最新の公開情報をもとに、フォームの特徴、なぜ速いのか、まねする時のコツ、ケガ予防まで、実用的に解説します。
まずは「小林香菜選手ってどんなランナー?」
ポイント:彼女は「サークル出身→実業団」というユニークな道を通って、一気に日本トップに上がった新世代ランナーです。
走り方のいちばんの特徴:高いピッチ(回転)×コンパクトなストライド
小林選手のフォームは、脚の回転がとても速い(ピッチ型)のが大きな特徴です。見た目は“小さな歩幅でチョコチョコ走る”ように見える瞬間もありますが、テンポよく回して前に進むのが持ち味です。
本人は「自分でもう少しストライド(歩幅)を伸ばせば、タイムは確実に上がるはず」と話しており、回転を意識するというコーチの教えを大事にしています。脚を“上げる”より“回す”。自転車のペダルのように脚が回るイメージだそうです。
かんたんに言うと
「大きく跳ばない」「淡々と回す」「接地は素早く」。この3つの組み合わせで、効率よくスピードと距離を両立しています。
なぜ「ピッチ型」がマラソンで強いの?
難しい話は置いて、カラダの使い方の“しくみ”をやさしく説明します。
- 上下動が少ない=ムダが少ない
大きく跳ぶ(オーバーストライド)と上下にエネルギーが逃げます。ピッチ型は上下のブレを小さくし、前方向の推進力にエネルギーを集中できます。 - 接地時間が短い=脚にやさしい
地面に長くべったり乗らないので、ブレーキがかかりにくい。着地→離地が素早いほど、スピードが落ちません。 - 心拍のリズムを安定させやすい
一定テンポで細かく回すと、呼吸リズムも合わせやすく、長距離での“巡航”がしやすいです。 - 小柄でも勝てる走り
体格でストライドを稼げないなら、回転で距離を稼ぐ。小林選手はこの戦略で大きな成果を出しています(大阪で2:21:19、世界陸上入賞)。
小林選手の「準備のしかた」:アップとドリルをとにかく丁寧に
練習前にはドリルや初動負荷カムマシンのトレーニングをほぼ毎日行い、アップとダウンだけで合計80分かけるといいます。目的は股関節の動きをよくする・ケガ予防。ここに時間を惜しまないのが小林流です。
ここが一般ランナーとの大きな差
「走る時間」だけでなく準備と片付け(アップ&ダウン)に投資する。これが結局、速さと継続を生みます。
実際のフォームづくり:まねする時の超具体チェックリスト
下の「7つのS」を意識すれば、ピッチ型フォームに近づけます。今日のジョグから試せます。
- Speed of feet(足の回転)
メトロノームやランニングアプリで180spm前後(体力次第で±10)を目安にテンポ走・ビルドアップで練習。※目安であり、ムリな矯正はNG - Small steps(小さめの歩幅)
胸を少し前に、腰高を保ち、接地は体の真下。前へ“踏み出す”より、真下に置く感覚。 - Soft landing(やわらかい接地)
ドスン禁止。足音を小さく。足裏全体〜やや前寄りで、“スッ”と触れて“スッ”と離れる。 - Straight posture(まっすぐの姿勢)
目線は遠く。みぞおちの少し上を前に運ぶイメージ。反り腰・猫背はNG。 - Swing like pedals(ペダルのように回す)
ひざを高く“引き上げる”意識は弱めでOK。股関節から脚がクルクル回るイメージ(小林選手のキーワード)。 - Short ground contact(短い接地時間)
「トン・トン・トン」と一定リズム。着地した足はすぐ後ろへ“流す”。 - Shoulders relaxed(肩の脱力)
肩と手はやわらかく振る。拳は“梅干し1個”ぶん軽く握るくらい。
ドリル&補強:股関節をやわらかく、回転を通す
小林選手が重視するのは股関節の可動性と回転の感覚(初動負荷・ドリル)。市民ランナー向けに置き換えると、次のメニューが実践的です。
目安:アップ20〜30分(ジョグ+ドリル)、ダウン20〜30分(ジョグ+静的ストレッチ)。合計40〜60分を“準備と片付け”に。小林選手はここをさらに厚く(合計80分)行っています。
走トレ(ラン)の組み立て:ピッチ型が生きる週間例
※これは一般ランナー向けの一例です。小林選手のそのままのメニューではありません。考え方を取り入れた“型”です。
- 月:完全休養 or 30~40分ゆるジョグ+モビリティ
- 火:テンポ走 20~30分(マラソン~ハーフの余裕あるペース)
→一定ピッチを最優先。呼吸が乱れない範囲で。 - 水:回復ジョグ 40~60分+ドリル
- 木:閾値走(例:3~5km×1~2本/あるいは10~20分×2)
→ピッチを維持して“押す”感覚。 - 金:回復ジョグ 30~50分+補強
- 土:ビルドアップ走 60~90分
→後半に向けて回転を少しずつ上げる練習。 - 日:ロング走 90~150分(会話できるペース)
→巡航のピッチを体に覚えさせる。給水・補給の練習も。
走行距離は体力と予定次第。まずは月150~200kmをメドに、ゆっくり増やすのが安全です(「走る量を増やすとフルのタイムが上がりやすい」という実践データの話題もありますが、オーバーワークに注意)。
レース当日の走り方(ピッチ型のコツ)
- 前半は“リズム優先”
タイムを追うより、呼吸とピッチが安定するかを最優先。 - 風・坂で“無理に歩幅を広げない”
つぶれやすいので、回転でごまかす。腕振りでテンポを守る。 - 給水は合図→とる→戻す
一連動作を崩さない。走りのテンポが止まると心拍も乱れます。 - 30km以降は“上半身で刻む”意識
脚が重くなっても、腕の振りとリズムで前へ。
ケガ予防と疲労管理(ここが“継続”のカギ)
よくあるQ&A
Q1:ピッチはいくつが正解?
A:体格・筋力・心肺で変わります。170~190spmの中で、自分が呼吸を乱さず巡航できるテンポを探しましょう。最初から数字を追いすぎず、音(足音の一定リズム)で感じられるとGOOD。
Q2:歩幅は伸ばさなくていい?
A:ムリに広げないが正解。“腰高+真下接地”が先、歩幅は結果として少しずつ伸びる。小林選手本人も、「もう少しストライドを伸ばせたらタイムは上がる」と“将来の伸びしろ”として語っています。
Q3:アップに時間をかける意味ある?
A:あります。股関節が回る→短い接地でも推せる→ピッチが守れる。小林選手はアップ&ダウンで合計80分という徹底ぶり。これはケガ予防と後半の粘りに直結します。
小林香菜選手の「学びどころ」まとめ
もっと知りたい人へ(公式情報)
まとめ
- 毎回のアップに“ドリル10分”を追加(A/Bスキップ、腿上げ)。
- テンポ走は“呼吸<ピッチ”を意識(息がラクな範囲で回転一定)。
- 着地音を小さく(“トン・トン・トン”の一定リズム)。
- ロング走は“会話できるペース+ピッチ維持”。
- ダウンに“股関節まわし+軽い補強”を5~10分。
- 週1回、歩幅は気にせず“回す日”を作る(ビルドアップ)。
- 週1回、動画で自分の足音と上半身の脱力をチェック。
この7つだけでも、フォームのムダが減り、巡航力が上がるはず。小林香菜選手のように「回転で走りを組み立てる」感覚を、自分の体に少しずつしみ込ませていきましょう。継続こそ最大の近道です。