坂井瑠星(さかい・りゅうせい)という騎手の名前が、2025年11月2日を境に、日本だけでなく世界の競馬ファンに一気に焼きつきました。
理由はシンプル。彼がフォーエバーヤングという日本の競走馬に乗って、アメリカの「ブリーダーズカップ・クラシック(BCクラシック)」を勝ったからです。
日本調教馬がこの大レースを制したのは史上初で、これは「日本のダート競馬がついに世界の頂点を取った日」とまで言われています。
でも、ただ勝っただけじゃないんです。
レースのあとの坂井騎手のコメントが、あまりに正直で、人間らしくて、そしてプロとしてカッコよすぎたんです。
今回の記事は「坂井騎手はどんなコメントを残したのか?」をテーマに、その言葉の意味をわかりやすく読み解きます。レース展開の解説、レース前に語っていた本音、日本競馬にとってこの勝利がどれだけ大きいのかもセットでまとめます。
まず背景から:BCクラシックってどれくらいヤバいレース?
ブリーダーズカップ・クラシック(BCクラシック)は、アメリカのダート競馬(砂のコース)の中でも特別な位置づけを持つG1レースです。距離は約2000mクラス、場所は2025年はカリフォルニア州デルマー競馬場。毎年、その年の「ダート王決定戦」と言われることもあるほど、世界中の一流馬が集まります。
ここで勝つというのは、たとえば「ボクシングのヘビー級世界タイトルを取る」「サッカーでW杯優勝ゴールを決める」みたいなもので、ダートで世界最強を名乗っていい資格を手に入れる、という意味を持ちます。
そんな舞台で、日本の馬フォーエバーヤングが優勝。鞍上は坂井瑠星騎手。これは日本調教馬として史上初でした。
だからこそ、レース直後の坂井騎手の言葉がニュースで連続して流れたんです。
レース後の坂井騎手のコメント①
「夢のようです。実は自信がありました」
これはレース直後に報じられた、もっとも有名なコメントです。
この短い言葉の中には、2つの感情が同時に入っています。
「夢のようです」
これはあたり前のように聞こえるけど、実はすごく重い言葉です。
なぜなら坂井騎手は、ずっと矢作芳人(やはぎ よしひと)調教師のもとで海外レースにも挑み続けてきた若い騎手で、「世界で勝てるジョッキーになる」ことを目標にやってきた存在だからです。
彼は日本だけにとどまらず、オーストラリアに武者修行に出たり、海外のビッグレースに積極的に乗りに行って経験を積んできました。
普通、若い騎手が海外の一流G1、それもアメリカのダート最高峰決戦に乗れること自体がレアです。ましてや、その馬で勝つなんて「人生に一度あるかどうか」級。
そのとてつもない瞬間をつかんでいるのに、本人としてもまだ信じられない。だから「夢のようです」という素直な一言がまず出てきた。
ここには、計算ではなく“感情”がストレートに出ています。
「実は自信がありました」
これがすごい。かっこいい。
この一言からわかるのは、坂井騎手が「勝てる馬に乗っている」という手応えをレース前からリアルに感じていた、ということです。
これは単なるビッグマウスではありません。坂井騎手は、フォーエバーヤングと世界を転戦しながら、サウジダービー、UAEダービー、サウジカップ、東京大賞典など、国や条件が変わっても結果を出し続けた経験を積んでいます。
つまり「この馬なら通用する」という確信は、夢見がちな期待ではなく、“体感してきた裏付け”なんです。
「海外でも勝てる馬だ」と、もう何度も現場で見てきた。だから自信があった。この「根拠ある自信」を堂々と言えるところが、坂井騎手というプロの強さです。
レース前からの本音②
「この馬の力をしっかり引き出して、なんとか世界一になりたい」
これはBCクラシックの前(現地入り後)に、坂井騎手が語っていた言葉として報じられています。
このコメントは、実はかなり重要です。
「勝ちたい」ではなく「世界一になりたい」と、はっきり“世界”という言葉を使っていること。
そして「自分が勝ちたい」というより「この馬の力をしっかり引き出して」という主語にしていること。
つまり坂井騎手は、あくまで主役はフォーエバーヤングだとわかっていて、自分の役目は“その馬の100%を出させること”だと考えている、という姿勢がはっきり出ています。
これ、めちゃくちゃプロのマインドです。
競馬って、表向きは「馬が走っているスポーツ」に見えますが、実際は騎手の判断が勝負を左右します。スタート直後どこに入るのか、コーナーでどの位置をキープするのか、直線でどのタイミングで仕掛けるのか。それ次第で、同じ馬でも勝てたり負けたりします。
坂井騎手は「自分が歴史を作る」みたいなヒーローコメントよりも、「馬の力を100%引き出す」という使命感を前面に出していた。そこに、彼のプロ意識・冷静さ・覚悟がつまっているんです。
そして実際にレースでそれをやってのけた、というのが今回のドラマです。
レース内容はどうだった?坂井騎手は何をしたの?
報道や実況から整理すると、フォーエバーヤングはスタート直後から前の位置(2番手あたり)につけ、4コーナーではなんと先頭に立つ強気の競馬を見せ、そのままアメリカの強豪馬たちの追い上げを抑え込んでゴールしました。
これはかなり“正面からの勝負”です。ごまかしがききません。
たとえば後ろでじっと足をためて、最後だけ一気に差す、というような「ワンチャン狙い」の競馬ではないんです。
正面からぶつかりにいって、世界の一流馬たちに「力勝負で勝った」。
この乗り方は、ものすごく勇気がいります。前で競馬するということは、プレッシャーをすべて自分が受けるということ。後ろに控えていれば、他馬の様子を見ながら展開に合わせて仕掛けられます。でも前は逃げ場がない。捕まえに来られたら、もう押し返すしかない。
あえてそこに行って勝ち切った。これは「自信がありました」という坂井騎手の言葉とピタッとつながります。
・馬の力を100%引き出すこと
・世界一になること
・自信があるから恐れずに主導権を取りに行くこと
この3つが、ちゃんと走りそのもので証明されました。
「夢のよう」と言いながら、実は“たどりつくべき場所”だった
坂井騎手の経歴をざっくり振り返ると、彼は若いころから海外で経験を積んでいます。オーストラリアでも騎乗したり、海外ビッグレースにばんばん乗りに行ったりと、「日本の中だけに収まらない」騎手人生を歩んでいます。
さらに、彼のキャリアの中でターニングポイントになったのが、矢作芳人調教師のもとで経験を積み続けたこと。矢作厩舎は「海外で勝ちにいく」姿勢がとても強いチームです。日本のG1だけで満足せず、サウジ、ドバイ、アメリカといった大舞台に“本気で取りにいく”スタイルを何年も続けてきました。
坂井騎手は、その「世界で勝ちにいくチーム」の主戦として育ってきたわけです。
だから彼にとってBCクラシック制覇は「まさか取れちゃった信じられないミラクル」というより、「ついにこの地点まで来た」という着地点でもあるんです。
だからこそ、あの二重の感情が同居するわけです。
- 夢のようです(=ついに来た。やっと届いた)
- 実は自信がありました(=この馬とこのチームなら、ここを獲れるはずだと思っていた)
この温度差が、本当に人間くさくて美しい。
これは坂井騎手1人の物語じゃない:チームとしての勝利
坂井騎手はよく「馬の力を引き出す」という言い方をします。
これは聞き流すと当たり前に見えますが、実は“騎手は主役じゃない”という強いスタンスでもあります。
今回の勝利の裏には、もちろんフォーエバーヤングという才能そのものがあるし、世界で勝てる配合(血統)で生まれたこともあるし、海外で戦うことを前提にローテーションを組んできた矢作厩舎とチームの準備、そして「世界で勝てる馬主になる」と宣言し、本当に実現させてしまった藤田晋オーナーの投資戦略もあるわけです。
坂井騎手のコメントって、この全員の努力へのリスペクトなんです。
自分をヒーローにしない。馬とチームをヒーローにする。でも、やるべきことはすべてやる。冷静に勝ち切る。
それが坂井騎手のスタイルとして、今回ものすごくはっきり出たと言えます。
「世界一になりたい」は、もう“夢”ではなく、これからのスタンダードになる
今回のBCクラシック制覇は、日本の競馬にとってもものすごい意味があります。
なぜなら、長い間「日本のダートはアメリカには届かない」と言われ続けてきたからです。ダートはアメリカの看板舞台で、「本場アメリカの一流ダート馬が最強」というイメージは、競馬ファンの間ではずっと常識でした。
その常識を、坂井騎手とフォーエバーヤングが壊しました。
坂井騎手はレース前から「世界一になりたい」と言っていました。
そしてレース後には「夢のよう」と言いつつも「自信がありました」とはっきり語った。つまりこれはもう、“日本が世界を本気で獲りに行く時代”がスタートしたという宣言なんです。
そして重要なのは、これは偶然の一撃じゃない、ということ。
坂井騎手はサウジカップも勝っています。サウジカップは世界でもトップクラスに賞金が高いレースで、フォーエバーヤングとともにこのタイトルも手に入れています。
つまり彼らは「アメリカでもサウジでもドバイでも勝てる」ということを、もう何度も実証してしまっているんです。
“日本の馬が、海外の超高額ビッグレースで勝つことはふつう”。この感覚をこれからの当たり前にしようとしているのが、坂井瑠星という騎手なんです。
坂井騎手のコメントが愛される理由:等身大と誇りのバランス
では、なぜ坂井騎手のコメントがここまで刺さったのか。最後に整理します。
① 感情が正直
「夢のようです」という言葉は、ヒーローの決め台詞というより、心からこぼれた実感です。そこに嘘がないから、多くのファンが一瞬で好きになります。
② プロとしての誇りがある
「実は自信がありました」と言える若手はそうはいません。勝負の世界では、臆病なままでは世界トップは獲れない。でも、根拠のない強がりもすぐ見抜かれる。坂井騎手の場合は、“この馬とやってきたことへの信頼”を自信として語っているので、説得力があります。
③ 主役を奪わない
「この馬の力をしっかり引き出して、なんとか世界一になりたい」という言葉には、馬とチームを主役にする姿勢があります。
これはただの謙遜ではなく、「自分はこの才能を最大まで走らせる役目なんだ」という職人としての覚悟です。これはファンだけでなく、生産者やオーナーや厩舎スタッフといった“競馬を支える全員”が一番うれしい言葉なんです。
まとめ
ブリーダーズカップ・クラシックを日本馬で初めて勝ったあとの坂井瑠星騎手のコメントは、おそらく今後ずっと残ります。
- 「夢のようです。実は自信がありました」
- 「この馬の力をしっかり引き出して、なんとか世界一になりたい」
1つ目は“到達の言葉”。
2つ目は“挑戦の言葉”。
どちらも、ただのカッコつけじゃなくて、積み重ねてきた現場の努力と覚悟から出た、本音です。
フォーエバーヤングは、すでに「日本の歴史を変えた馬」と言われています。そして坂井瑠星は、その歴史のど真ん中で手綱を取った騎手として、はっきり名前を刻みました。
「日本の馬が世界一になれるのか?」という質問は、もう過去形です。坂井騎手は、あの一日でそれに答えました。
これから先、彼がどんなレースでどんな言葉を残していくのか──それ自体が、日本競馬の未来を見ていくことになるでしょう。


