婚活アプリのニュースで
「独身とウソをついた男性に賠償命令」
「貞操権侵害で慰謝料〇〇万円」
こんな言葉を目にすると、
「え、そんなことでお金払うことになるの?」
「逆に、騙された側はどこまで戦えるの?」
と、いろいろ気になりますよね。
この記事では、
- 婚活アプリで「独身」とウソをつくと、法律的には何が問題になるのか
- ニュースでも出てくる「貞操権(ていそうけん)」とは何か
- 実際の裁判例から見た慰謝料の相場感
- 被害にあったとき・加害側になりそうなとき、どう考えればいいか
を解説していきます。
※この記事は、一般的な情報の説明です。
実際のトラブルでどう動くかは、必ず弁護士など専門家に相談してくださいね。
婚活アプリで「独身」とウソをつく行為とは?
まず整理しておきたいのが、よく出てくるこの言葉。
独身偽装(どくしんぎそう)
意味はかんたんで、
本当は既婚(結婚している)のに、
「独身です」「バツイチです」とウソをついて
結婚前提の交際をすること
です。
最近は、婚活アプリやマッチングアプリでこうしたケースが増えています。
- アプリのプロフィールに「独身」と書く
- メッセージで「一度も結婚していません」と言う
- 「結婚したい」「将来はこうしよう」と真剣交際を装う
しかし実は家には妻(夫)や子どもがいる。
こうなると、相手は
「独身だと信じて交際したのに…」
となりますよね。
この「ウソ」は、ただの恋愛トラブルにとどまらず、
法律上の問題(不法行為)として扱われることがあります。
「貞操権」ってなに?かんたん解説
ニュースや解説サイトで必ず出てくるのが、
貞操権(ていそうけん)
という言葉です。
漢字だけ見ると、ちょっと古くさくて重たい感じがしますが、
中身はわりとシンプルです。
弁護士や法律サイトの説明をまとめると、貞操権とは、
「誰と性的な関係(体の関係)を持つかを、自分の意思で決める権利」
です。
もう少しイメージしやすくすると、
- 「この人ならOK」
- 「この人とは絶対にイヤ」
- 「結婚前には体の関係は持たない」
- 「少なくとも独身の人としか関係を持ちたくない」
こういう自分なりの基準やルールってありますよね。
それを、
相手のウソによって、
自分が知らないうちに踏みにじられてしまった
というときに問題になるのが、貞操権の侵害です。
婚活アプリの例でいえば、
- 「独身」と聞いていたから交際をOKした
- 「独身」と信じていたから体の関係も持った
- でも実は既婚者だった
このとき、
「もし既婚と知っていたら、
そもそも付き合わなかった/体の関係も持たなかった」
と言えるなら、
自分で相手を選ぶ権利(貞操権)が奪われた
と考えられるわけです。
法律的にはどう見られる?──不法行為としての「独身偽装」
日本の法律では、人にウソをついて重要な判断をさせ、そのせいで心や生活に大きなダメージを与えると、
「不法行為」=やってはいけない行為
として、損害賠償(慰謝料)を払う責任が生まれます(民法709条)。
独身偽装が問題になる典型パターン
独身偽装が法律問題になりやすいのは、こんなケースです。
- 相手が婚活アプリ・結婚相談所などで「独身」と名乗る
- 結婚を前提に真剣交際がスタート
- 肉体関係もある(同棲、旅行なども含む)
- しばらくしてから、実は既婚者だったと発覚
- 相手が謝罪や慰謝料の支払いに応じない
- 被害にあった側が、貞操権侵害などを理由に損害賠償を請求
ここで裁判所が見るのは、
- 本当に「独身」と信じていたか
- その信頼がなければ交際・肉体関係はなかったか
- ウソの内容ややり方がどれくらい悪質か
- どのくらいの精神的ダメージを受けたか
こうした点を総合的に見て、
「これは貞操権の侵害にあたる」
「慰謝料を支払うべきだ」
となると、具体的な金額が決まっていきます。
慰謝料の相場はどのくらい?──数十万〜200万円が中心
一番気になるのはここですよね。
弁護士が書いている解説記事などを見ると、
貞操権侵害(独身偽装など)の慰謝料相場は、
おおむね数十万〜200万円程度
と説明されていることが多いです。
例えば、
- 貞操権侵害の慰謝料・示談金の相場は、
50万〜200万円程度とする解説 - 「独身と偽って交際した場合の慰謝料は、
貞操権侵害として数十万〜200万円程度が相場」という解説
が出ています。
もちろん、これはあくまで目安です。
実際には、次のような事情で、金額が大きく上下します。
金額を左右する主なポイント
裁判例や弁護士の解説から、
慰謝料額に影響しやすい要素を整理すると、だいたいこんな感じです。
- 交際期間の長さ
- 数カ月で終わったのか、数年続いたのか
→ 長いほど精神的ダメージが大きいと見られやすい
- 数カ月で終わったのか、数年続いたのか
- 肉体関係の有無・回数・期間
- 一度だけなのか、何度も長期間にわたるのか
- 結婚の約束や婚約状態の有無
- 婚約指輪、親への挨拶、同棲、挙式準備など
- 妊娠・中絶・出産の有無
- これは金額に非常に大きく影響します
- ウソの悪質さ
- 最初から完全に既婚を隠していたのか
- 「別居中」「もうすぐ離婚する」などとごまかしていたのか
- 相手の態度
- バレたあと、真剣に謝罪して一定額を支払ったか
- 居直る、責任転嫁するなど開き直ったか
- 被害者の生活への影響
- うつ状態や不眠、仕事を辞めざるを得なくなった など
こうした事情を裁判所がトータルで考えて、
「このケースなら、〇〇万円程度が妥当だろう」
と判断するイメージです。
実際の裁判例:数十万円〜100万円前後も
マッチングアプリ×独身偽装で88万円
朝日新聞が取り上げた裁判例では、
マッチングアプリで「独身」と偽って交際した男性に対し、
88万円の賠償を命じた東京地裁の判決が紹介されています。
- アプリの利用規約には「18歳以上で交際相手がいない独身のみ」と明記
- 男性は既婚なのに独身として登録・交際
- 交際期間は約1年3カ月
- 裁判所は「貞操権侵害」としつつ、期間などを考慮し88万円と判断
このケースを見ると、
「独身限定」とうたうアプリでのウソは、
かなり重く評価される
ことが分かります。
もっと高いケースでは数百万円も
別の裁判例では、
- 長期間にわたる交際(約12年)
- 深い精神的ダメージ
などを理由に、500万円という高額の慰謝料が認められた例もあります。
これはかなり極端な事例ですが、
条件が重なると、数百万円クラスの慰謝料になることもある
ということです。
じゃあ「婚活アプリで独身とウソ」をつくとどうなる?
ここからは、
「加害側」「被害側」の両方の立場で
起こり得ることを整理してみましょう。
ウソをついた側(既婚者)のリスク
婚活アプリで既婚なのに「独身」とウソをつくと、
次のようなリスクがあります。
- 交際相手からの慰謝料請求(貞操権侵害)
- 数十万〜200万円程度が相場ゾーン
- 場合によっては数百万円クラスもあり得る
- 自分の配偶者からも責任を問われる
- 不倫として離婚・慰謝料請求をされる可能性
- アプリ運営からの処分
- 利用規約違反でアカウント停止・強制退会
- 社会的信用の低下
- 会社や身近な人に知られれば、信用が大きく失われる
つまり、
「バレなきゃいいでしょ」
という軽い気持ちで始めても、
バレた瞬間に人生レベルのリスクを背負うことになります。
騙された側(被害者)に起こり得ること
被害にあった側は、
- ショック・怒り・自己否定
- 「自分がバカだったのではないか」という罪悪感
- 結婚や恋愛そのものへの不信感
など、精神的なダメージを受けることが多いです。
そのうえで、
条件がそろえば、
貞操権侵害として慰謝料を請求できる可能性がある
ということになります。
被害にあったときの基本ステップ
ここからは、
「もし自分が独身偽装の被害にあったと気づいたら」
という場合の、一般的な流れを整理しておきます。
※具体的な行動は、必ず専門家に相談してくださいね。
ステップ1:証拠を残す・集める
弁護士の解説でもまず強調されるのが、証拠の確保です。
例えば、
- アプリのプロフィール画面(「独身」表示など)
- 「独身です」「結婚歴ないです」などのメッセージ
- 結婚や将来の話をしているLINE・メール
- 旅行、同棲、家族に紹介した証拠 など
スマホのスクリーンショットでいいので、
消される前に最低限は保存しておきましょう。
「相手が既婚者であることを知らなかった」
「独身と信じたから交際・関係を持った」
これを後から説明するには、
言った言わないではなく、残っている証拠がとても大事です。
ステップ2:関係を切る
相手が既婚だと分かった時点で、
多くの法律解説は、
そこから先の交際や肉体関係はやめるべき
としています。
知ってからも交際を続けてしまうと、
- その時点以降は「不倫」として見られやすくなる
- 相手の配偶者から、あなたに対して慰謝料を請求される可能性
が出てくるからです。
ブロックなどをする前に、証拠の保存だけは先に済ませておきましょう。
ステップ3:アプリ運営会社に通報する
独身証明書の提出を求めるなど、
「独身者限定」をうたうアプリもあります。
その場合、独身偽装は明確な規約違反です。
- アプリ内の問い合わせ窓口
- サポートメール
から、
「既婚者だった」「独身偽装の可能性がある」
ことを伝えると、
- アカウント停止などの対応
- さらなる被害者を防ぐこと
につながります。
ステップ4:弁護士・法テラスなど専門機関に相談
- 慰謝料請求をした方がいいのか
- 自分のケースでどれくらいの見込みがあるのか
- 具体的にどんな手続きになるのか
こういったことは、一人で抱え込む必要はありません。
日本には、国がつくった法律相談の総合窓口として
法テラスがあります。
- 法テラス・サポートダイヤル
0570-078374(おなやみなし)
平日9時〜21時、土曜9時〜17時 - お住まいの地域の弁護士会の相談窓口
などを利用すれば、
「この事案なら、どんな選択肢があるか」
を具体的に教えてもらえます。
ステップ5:自分を責めすぎない
これは法律の話ではありませんが、とても大事です。
- 「見抜けなかった自分が悪かった」
- 「もっと警戒していれば…」
と、自分を責め続けてしまう人は少なくありません。
でも、婚活アプリのような場で
- 「独身限定」
- 「真剣な出会い」
と書かれていて、相手も「独身」と名乗っている──
そんな状況で信じてしまうのは、自然なことです。
だから法律も、
「独身偽装は貞操権の侵害にあたる」
「慰謝料請求を認める」
という形で、ある程度は守ろうとしているわけです。
まとめ
最後に、この記事のポイントをもう一度まとめます。
婚活アプリが当たり前になった今、
「ちょっとしたウソ」
「バレなきゃいいや」
のつもりが、
人の人生と自分の人生を同時に傷つける行為になりかねません。
一方で、被害にあった側も、
「自分が悪い」と抱え込まず、
証拠を残し、専門家に相談することで
取れる選択肢がある
ということも、知っておいて損はないはずです。


