた
といった、グレーな会計慣行が存在していた可能性が指摘されています。
ただし現時点(2025年12月)では、
第三者委員会の最終報告はまだ公表されておらず、
「誰が、どこまで意図的にやったのか」
という点は調査中であることに注意が必要です。
「不適切会計」と「粉飾決算」はどう違う?
ここで、用語も軽く整理しておきます。
JBpressなどの解説では、ざっくり次のように分けられます。
- 不適切会計
- 会計基準から外れた処理
- すべてが「犯罪レベル」とは限らないが、投資家を誤解させるおそれがある
- 不正会計・粉飾決算
- 利益水増しなど、意図的に数字を“盛る”行為
- 場合によっては金融商品取引法違反など、明確な違法行為にあたる
ニデックのケースは現時点では
「不適切会計の疑い」とされており、
第三者委員会が、
「単なるルール違反」で済むのか、
「粉飾レベル」まで踏み込むのか、
まさにそこを調べている段階だと言えます。
この騒動と「関潤氏の更迭」は関係あるのか?
ここが、みんな一番気になるポイントではないでしょうか。
「関さんを追い出したあとに“不適切会計”って、どういうこと?」
と。
報道されていること
最近の東洋経済・文春・文藝春秋などの報道では、
- 「永守イズム」と呼ばれる、短期的利益を強く求める文化が
会社全体にあり、 - そのプレッシャーの中で、
「売上・利益の前倒し」「評価減の先送り」といった
会計上グレーな手法が常態化していた可能性
が指摘されています。
また、永守氏が社内の集会で
「関を連れてきた頃から会社がおかしくなった」
と発言したとも報じられており、
関氏の名前が改めて取り沙汰されています。
ただし、ここは冷静に見ておきたい
ここで大事なのは、
- 現時点で、
「関氏本人が不正会計を指示した」と公式に認定されたわけではない - 第三者委員会の調査対象は、
ニデックの経営陣やグループ会社全体の会計処理であり、
個人の責任範囲はまだはっきりしていない
という点です。
つまり、
「関潤=不正会計の黒幕」
と決めつけるのは、現段階ではやりすぎです。
むしろ、
- カリスマ創業者が掲げた“高すぎる目標”
- それに応えようとしてきた歴代経営陣・現場
- その中で積み重なった「数字のごまかし体質」
といった組織全体の問題として見るほうが筋が通っている、
という論調が多くなっています。
今回の件から、私たちが学べるポイント
トレンドワードを追いかけていると、
「結局、大企業って何やってるの?」
と、他人事に見えてしまいますが、
今回のニデック問題は、私たち個人にも通じる教訓があります。
① 数字だけ追いかけると、現場はムリをしはじめる
短期の売上・利益を強く求めすぎると、
- 本来なら今期で落とすべき損失を来期に回す
- 売上を前倒しして、今期だけ良く見せる
といった「小さなごまかし」が、
いつの間にか“会社の文化”になってしまう危険があります。
これは個人でも同じで、
「今月のクレカ引き落としが怖いから、とりあえずリボ払い」
を繰り返していると、
気づけば雪だるま式に…というのとよく似ています。
② カリスマ経営者ほど、ガバナンスが大事
永守氏のように、
「一代で世界企業を作り上げたカリスマ」は、
日本では貴重な存在です。
その一方で、
- 「トップの一声」が強すぎる
- 異論を言いにくい
- 楽観的な目標がそのまま数字に落とし込まれる
という構造になりやすく、
チェック機能(ガバナンス)が働きにくい面もあります。
今回、東証や監査法人がかなり厳しい態度を見せているのは、
「カリスマ企業ほど、外からブレーキをかけないと危ない」と
市場全体が学んできた結果とも言えます。
③ 「わからないからスルー」じゃなく、ニュースを自分の言葉で整理する
不適切会計や経営危機のニュースは、
つい「難しそう」とスルーしがちです。
でも、
- どんな会社で
- どんな人がトップで
- 何が起きて
- いま何を調査中なのか
ここまで整理できれば、
投資判断だけでなく、自分の働き方や会社を見る目にも生きてきます。
今回の記事のように、
まずは中学生にも説明できるレベルまで噛み砕いてみるのが、
実は一番の近道かもしれません。
まとめ
最後に、ここまでの流れをギュッとまとめておきます。
- 2020〜2021年
- 日産出身の関潤氏がニデック社長〜CEOに就任
- 永守氏の後継者として期待される
- 2022年4月
- 業績への不満などから、永守氏が再び前面に
- 関氏はCEOから“降格”
- 2022年9月
- 関氏が「業績悪化の責任」を理由に社長・COOを辞任(事実上の更迭)
- 2023年2月
- 関氏は台湾・鴻海のEV事業CSOに就任
- 2025年5〜9月
- 海外子会社の監査遅延 → イタリア・中国子会社の会計処理の問題が発覚
- グループ全体で不適切会計の疑いが判明し、第三者委員会設置
- 2025年9〜11月
- 監査法人が「意見不表明」、東証が特別注意銘柄に指定
- 877億円規模の損失を計上し、業績が大きく悪化
- 2025年12月現在
- 第三者委員会の最終報告はまだ
- 経営陣、とくに永守体制の責任範囲に世間の注目が集まっている
一番「不適切」なのは、案外…
ここまで読んで、
「なんかニデック、大変なことになってるなあ」
と思ったかもしれません。
でも、この記事を閉じたあと、
もしあなたが
- レシートを財布に突っ込んだまま放置
- 家計簿アプリも3日で放り投げ
- 「まあボーナス出たし大丈夫っしょ」と使いすぎ
…なんてやっていたら、
それもある意味で“不適切会計”予備軍です。笑
ニデックの問題はもちろん重い話ですが、
ここから「数字をごまかさない」「ムリな目標を押しつけない」という教訓を、
自分の暮らしにも会社にも、そっと持ち帰れたら――
それこそが、一番“適切”なオチかもしれませんね。

