2025年12月22日、漫画『満州アヘンスクワッド』の作画を担当していた漫画家・鹿子先生が、37歳という若さで亡くなられたことが報じられました。死因として伝えられたのが「脈絡膜悪性黒色腫」という病気です。スポニチ Sponichi Annex+1
ニュースでは、この病気について
国内の発症は年間およそ50人程度の、きわめて珍しいがん
初期はほとんど症状がないが、進行すると視界が欠ける・ぼやける・歪む
といった説明が紹介されています。国立公文書館+1
ファンとしてショックを受けた人も多いでしょうし、作品を通して鹿子先生を知ったばかりの人もいるはずです。
そして同時に、
- 「目のほくろのがんって何?」
- 「自分や家族にも起こりうるの?」
- 「どんな症状のときに病院へ行けばいいの?」
と、不安と疑問が一気に押し寄せてきた人も多いと思います。
この記事では、
鹿子先生への敬意とともに「脈絡膜悪性黒色腫」という病気を整理し、初期症状や受診の目安をまとめます。
※診断や治療を決める材料ではなく、「まずは知る」「気づく」ための入口として読んでくださいね。少しでも心配な点があれば、必ず眼科・医療機関を受診してください。
「脈絡膜悪性黒色腫」とは? ― 目の中にできる「ほくろのがん」
脈絡膜ってどこ?
目の断面をイメージしてみましょう。
- 一番外側:白目や黒目(角膜)を包む強膜
- その内側:血管がたくさん通っている脈絡膜
- さらに内側:ものを見るフィルムの役目の網膜
脈絡膜は、網膜に酸素や栄養を届ける「血管だらけの内側の壁」のような場所です。
ここには、肌のほくろの色と同じ「メラニン色素」を作る細胞もいて、
この細胞ががん化すると「悪性黒色腫(メラノーマ)」になります。
そのうち、脈絡膜にできた悪性黒色腫が
「脈絡膜悪性黒色腫」=目の中の“ほくろのがん”と呼ばれているものです。
どれくらい珍しい病気なのか
国立がん研究センターなどの情報によると、
- 日本で「ぶどう膜(虹彩・毛様体・脈絡膜)の悪性黒色腫」は年間およそ50人程度と推定
- 「希少がん」と呼ばれる、患者さんの少ないがんの一つ
とされています。
がん全体から見れば本当に少ない数ですが、
「珍しいから、自分には関係ない」とは言い切れないのが難しいところです。
初期症状は? ― 一番の特徴は「気づきにくさ」
初期は無症状のことが多い
脈絡膜悪性黒色腫のやっかいな点は、
初期にはほとんど自覚症状がないことです。
- 国立がん研究センター:
「初期ではあまり症状がありませんが、進行すると視界が欠ける・ぼやける・歪むなどを自覚するようになります」 - 脈絡膜腫瘍についての医療解説では、
「発見された時点で、約3割の患者さんは自覚症状なしだった」という報告もあります。
つまり、
「これといって困ってないのに、たまたま検診で見つかった」
というケースも、決して珍しくないのです。
それでも出てくる“サイン”たち
とはいえ、進行とともに出てくるサインもあります。
眼の悪性腫瘍や眼メラノーマの情報をまとめると、代表的なものは次のような症状です。
- 視界の一部が欠けて見える
- 例えば、時計の数字の一部が見えない
- ものがぼやけて見える
- 文字や線がゆがんで見える
- 新聞やスマホの文字が波打って見える感じ
- 視界に黒い影・黒いシミのようなものが出る
- 急に片方の視力が落ちた気がする
- 場合によっては目の痛みや充血が出ることも
ただし、これらの症状は
- 網膜剥離
- 加齢黄斑変性
- 緑内障
- 眼精疲労
など、他の目の病気でも起こりうるものです。
だからこそ、
「これが出たら脈絡膜悪性黒色腫!」と素人が決めつけることはできません。
でも「何かおかしい」というサインには間違いないので、眼科でのチェックが大事。
というイメージでいてください。
皮膚の「ほくろのがん」との違い・共通点
ニュースの中では「目のほくろのがん」と紹介されることが多く、
皮膚のメラノーマ(悪性黒色腫)と混ざってしまいがちです。
共通点:どちらも「メラノサイトのがん」
- 皮膚のほくろのがん → 皮膚にあるメラノサイトががん化
- 脈絡膜悪性黒色腫 → 目の中のメラノサイトががん化
という意味では、同じタイプのがん(メラノーマ)です。
皮膚メラノーマでよく言われる「ABCDE(形・境界・色・直径・変化)」というチェックポイントは、
「ほくろやシミが、だんだん大きく・いびつに変わる」というイメージですね。
違い:見えない場所にできる
皮膚のほくろと違って、
脈絡膜の「ほくろ」は、自分の目では見えません。
- 鏡で見ても、黒目の奥の奥にあるので見えない
- だからこそ、本人が気づきにくい
- 見つかるきっかけは、眼底検査で医師に見つけてもらうこと
ここが最大の違いであり、厄介なポイントです。
どうやって見つかる? ― 検診・眼科での検査
1. 眼底検査(散瞳検査)
脈絡膜悪性黒色腫が疑われるとき、まず行われるのが眼底検査です。
- 瞳を広げる目薬(散瞳薬)をさす
- 専用のレンズとライトで、網膜や脈絡膜の状態を観察
- 褐色〜黒っぽい盛り上がりがないか、網膜の剥がれがないかなどを見る
健康診断や人間ドックで「眼底写真を撮ります」と言われるあれです。
このときに、たまたま写り込んだ“影”から見つかることもあります。
2. 超音波検査(エコー)、CT・MRIなど
さらに詳しく調べる場合には、
- 目の超音波検査(眼エコー)
- 造影検査
- CTやMRIで、腫瘍の大きさや形、他の部位への転移の有無を確認
などが行われます。
ここまでくると「ただのシミ」なのか「がんの可能性が高いのか」を
医師が総合的に判断していくイメージです。
治療法は? ― 「目を残す治療」も選択肢に
脈絡膜悪性黒色腫の治療は、腫瘍の大きさや位置によって変わります。
1. 眼球摘出(目を取る手術)
- 腫瘍が大きく、視力の温存が難しい場合
- もしくは、命を守るために腫瘍を確実に取り除く必要がある場合
に選ばれる方法です。
聞くだけでつらく感じますが、
「命を守ることを最優先にする」
「痛みや出血・圧迫感から解放される」
という意味では、今でも大切な選択肢です。
2. 放射線治療(小線源治療・粒子線・重粒子線)
近年は、目を残すことを目標にした治療も少しずつ広がっています。
- 腫瘍のある部分に、外側から放射線をあてる
- 眼球の外側に放射線を出す小さな板(小線源)を貼り付ける
- あるいは、粒子線・重粒子線といった特殊な放射線でピンポイントに攻撃する
など、施設によって方法はさまざまです。
もちろん
- 腫瘍の位置によっては難しい
- 副作用や視力への影響も出る可能性がある
など、良いことばかりではありませんが、
「場合によっては、目を残す選択肢もありうる」
ということは、多くの方にとって希望になるポイントだと思います。
3. 早期発見ほど「視力」と「命」の両方を守りやすい
海外のデータを含めた報告では、
- 小さいうちに見つかった脈絡膜メラノーマほど、視力と命の予後が良い
- ぶどう膜メラノーマ全体では、約半数の患者さんが、のちに転移(特に肝臓)を起こすという報告もある
とされています。
だからこそ、
「早く見つける」=「目を残せる可能性」+「命を守る可能性」が高まる
という、とてもシンプルだけど大事な話につながってきます。
自分でできる“目”チェックと、受診の目安
1. 片目ずつ「見え方」をチェックしてみる
家でもできる簡単なセルフチェックとしておすすめなのは、
片目ずつ、ものがどう見えているかを確認する習慣
です。
- 右目だけ手で隠して、左目だけでテレビやスマホの文字を見る
- 次は左目だけ隠して、右目で見る
- まっすぐな線(本棚・窓の枠・画面の枠など)が、ゆがんで見えないか
- 視界の一部が暗くなっていないか
などを、ときどき意識してみるだけでも違います。
ここで「ん? 右だけなんか変だぞ?」と感じたら、
一度眼科で相談するきっかけになります。
※ただし、これはあくまで“気づくための習慣”であって、
脈絡膜悪性黒色腫を自分で見つける方法ではありません。
2. こんなときは、放置しないで受診を
次のような症状が片目だけに出ているときは、
「疲れ目かな」と自己判断せず、早めに眼科を受診してほしいサインです。
- 片目の視界に、黒いシミ・影・カーテンのようなものが見える
- 片目だけ視界が欠けている気がする
- まっすぐな線が、波打って見える・ゆがんで見える
- 特に理由もなく、片目の視力が急に落ちた気がする
- 見ると痛みや強い違和感がある
もちろん、これらの症状があるからといって
すべてが脈絡膜悪性黒色腫とは限りません。
それでも、
「何もないですね」で終われば安心
「何かあっても、早く見つかれば治療の選択肢が広がる」
という意味で、損はしない受診だと思ってください。
3. 定期的な眼科検診のすすめ
- コンタクトレンズを使っている人
- 高血圧や糖尿病など、目の合併症が出やすい持病がある人
- 40代以降で視力の変化が増えてきた人
は、できれば年1回程度の眼科チェックを習慣にしておくと安心です。
人間ドックの眼底検査や、
「コンタクトの更新ついで」の診察から見つかることもあります。
鹿子先生の訃報から、私たちが学べること
鹿子先生は、原作者・門馬司先生とのタッグで『満州アヘンスクワッド』を連載し、
重い歴史と人間ドラマを、圧倒的な画力で描き続けてこられました。
訃報のニュースをきっかけに、多くの人が初めて
- 「脈絡膜悪性黒色腫」という病名
- 「目のほくろのがん」という存在
- 「年間50人ほどしか発症しない希少がん」であること
を知りました。
これは、とても悲しいきっかけでありながらも、
たくさんの人に“目のがん”への関心を広げた出来事でもあります。
病気の名前を知ること
目の違和感を「気のせい」と片付けないこと
検診や眼科でのチェックを後回しにしないこと
こうした小さな意識の変化が、
もしかしたら「自分や誰かの未来」を守ることにつながるかもしれません。
鹿子先生の描いた1コマ1コマを思い出しながら、
私たちも自分の「視界」と「これからの時間」を大事にしていきたいですね。
最後に ― 「スマホの見過ぎ」ってことにして済ませない
ここまで読んで、
- 「最近、片目だけ見え方がおかしい気がする…」
- 「まあスマホの見過ぎだろう」と思って放置してた…
という人がもし一人でもいたら、
この記事を書いた意味があるな、と思います。
目の違和感って、つい
「寝不足かな」
「スマホやりすぎただけだろう」
で済ませがちです。
でも、もしかしたら
「スマホの見過ぎかどうか」
プロにツッコんでもらうチャンス
かもしれません。
ちょっと勇気を出して、
眼科の先生にそのツッコミ役をお願いしてみませんか?
もし原因が本当にスマホなら、
先生に「スマホ減らしなさい」と怒られて終わりです。
…それはそれで、
人生でけっこう貴重なセリフかもしれませんけどね。

