婚活アプリで「独身」とウソをついていた男性に、大阪地裁が55万円の支払いを命じた
女性は慰謝料など334万円を求めていたが、認められたのはその一部
裁判所は「女性に判断の機会を失わせる行為」で、貞操権（ていそうけん）を侵害したと判断
この記事では、
- そもそも何が問題だったのか
- 貞操権って何？
- そして一番気になる「なぜ55万円なのか」
- もし自分が同じ目にあったら、どう動けばいいのか
を解説していきます。
今回の裁判、ざっくり何があったの？
ニュースで報じられている内容を、できるだけシンプルにまとめると、こうなります。
- 女性は「独身限定の婚活アプリ」で男性と知り合った
- アプリのプロフィールややりとりで、男性は「独身」だと名乗っていた
- ふたりは交際し、肉体関係もあった
- しかし交際が終わったあと、
→ 男性に「妻子（奥さんと子ども）」がいると判明 - 女性は「独身だと信じて付き合った。貞操権を侵害された」として
→ 334万円の損害賠償（慰謝料など）を求めて提訴 - 大阪地裁は、
- 男性の「独身とウソ」は貞操権の侵害
- 女性に判断する機会を奪った悪質な行為
と認めたうえで、
→ 男性に55万円の支払いを命じた
つまり裁判所は、
「ウソついた男性が悪い。法律的にもアウト。
だからお金を払って責任を取りなさい」
という判断をした、ということです。
「貞操権」って、何のこと？
ニュースに必ず出てくるのが、この貞操権（ていそうけん）という言葉。
ちょっと堅苦しいですが、中身はわりとシンプルです。
法律の解説サイトでは、こんなふうに説明されています。
貞操権とは、
「誰と性的関係を持つかを、自分の意思で自由に決める権利」 のこと。
もう少しかみくだくと、
- 「この人ならOK」
- 「この人とは絶対イヤ」
という体の関係に関する“選ぶ権利”です。
この事件の場合、
- 女性は「独身の男性」だと信じて交際していた
- もし「既婚者」と知っていたら、
→ そもそも付き合わなかった可能性が高い
→ ましてや肉体関係には進まなかったはず
つまり、
男性が「独身だ」とウソをついたからこそ、
女性の「誰と関係を持つか」という選ぶ権利が奪われた
と裁判所は判断し、「貞操権の侵害」にあたるとしたのです。
そもそも、どうして慰謝料をとれるの？
ポイントはここです。
「既婚者だったなんてヒドイ！」という怒りや悲しみだけでは、
そのままお金（慰謝料）になるわけではありません。
日本の裁判で慰謝料が認められるには、ざっくり言うと3つ条件があります。
- 相手の行為が「不法行為」といえるか
- 今回は「貞操権の侵害」という不法行為があったかどうか
- その行為と、あなたのダメージとの関係
- ウソがあったからこそ交際・肉体関係に進み、精神的苦痛が生じた、というつながり
- どのくらいのダメージがあったか（損害の大きさ）
- 心の傷の大きさ
- 交際期間、結婚の約束、将来の計画など
- どれだけ人生に影響が出たか
裁判所は、この3つをすべてセットで考えて、
「これはひどい。お金である程度は償わせるべきだ」
と判断したときに、慰謝料の金額を決めます。
気になる「なぜ55万円？」──金額の決まり方
ここが一番気になりますよね。
まず大前提として、
判決全文がまだ一般公開されていない段階では、
「55万円の計算式」が細かく分かるわけではありません。
なので、ここから先は、
- 報道されている事実
- 過去の似た事例
- 弁護士サイトで語られている考え方
などをもとに、
「おそらくこういう事情を総合して、55万円になったと考えられる」
という整理・解説になります。
独身偽装の慰謝料は、だいたい「数十万〜100万円前後」が多い
独身偽装（既婚者なのに独身だと言って交際していた）をめぐる裁判では、
過去にこんな判決例があります。
- マッチングアプリで独身と偽って交際 → 70万〜80万円台の慰謝料を命じた例
- 仙台地裁で、独身偽装に約100万円の支払い命令があったとされる例
- ほかにも、事情によっては50万円前後のケースもある
つまり、
「数十万円〜100万円程度」が、
独身偽装＋肉体関係ありの“よくあるゾーン”
というイメージです。
今回もその範囲の中で、やや低め〜中くらいの55万円という額になっています。
裁判所が見る“金額を決めるポイント”
弁護士サイトなどでは、独身偽装の慰謝料額に影響するポイントとして、だいたい次のようなものが挙げられています。
- 交際期間の長さ
- 1〜2か月で終わったのか
- 数年にわたる交際だったのか
- 肉体関係の有無と回数・期間
- 一度だけなのか、長期にわたって何度も関係を持ったのか
- 結婚・同棲などの具体的な約束
- 婚約状態だったのか
- 両親へ挨拶、指輪購入、同棲準備などまで進んでいたか
- 相手のウソの悪質さ
- はじめから完全に既婚を隠していたのか
- 奥さんと別居中など、事情を一部だけ話していたのか
- 精神的ダメージの大きさ
- うつ状態になる、仕事に行けないなど、生活への影響
- 請求した金額とのバランス
- 今回は334万円請求 → 55万円認容（＝一部だけ認めた）
裁判所は、こういった事情をぜんぶまとめて、
「このケースなら、このくらいの金額が妥当だろう」
と総合的に判断します。
55万円という金額に込められた“メッセージ”
ポイントは、
- 「貞操権侵害」ははっきり認めている
- でも、請求額334万円の全額は認めていない
- その結果が「55万円」
というバランスです。
ここから読み取れるのは、
- 裁判所のメッセージ
- 「独身とウソをつくのは、きちんと責任を取らせるべきだ」
- 「でも、民事の慰謝料としては、334万円は高すぎると判断した」
- お金の意味
- 55万円＝
「完全に人生を補償する額」ではなく
「法的にケジメをつけさせるための額」
- 55万円＝
というニュアンスです。
つまり、
55万円は、「ウソはダメ」という警告の意味はあるけれど、
被害者の心の傷や時間を本当に埋め合わせるには、
決して十分な額とは言いがたい
とも言えるでしょう。
もし自分が同じ目にあったら？やるべき5ステップ
「じゃあ、もし自分が既婚者に騙されていたと分かったら…？」
ここは一番現実的に気になるところだと思います。
法律サイトの解説などを参考に、最低限やっておきたい行動を5つに整理します。
ステップ1：証拠を残す（消さない）
- マッチングアプリのプロフィール画面
- 「独身です」「バツイチです」などのメッセージ
- 結婚の話、将来の約束をしているLINE
- 一緒に写っている写真、旅行の予約記録 など
スクショを撮って、別フォルダに保存しておきましょう。
「本当に独身だと思っていた」
「こういう会話があった」
ということを証明できるかどうかが、
のちのち慰謝料請求できるかどうかに直結します。
ステップ2：すぐに関係を切る
- 相手が既婚だと分かったら、その時点で交際をやめるのが鉄則です。
- ズルズル関係を続けると、逆に相手の配偶者からあなたが訴えられるリスクも出てきます。
着信拒否やブロックをする前に、
必要な証拠だけは保存してから動きましょう。
ステップ3：アプリ運営会社に通報する
- 多くの婚活アプリは「独身限定」や「既婚者禁止」を規約に書いています。
- 独身偽装は、たいてい規約違反です。
運営会社に連絡することで、
- 相手のアカウント停止・強制退会
- 今後の被害者を減らす
などにつながります。
ステップ4：専門家に相談する（法テラス・弁護士など）
- 「慰謝料請求したい」
- 「でも自分のケースで勝てるのか分からない」
という場合は、一人で判断しなくてOKです。
- 地元の弁護士会の法律相談
- 国が行っている「法テラス」の無料相談
などを利用すれば、
「この事情なら、どのくらい見込みがありそうか」
「何を証拠として集めておくべきか」
などを具体的に教えてもらえます。
ステップ5：自分を責めない
これは法律論ではありませんが、とても大事なポイントです。
- 「見抜けなかった自分がバカだった」
- 「もっとちゃんと確認しておけば…」
と、自分を責めてしまう人が多いですが、
悪いのはウソをついた側です。
婚活アプリのような場で「独身です」と言われたら、
それを信じるのはごく普通のことです。
だからこそ、今回のように裁判所も、
「女性に判断の機会を失わせた行為」であり、
「貞操権の侵害」だ
と認定したわけです。
そもそも既婚者に騙されないためにできること
100％防ぐのは難しいですが、
リスクを下げるためのチェックポイントはいくつかあります。
法律サイトや婚活アドバイザーの解説などを参考に、
よく言われるポイントをピックアップしておきます。
チェック1：プロフィールと話のつじつま
- 仕事や住んでいる場所の話がコロコロ変わる
- 夜や週末に連絡がつかない日が多すぎる
- 「家には呼べない」「いつもホテルか外泊先」
こうしたサインが続く場合は、
既婚者やパートナー持ちの可能性も疑っていいかもしれません。
チェック2：会う時間帯・場所のパターン
- 平日の夜しか会えない
- 土日昼間は絶対に会えない
- 相手の家に呼ばれたことが一度もない
という状態がずっと続くなら、
「家庭持ちで、時間をやりくりして会っている」パターンも考えられます。
チェック3：「独身かどうか」を言葉で確認して記録に残す
- メッセージで「結婚歴ない？」「本当に独身？」と聞いておく
- その回答（「独身だよ」など）をスクショして残しておく
これは万一のときの証拠にもなります。
チェック4：大きなお金・契約を急がない
- 「一緒に投資しよう」「お金を貸して」など、
- 恋愛とお金の話をセットで進めてくる人は、要注意度がさらにアップです。
既婚者かどうか以前に、
お金絡みのトラブルに発展する可能性が高い相手といえます。
まとめ
最後に、もう一度この記事のポイントをまとめます。
そして何より大事なのは、
もし自分が同じような被害にあったとしても、
「自分が悪い」と思い込まないこと。
ウソをついて人の人生や気持ちを振り回した側が、
法的にも道義的にも責任を負うべきです。
