2025年11月3日、神戸・GLION ARENA KOBEで行われた「RIZIN LANDMARK 12 in KOBE」。そのメインイベントが、秋元強真 vs 萩原京平 のフェザー級マッチでした。
結果はご存じの通り──
- 2R 3分52秒 TKO(レフェリーストップ:グラウンドパンチ)で秋元強真が勝利。
 
「打撃なら萩原が上」「総合力なら秋元が上?」ファンの前評判も割れる中での“因縁対決”でしたが、最後はグラウンドでのパウンド連打によるストップという、少し苦い終わり方になりました。
この記事では、
- そもそも二人の“因縁”とは何だったのか
 - 試合の流れを、打撃・組み・寝技の視点から整理
 - そして、タイトルにもある
「萩原京平はなぜ倒されたのか?」という“敗因”を、できるだけわかりやすく言語化 
していきます。
秋元強真 vs 萩原京平 “因縁”の正体
7月の「超RIZIN.4」前後から始まった舌戦
今回のカードは、ただの「若手 vs ベテラン」ではありませんでした。
メディアのレポートでも紹介されているように、7月の「超RIZIN.4」前後から、2人はSNS上で舌戦を繰り広げてきたと言われています。
- お互いの試合内容へのコメント
 - 「誰が本当にRIZINフェザー級を盛り上げるのか」といった発言
 - 朝倉未来をめぐる立ち位置の違い など
 
言葉の応酬が積み重なり、ファンの間ではすっかり「因縁カード」というイメージが定着しました。
朝倉未来を中心にした“立ち位置”の違い
KAI-YOUの記事などでも指摘されていますが、この2人の背景には朝倉未来という存在があります。
- 秋元強真:
朝倉未来の指導・バックアップを受けながら頭角を現してきた、
19歳の“超新星”。RIZIN側も「スター候補」としてプッシュしている存在。 - 萩原京平:
朝倉未来との激闘で一気に名前を広めた、打撃系ファイター。
今も「いつか未来と再戦したい」と語り続けている“問題児キャラ”。 
つまりこの試合は、単なる
若手 vs 中堅
だけではなく、
「朝倉未来チルドレン」同士の対決
=「未来に一番近いのはどっちだ?」という意味合い
を持っていたわけです。
勝った場合・負けた場合の“重み”が違った
- 秋元にとって:
「19歳で因縁カードに勝った“本物”」というブランディングができる大チャンス。 - 萩原にとって:
ここで勝てば「未来との再戦待ったなし」の流れを強くアピールできる試合。
逆に負ければ、「未来戦どころか、自分の立場自体が危うくなる」リスクもありました。 
この“重さの違い”が、後で触れるメンタル面の差にもつながっていきます。
試合の流れ:1Rは萩原、2Rで秋元が“総合格闘技”を見せた
まずは、公式レポートをベースに、試合全体の流れをざっくり整理してみましょう。
1R:萩原がカーフキックとパンチで主導権
1Rは、はっきり言って萩原が良かったラウンドです。
- 萩原が得意のカーフキック(ふくらはぎへのローキック)で先制
 - 何度もカーフを当てて、秋元の足にダメージを蓄積
 - 打撃の打ち合いでも、ノーモーションの右ストレートを当てて
秋元の鼻から血を出させる場面もあった 
さらに、
- ボディストレート
 - 左アッパー
 - ハイキック
 
など、バリエーション豊かな打撃を出して、「打撃はやっぱり萩原が上か?」と感じさせる展開でした。
2R序盤:タックルとフロントチョークで“流れ”が変わる
しかし2Rに入ると、試合の色がガラッと変わります。
- 萩原が前に出たところで、秋元が片足タックル(片足を抱えてテイクダウンを狙う動き)
 - テイクダウンを決めた後、フロントチョーク(首を前から絞める技)を狙う
 
萩原はここを回転するようにして逃げ、
一度は立ち上がるものの…
- ジャブに合わせて再び組みつかれる
 - テイクダウンされ、バックポジション(背後を取られる位置)を奪われる
 - そこで秋元が4の字ロック(足をクロスして相手の腰を固定するテクニック)をガッチリとセット
 
ここから一気に、「総合格闘技としての差」がハッキリ出る展開になります。
終盤:ツイスター狙いからマウント → パウンド連打でTKO
背後からしっかりとロックをかけた秋元は、
- 首を狙う素振りで萩原に“ギロチン”やチョークを警戒させつつ
 - 体勢をずらしてツイスター(身体をねじる肩・背中へのサブミッション)を狙う動き
 - そこから横向きのような形でマウントポジション(相手のお腹の上に乗る最有利のポジション)に移行
 - 上からパウンドを連打し、萩原が動けないと判断されてレフェリーストップ
 
見た目としては「一気に押し切られた」印象ですが、ここに至るまでには、いくつかの“敗因”が積み重なっていたように見えます。
敗因① 「打撃で優勢」ゆえの攻め急ぎとテイクダウン対応
1Rの成功が、2Rの“前のめり”につながった?
まず最初のポイントは、
1Rで打撃がハマりすぎたこと
です。
1Rの萩原は、
- カーフキックで足を削る
 - ストレートやアッパーで顔面をとらえる
 - 見た目にも「効いている」と分かる場面を何度か作る
 
という展開で、「このまま2Rも打撃で押し切るぞ」という空気になっていたように見えます。
ところが、MMAでは
- 打撃が当たり始める
 - → 自然と前に出る時間が長くなる
 - → 腰が高くなり、タックルを合わされやすくなる
 
という“あるある”の展開があります。
2R序盤、まさにこの形から
- 前に出る萩原
 - 合わせて低い姿勢からタックルに入る秋元
 
という流れが生まれてしまいました。
「一発を狙いすぎた」ことによるポジションロス
もう1つ見逃せないのが、
「当てにいく意識」が強くなりすぎて、
フットワークや距離管理が二の次になった
という点です。
1Rのように、
- もう一度カーフで崩す
 - 時間をかけてジャブやフェイントで散らす
 
という“丁寧な組み立て”よりも、
- 「そろそろ当て切って倒したい」
 - 「ここで流れを決めたい」
 
という“勝負のスイッチ”が入ったように見えました。
結果として、
- ステップよりも上半身の打ち合いに意識が集中
 - タックルを警戒する“腰の低さ”が足りない
 - 打ち終わりに 「立ち姿勢のまま」 捕まりやすくなる
 
という状況が生まれ、秋元のレスリング&グラップリングに付き合わざるを得ない展開に持ち込まれてしまいました。
敗因② バックポジションからの“4の字ロック”に詰んだ構図
一度ハマると抜けにくい“4の字ロック”
2Rのキーポイントは、なんといっても
秋元のバックポジション&4の字ロック
です
4の字ロックとは、
- 相手の腰に自分の足を巻きつけ
 - 片方の足首をもう片方の膝裏に引っかけてロックする形
 
のことです。
この状態になると、
- 相手は立ち上がりにくい
 - 腰を切って正対(向かい合う)しにくい
 - 無理に動くと首を差し出すリスクが高まる
 
という、かなり“詰みやすい”状況になります。
首を守るか、体勢を戻すか…二択を迫られた萩原
萩原も当然ながら、
- 首をしっかりガードしてチョークを防ぐ
 
という選択をとっていました。
これはディフェンスとしては間違っていません。
ただ、MMAの怖いところは、
首だけを守っていると、
その間に“ポイント”と“時間”を失っていく
という点です。
- 背中を取られたまま
 - 体勢を戻すこともできず
 - 少しずつ殴られる、コントロールされる
 
これが続くと、
- ジャッジの印象は完全に秋元側
 - 体力的にも精神的にも削られていく
 
という悪循環になります。
ツイスター→マウント→パウンドという“総合セット”の前に対応が遅れた
今回、秋元は
- バックから4の字ロックで固定
 - ツイスター気味に身体をねじり、萩原に「首」「背中」と複数のリスクを見せる
 - 体勢の崩れたところを逃さず、マウントポジションへ移行
 - 上からのパウンド連打でTKO
 
という、一連の“総合技術”をしっかり決め切りました。
一方の萩原は、
- 「どうにか立ちたい」
 - 「首は絶対に取られたくない」
 
という意識が強すぎて、
- 早い段階で“足のロックを外すこと”に全力を割く
 - もしくは、ケージを使って立ち上がる“決め打ち”の選択肢を持つ
 
といった、クリアな脱出プランが
見えにくかった印象があります。
敗因③ “総合格闘技としてのゲームプラン”の差
秋元のプラン:打撃で負けても「最終的に勝つ形」を持っていた
秋元側の戦略を整理すると、
- 1Rは多少打撃で劣勢でもOK
 - 相手が前に出始めたところにタックルを合わせる
 - 2R以降は組み・寝技で主導権を取る
 - 最終的に、
- チョークなどの一本
 - もしくはパウンドによるTKO
のどちらかを狙う 
 
というプランが、かなりはっきりしていたように見えます。
つまり、
「打撃は最悪五分でいい。
組んでから“勝ちパターン”に持ち込めばいい」
という、総合的な“逃げ道の多さ”を持っていたとも言えます。
萩原のプラン:打撃メインからの“想定外”への対応が難しかった?
対する萩原の強みは、言うまでもなく打撃です。
おそらくプランとしては、
- カーフで足を削る
 - 打撃戦に巻き込んで顔面・ボディを当てていく
 - どこかでダウン、もしくはレフェリーストップ級のラッシュを狙う
 
という、
「スタンドでの勝負に持ち込む」流れがメインだったはずです。
ただ、問題は
“組まれた後のプランB、プランC”が、
秋元ほど明確には機能しなかった
という点です。
- フェンス際のテイクダウンディフェンス
 - グラウンドでのエスケープ(立ち上がり方)
 - バックを取られた際の“決め打ちの逃げ方”
 
これらを、
- 「どの局面で、何を最優先に守るのか」
 - 「どのタイミングで、一か八かの行動をするのか」
 
まで落とし込んでおかないと、秋元クラスの“完成された若手”とやり合うのは、非常に難しくなります。
メンタル面:プレッシャーと“負けたときのダメージ”
若手 vs 中堅ならではのプレッシャーの違い
因縁カードであり、しかもメインイベント。
ここには、数字に出ないメンタルの攻防もありました。
- 19歳の秋元:
「ここで勝てば、一気にスターダム」
という、上方向の期待が中心。 - ベテランの萩原:
「ここで負けたら、未来戦どころか…」
という、足元が崩れかねない恐怖も抱えながらのリングイン。 
もちろん、どちらもプロですから、表情に出さないようにしていたはずです。
ただ、
“負けたときのダメージ”をより強く意識せざるを得ないのはどっちか?
と考えると、萩原の方が精神的にきつい立場だったと言えます。
「倒しきりたい焦り」が小さな判断ミスを生んだ可能性
1Rで手応えをつかんだことで、
- 「ここで仕留めたい」
 - 「このラウンドでもう一段階、差を見せたい」
 
という気持ちが強くなり、
- 打撃の手数アップ
 - 前進の頻度アップ
 - それに対してディフェンス面の意識が少し薄れる
 
という流れが起きた可能性は十分あります。
その“ちょっとした隙”を、秋元は若さと技術で一気に突いてきた──そう見ることもできるでしょう。
「萩原はもう終わり?」…どころか、ここからが本当の勝負
試合後、ネットでは
- 「もう限界なんじゃ…」
 - 「若手に完全に食われた」
 - 「打撃は強いけど、総合では厳しい」
 
といった厳しい声も見られました。
しかし、MMAの歴史を振り返ると、こういう“総合力の差”を見せつけられてから大きく変わった選手は山ほどいます。
萩原の場合、今回の試合をきっかけに、
- テイクダウンディフェンスの“型”を徹底的に作り直す
 - バックを取られたときのエスケープを、
「何種類も持つ」のではなく「自分の得意な2〜3パターンに絞って極める」 - スタンドだけでなく、
「組まれても怖くない打撃スタイル」に微調整していく 
などの変化が出てくれば、打撃の破壊力はすでに証明済みなので、十分に“復活ストーリー”を描くことができます。
まとめ:萩原京平はなぜ倒されたのか?3つのポイントで整理
最後に、この記事のタイトルでもある
「萩原京平はなぜ倒されたのか?」
を、改めて3つのポイントに整理しておきます。
① 1Rの成功が、2Rの“攻め急ぎ”とテイクダウン許容につながった
- カーフキック&パンチが効いていたことで、
前に出る時間が増えた - その分、タックルへの警戒が薄くなり、
組まれる入口を自分で作ってしまった 
② バックポジションからの4の字ロックに対する“決め打ちの逃げ方”が不足していた
- 4の字ロックをがっちり組まれてからは、
「首を守る」ことが最優先になりすぎた - その間に、体勢を戻したり立ち上がるための
クリアな“脱出ルート”を選びきれなかった - 結果として、ツイスター → マウント → パウンドという
秋元の“総合パッケージ”を止められなかった 
③ “総合格闘技としてのゲームプラン”の差
- 秋元:
「打撃で多少不利でも、組み・寝技で“勝ちパターン”に入る」
というプランが明確だった - 萩原:
「打撃で倒す」プランは強力だが、
組まれた後のプランB・プランCが、
秋元ほどには機能しなかった 
まとめ:負けの中にあった“希望”も見ておきたい
今回の試合、
1Rの萩原の打撃は、間違いなく光っていました。
だからこそ、
- 「あの流れを、どうやって3Rトータルの勝ちに結びつけるのか」
 - 「組まれても怖くない打撃スタイルをどう作るのか」
 - 「バックを取られても『まだ大丈夫』と言えるディフェンスをどこまで積み上げられるか」
 
ここから先の“作り直し”が、
萩原京平という選手の本当の勝負どころになると思います。
負けはたしかに苦いですが、
MMAファンとしては
「あの1Rの破壊力に、
どこまで“総合力”が追いついてくるのか」
を、これからも追いかけていきたいところです。
  
  
  
  
