- 映画版:『栄光のバックホーム』(新作映画)
- ドラマ版:『奇跡のバックホーム』(2022年放送のドキュメンタリードラマ)
の違いを比べていきますね。
そもそも「奇跡のバックホーム」とは?簡単おさらい
まず、前提となる実話をサクッと整理しておきます。
主人公は、元阪神タイガースの外野手 横田慎太郎さん。
2013年ドラフト2位で阪神に入団し、将来を嘱望された若手として注目されていました。
しかし、プロ3年目のキャンプ中に視界の異常が出て、検査の結果は 脳腫瘍。
長い闘病の末に現役を引退し、最後の試合になった2019年9月26日のファーム公式戦で、センターからホームへ「矢のような返球」を見せます。これがファンの間で 「奇跡のバックホーム」 と呼ばれる、伝説のプレーです。
- 原作本①:『奇跡のバックホーム』(横田慎太郎さん自身の著書)
- 原作本②:『栄光のバックホーム 横田慎太郎、永遠の背番号24』(母・まなみさんの視点をもとにしたノンフィクション)
この2冊をもとに、
- 2022年に ドラマ版『奇跡のバックホーム』 が放送され、
- 2025年11月に 映画版『栄光のバックホーム』 が公開される予定です。
新作映画とドラマ版の一番大きな違い:「どこまで描くか」
ドラマ版『奇跡のバックホーム』
ドラマ版は、いわゆる「ドキュメンタリードラマ」です。
放送は 2022年3月13日、ABCテレビ・テレビ朝日系24局。
- 主役:横田慎太郎役 → 間宮祥太朗
- 母・まなみ役 → 石田ひかり
- スカウト・田中秀太役 → 丸山智己 など
ドラマのあらすじを見ると、
- 入団会見〜プロ入り直後
- 頭痛・視界の異常に気づく
- 脳腫瘍の診断
- 18時間の大手術と、目が見えない状態からの闘病
- 母の献身的な看病
- 育成契約を結び直して、一軍復帰をめざす
- そして引退試合での「奇跡のバックホーム」
といった流れが中心です。
つまりドラマ版は、
「奇跡のバックホーム」という一球に至るまでの野球人生+闘病の道のりを、コンパクトにまとめた作品 と言えます。
映画版『栄光のバックホーム』
一方で新作映画『栄光のバックホーム』は、上の2冊の本を原作にした長編映画です。
- タイトル:『栄光のバックホーム』
- 公開日:2025年11月28日予定
- 主演:横田慎太郎役 → 松谷鷹也
- 母・まなみ役 → 鈴木京香
- 監督:秋山純
- 脚本:中井由梨子
- 主題歌:ゆず「栄光の架橋」(横田選手の登場曲)
映画の紹介文を見ると、
- ドラフト指名〜入団
- 2016年開幕スタメン
- 脳腫瘍の発症
- 引退試合の奇跡のバックホーム
- そして、その後ホスピスで28歳の人生を終えるまで
という 「28年間の生涯全体」 にしっかり光を当てる構成になっています。
ドラマ版が「奇跡の一球」に向かっていくプロ野球選手としての時間を中心にしているのに対して、
映画版は 「息子と家族の物語」「亡くなった後まで続く影響」まで含めた、もっと広い時間軸 を描こうとしているのが大きな違いです。
主人公を演じる俳優の違いと、作品の「温度感」
ドラマ版:間宮祥太朗が演じた「横田慎太郎」
ドラマ版で横田慎太郎さんを演じたのは、俳優の 間宮祥太朗さん。
- もともと中学まで野球経験があり、阪神ファンとしても知られている
- 本人のフォームを直接チェックしてもらいながら役作り
ということもあり、
「野球選手・横田慎太郎」の姿をリアルに再現する」という方向性が強い作品でした。
ドラマ自体も1時間前後の放送枠の中で、ナレーションや実際のインタビュー、試合映像などを交えつつ、
「ドキュメンタリー+再現ドラマ」というスタイル。
テレビらしいテンポの良さや、情報番組に近い「わかりやすさ」が特徴と言えます。
映画版:松谷鷹也が演じる「横田慎太郎」
映画版で横田慎太郎役に抜擢されたのは、松谷鷹也さん。
松谷さんは、
- 元高校球児(学法福島で投手として活躍)
- 父が元巨人の投手・松谷竜二郎さんという「プロ野球選手の息子」
- 本作のために体重を増やして、社会人野球チーム「福山ローズファイターズ」で本気の練習
- 生前の横田さんと交流があり、本人からグローブを受け取り、そのグローブで劇中の「奇跡のバックホーム」を再現する
という、かなり強い「シンクロ」を持つキャスティングです。
ここから見えてくる映画版の「温度感」は、
ドキュメンタリーというより、
一人の青年の人生を、全力で追体験させる“劇映画”
という方向性です。
ドラマ版が「事実を伝えること」に軸足を置いていたのに対し、
映画版は「感情を深く味わってもらうこと」を狙っている印象ですね。
家族の描かれ方の違い:母の視点がどこまで入るか
ドラマ版:闘病を支える母としてのまなみ
ドラマ版では、母・まなみを演じたのは 石田ひかりさん。
あらすじにもあるように、
- 長い入院生活で、病室に泊まり込んで支える母
- 絶望しそうになる慎太郎を、言葉と存在で支える人
として描かれています。
ただし、テレビの1時間枠ですから、
- 主役の横田慎太郎さんの物語が中心
- 母の心情面は、涙のシーンやセリフを通して描かれる
という、比較的「ポイントを絞った描き方」になっています。
映画版:原作そのものが「母の視点」
一方、映画版のもう一つの原作『栄光のバックホーム 横田慎太郎、永遠の背番号24』は、
母・横田まなみさんの視点で綴られたノンフィクション。
映画公式サイトのプロダクションノートを見ると、
- 「母まなみさん目線でもう一冊を作り、その2冊を原作に映画化する」という構想
- 母の誕生日に原稿が完成
- 映画の脚本も同じ中井由梨子さんが担当
といった経緯が詳しく書かれています。
そこに、母役として 鈴木京香さん がW主演として参加。
ポスターでも
- 闘病中の慎太郎(松谷さん)を、後ろから包み込むように抱きしめる母・まなみ(鈴木さん)
というビジュアルが前面に出ていて、
映画版は 「息子の物語」+「母の物語」 の両方を描くことが明確になっています。
脇を固めるキャストの違い:どこまで“阪神タイガースの世界”を書くか
ドラマ版のキャスト
ドラマ版に登場する主な人物は、
- 横田慎太郎 … 間宮祥太朗
- 母・まなみ … 石田ひかり
- スカウト・田中秀太 … 丸山智己
- 父・真之 … 三浦景虎
- 姉・真子 … 村瀬紗英 など
プロ野球関係者なども出てきますが、基本的には
家族+スカウト+球団関係者数名
に絞った、コンパクトな作りになっています。
映画版のキャスト
映画版のキャスト一覧を見てみると……
- 横田慎太郎 … 松谷鷹也
- 母・まなみ … 鈴木京香
- 先輩・北條史也 … 前田拳太郎
- 想い人・小笠原千沙 … 伊原六花
- 姉・真子 … 山崎紘菜
- スポーツ紙記者・遠藤 … 草川拓弥
- スカウト・田中秀太 … 萩原聖人
- トレーナー・土屋 … 上地雄輔
- 掛布雅之 … 古田新太
- 金本知憲 … 加藤雅也
- 主治医 … 小澤征悦、田中健、佐藤浩市
- 二軍監督 平田勝男 … 大森南朋
- 川藤幸三 … 柄本明
- 父・真之 … 高橋克典
……と、かなり豪華で、登場人物も多めです。
つまり映画版は、
- 阪神タイガースのチームメイトや先輩
- 監督・コーチ・球団幹部
- スポーツ紙記者
- 地元の人々(隣人やホスピスの仲間)
など、横田慎太郎さんの周囲の人間模様を広く描く群像劇的な作り になりそうです。
ドラマ版では「横田家と球団の一部」が中心で、
映画版では「横田慎太郎を取り巻く世界が、ぐるっと360度描かれる」というイメージですね。
演出の違い:テレビ的なテンポ vs. 映画的な余韻
ドラマ版の演出
ドラマ版は、ABCテレビ・テレビ朝日の共同制作の ドキュメンタリードラマ。
特徴としては、
- 数字(成績・試合日程など)やナレーションが多め
- 実際の映像・インタビューを挟みながら進行
- 視聴者が「事実を理解する」ことを優先したテンポ
といった、テレビドキュメンタリーに近いスタイルです。
1時間弱の中に、入団〜闘病〜引退試合までをぎゅっと詰めているので、
- 泣きどころはしっかり押さえつつも、
- テンポよく次のシーンへ進んでいく
という印象が強い作品になっています。
映画版の演出
映画版は、
- 監督:秋山純(企画・プロデュースも兼任)
- 脚本:中井由梨子(原作本の著者でもある)
- 幻冬舎フィルム第1回作品として製作
となっていて、じっくり腰を据えた「劇映画」の作り方が前提になっています。
公開されている予告編やポスターからも、
- グラウンドに立つ背番号24の後ろ姿
- 病室で支え合う母と息子
- ゆず「栄光の架橋」がゆっくり流れる中で、野球シーンと家族のシーンが交互に映る
といった、感情をじっくり味わわせるトーン が伝わってきます。
時間的にも、映画としては約2時間前後が想定されるので、
- 高校時代のエピソード
- 阪神入団後の寮生活
- 記者や仲間たちとの交流
- 闘病生活の細かな起伏
- ホスピスで過ごした時間
など、ドラマ版では描き切れなかった場面に、かなり時間を割けそうです。
音楽の違い:主題歌「栄光の架橋」がフルに生きるのは映画版
ドラマ版の音楽
ドラマ版も感動的な音楽で彩られていますが、
目立った「主題歌」としての話題は、そこまで前面には出ていません。
テレビ番組という特性上、
音楽も「情報番組の延長線」にあるような、落ち着いたBGMが中心でした。
映画版の音楽
映画版の大きなトピックのひとつが、主題歌です。
- 主題歌:ゆず「栄光の架橋」
- これは横田慎太郎さん自身の「現役時代の登場曲」でもある
という、まさに「これしかない」という選曲。
映画の予告編では、
「栄光の架橋」が流れながら、横田選手の人生と“奇跡のバックホーム”のシーンが重なっていく 演出になっており、ここが映画版の最大の“泣きポイント”になるのはほぼ間違いないでしょう。
ドラマ版をすでに観た人にとっても、
「あの実話に、ついに“栄光の架橋”が正式に乗る」
というだけで、映画館での体験価値はかなり高そうです。
どっちから観るべき?ドラマ版と映画版のおすすめ視聴順
これから初めて「奇跡のバックホーム」の世界に触れる人へ
まだどちらも観ていないなら、
- まずは ドラマ版『奇跡のバックホーム』 で、実話の流れをざっと掴む
- その上で、映画公開時に 『栄光のバックホーム』 をじっくり味わう
という順番がおすすめです。
ドラマ版は、
- 試合・病気・引退までの流れがとてもわかりやすい
- 1時間で見られるので、予習としてちょうどいい
という「ガイド」の役割を果たしてくれます。
すでにドラマ版を観たことがある人へ
ドラマ版を観ていると、どうしても
- 「あの場面、もっとじっくり観たいな…」
- 「家族の視点からの話ももっと聞きたい」
という気持ちが出てきたはずです。
映画版はまさにそこを深掘りする作品なので、
ドラマ版で「事実」と「奇跡のワンプレー」を知り、
映画版で「心の中の物語」と「家族の絆」を味わう
という楽しみ方ができると思います。
特に、
- 松谷鷹也さんが、実際に横田さんから譲られたグラブで奇跡のバックホームを再現するシーン
- 母・まなみさんの視点がふんだんに盛り込まれている点
は、ドラマ版では体験できなかった“重み”になるはずです。
まとめ:タイトルは違っても、根っこにある想いは同じ
最後に、ポイントをもう一度整理しておきます。
● タイトル・形の違い
- ドラマ版:『奇跡のバックホーム』(2022年・テレビのドキュメンタリードラマ)
- 映画版:『栄光のバックホーム』(2025年11月28日公開予定の劇映画)
● 描く時間の広さ
- ドラマ版:プロ入り〜脳腫瘍〜引退試合の「奇跡のバックホーム」まで
- 映画版:高校時代からホスピスでの最期まで、28年の人生まるごと
● 視点の違い
- ドラマ版:選手としての横田慎太郎を中心に、事実をコンパクトに
- 映画版:息子としての慎太郎と、母や仲間たちを交えた“家族の物語”
● キャストの違い
- ドラマ版:横田=間宮祥太朗、母=石田ひかり ほか
- 映画版:横田=松谷鷹也、母=鈴木京香+阪神OBや監督、記者など豪華キャストが勢ぞろい
● 音楽の違い
- ドラマ版:BGM中心
- 映画版:主題歌に、横田選手の登場曲でもあった ゆず「栄光の架橋」 を正式採用
……と、作品の形はかなり違いますが、
根っこに流れている想いはどちらも同じです。
夢に向かって全力で走り続けた一人の青年と、
その背中を支えた家族や仲間たちの姿を、
忘れずに受け継いでいきたい。
ドラマ版は「テレビで広く伝えるための入口」。
映画版は「映画館でじっくりと向き合うための一冊の本」のような存在。
そんなふうに捉えると、両方を観る意味が、よりよく見えてくるはずです。



