なぜかよく聞くようになった言葉のひとつに、
「テレビや新聞は偏向報道だ!」というものがあります。
X(旧Twitter)やYouTubeのコメント欄を見ていても、
「またマスコミの偏向報道だ」
「どうせオールドメディアは真実を隠してる」
こんな声を、もう見慣れてしまった人も多いはずです。
でも、改めて考えると、
- 偏向(へんこう)報道って具体的にどういう状態?
- なぜここまで「テレビ・新聞=偏向している」と言われるようになったのか?
- 本当に一方的に「テレビは悪、ネットは正義」と言い切っていいのか?
この記事では、
- 偏向報道ってそもそも何?
- なぜ「オールドメディア(テレビ・新聞)」が偏向していると言われるのか
- じゃあ、私たちは情報とどう付き合えばいいのか
を整理していきます。
「偏向報道」ってどういう意味?
まず、言葉の整理からいきましょう。
「偏向」の意味
「偏向(へんこう)」とは、
どちらか一方の考えに寄りすぎて、公平さを欠いている状態
のことです。
例えば、クラスで「AさんとBさんがケンカした」という出来事があったとします。
- Aさんの言い分だけ聞いて、Aさんの味方をする記事を書く
- Bさんの話はほとんど聞かず、悪い印象のことだけ並べる
これが「偏向」した伝え方のイメージです。
「偏向報道」とは?
ニュースや報道の世界でいう「偏向報道」は、
特定の政党・団体・立場に有利になるように、
情報をゆがめて伝えること
を指します。
たとえば、
- ある政党の不祥事は大きく取り上げるのに、
別の政党の不祥事はほとんど報じない - ある政策の「メリット」だけ強調して、
「デメリット」にはほとんど触れない - 都合の悪いデータは出さず、
自分たちの主張に合う数字だけ紹介する
こうした積み重ねで、見ている人の印象が一方向に誘導されてしまう。
これが「偏向報道だ」と批判される状態です。
なぜオールドメディアへの不信感が高まったのか?
次に、「なぜ今こんなに偏向報道と言われるのか」という背景から見ていきます。
情報の「裏側」が見えるようになった
昔は、ニュースと言えば、
- テレビのニュース番組
- 新聞
- 雑誌
がほぼすべてでした。
ところが今は、
- X(旧Twitter)
- YouTube
- 個人ブログ
- 各種ネットニュース
など、誰でも情報を出せる時代になりました。
その結果、
- テレビで報じられないことが、SNSでガンガン流れる
- テレビの「編集前」の映像が、ネットで出てくる
- 現場の人の「生の声」が、直接タイムラインに流れてくる
といったことが当たり前になりました。
「あれ?さっきの会見、テレビではここカットされてない?」
「このニュース、ネットで見た話と印象が違うぞ?」
こうした“ズレ”を多くの人が体感するようになり、
「テレビや新聞は、何かを隠しているんじゃないか」
という疑いの目が強くなっていきました。
政治や選挙との関わり
特に、選挙や政治のニュースでは、「偏向」という言葉がよく飛び交います。
- ある政党だけ街頭演説の映像を長く流している
- 不利なニュースは小さく扱い、有利なニュースは何度も特集
- 世論調査の結果の見せ方(グラフや表現)で印象が変わる
などなど、「本当に公平なの?」と疑問が出る場面が多いからです。
さらにSNS上では、
「NHKは◯◯寄りだ」
「この民放は××政権の味方だ」
といった“イメージ”が繰り返し語られ、その印象が広まっていきました。
オールドメディアが「偏向しやすい」構造的な理由
ここからは、
なぜテレビや新聞は偏向しやすいと言われるのか
その「仕組み」を見ていきます。
ポイントは大きく、次の4つです。
- 広告主(スポンサー)の存在
- ビジネスモデルと視聴率のプレッシャー
- 社内の空気(文化)と「編集方針」
- 受け手(視聴者・読者)側の好み
ひとつずつ、やさしく整理していきます。
スポンサー(広告主)の影響
テレビ局や新聞社の多くは、
広告収入で成り立つビジネス
です。
- テレビ:CMを流してもらうスポンサー企業
- 新聞:紙面やウェブサイトの広告を出してもらう企業
からお金を受け取り、そのお金で番組や記事を作っています。
ここで問題になるのが、
「スポンサーにとって不利なニュースを、
どこまで正面から扱えるのか?」
という点です。
たとえば、
- 大口スポンサーの会社が不祥事を起こした
- その企業と仲良しの政治家のスキャンダル
こうしたニュースを連日、大きく取り上げ続けたらどうなるでしょうか。
企業側としては当然、
「うちの商品CMを大量に流している局が、
うちを叩き続けてくる…」
となり、気持ちよくはありません。
もちろん、現場の記者・ディレクターは「スポンサーに遠慮せず報じたい」と思う人も多いです。
しかし、経営側・営業側の視点から、
「あまり敵を増やすようなやり方は避けたい」
という方向に働きやすいのも事実です。
結果として、
- ある企業に厳しいニュースは短く
- 深掘りはワイドショー的な「イメージ」で済ませる
- 本質に迫る特集はなかなか通らない
といった、“見えにくい自粛”が起きやすくなります。
視聴率・購読者数を取るための「ウケ狙い」
次は、視聴率や部数の問題です。
テレビ番組は、視聴率が低いとスポンサーが離れていきます。
新聞も、部数が落ちれば広告の価値が下がります。
そうすると、どうしても
「視聴者や読者が喜びそうな番組・紙面にしよう」
というプレッシャーがかかります。
結果として、
- 視聴者の多い層(高齢者・特定地域など)の「好み」に合わせた内容になる
- その層に嫌われそうな意見・特集は避ける
- 強い言い方をするコメンテーターだけを重用し、
見ていて気持ちいい方向へ誘導する
といった方向に偏っていきます。
これは、
「顧客のニーズに合わせた結果としての偏り」
とも言えます。
つまり、「メディアが勝手に偏っている」というより、
「視聴者・読者が望む情報だけを出すようになった結果の偏り」
という面もあるわけです。
社内文化と「編集方針」という見えない壁
テレビ局や新聞社には、それぞれ
- 社としての「スタンス」
- 長年の歴史で固まった「空気」
のようなものがあります。
たとえば、
- 「権力監視を何よりも優先する」
- 「政府の政策を基本的には支持しつつ、必要なときは批判もする」
- 「経済成長を重視する論調が多い」
- 「人権やマイノリティの問題を厚めに扱う」
など、媒体によってかなりカラーが違います。
これがいわゆる
「編集方針」
です。
そして、社員として長くいると、この「空気」に自然と馴染んでいってしまいます。
- 「うちの社では、こういう論調が多いよね」
- 「このネタは、うちの読者はあまり好きじゃない」
といった感覚が働き、「会社の色」に合わない企画は通りにくくなる。
これも、結果的に偏った報道につながる要素のひとつです。
実は「受け手」側も偏っている
ここで忘れてはいけないのが、私たち受け手の側の問題です。
人間には、「自分の考えに合う情報だけを集めたくなる」クセがあります。
これを「確証バイアス」と呼びます。
- もともとある政党が嫌いな人:
その政党に厳しい報道をする番組を「正しい」と感じやすい - ある政治家が大好きな人:
その人に優しい番組を「公平だ」と感じやすい
逆に、
- 自分の好きな側に厳しいニュースが流れると、
「この局は偏向している!」と怒る
ということがよく起きます。
つまり、
「自分の意見と合わないから偏向しているように感じる」
というパターンも、かなり多いのです。
ネットやSNSは「中立」なのか?
ここまで読むと、
「じゃあオールドメディアはダメで、ネットが正しいんだ!」
と思うかもしれません。
でも、ここで一度立ち止まりたいところです。
SNSにも強烈な「偏り」がある
SNSは、
- 誰でも発信できる
- 早い
- 生の声が聞ける
という良さがありますが、同時に
- 過激な発言のほうが「いいね!」されやすい
- 冷静な解説より、怒りや陰謀論のほうが拡散されやすい
- 間違った情報でも、一度バズるとそのまま広がる
という別の偏りも抱えています。
また、Xなどのタイムラインは、
自分がフォローした人の意見しかほぼ流れてこない
という構造のため、
- 気づけば、自分と同じ意見ばかりが目に入る
- 反対意見は「非常識」「敵」に見えてくる
という「情報の偏食」が起きがちです。
「オールドVSネット」の二択にしない
テレビも新聞もSNSも、
- それぞれメリットとデメリットがあり、
- それぞれ違う意味で「偏る」可能性があります。
なのに、
「テレビ=全て嘘」
「ネット=全て真実」
といった極端な図式で語ってしまうのは、とても危険です。
大事なのは、
「どのメディアも完ぺきではない」と理解したうえで、
それぞれを“使い分ける”こと
です。
「偏向報道」と言われたニュースを見るときのチェックポイント
では実際に、「これは偏向報道だ!」というニュースを見たとき、
私たちはどう考えればいいのでしょうか。
ここでは、簡単なチェックポイントをいくつか紹介します。
「他のメディアではどう伝えているか」を見る
一番カンタンで効果的なのが、
同じニュースを、別のメディアでも見てみる
ことです。
- テレビなら、別の局のニュース番組もチェック
- 新聞なら、別の新聞社のサイトも見る
- テレビと新聞、ネットニュースを見比べる
これだけでも、
- どこが強調されているか
- どこが省かれているか
- どんな言葉が使われているか
の違いが見えてきます。
「反対の立場の人」はどう言っているか?
SNSやYouTubeでも、
自分とは逆の考えを持つ人の意見をあえて見てみるのも大事です。
- 自分が支持する側を批判している記事
- 自分が嫌いな側を擁護している記事
これらを読むのは、正直あまり気持ちよくありません。
でも、その不快感の裏には、
「自分自身の偏り」が隠れている
ことが多いです。
「事実」と「意見」を分けて考える
ニュースには、
- 事実(ファクト)
→ 日付、場所、数字、発言そのもの など - 意見・評価(コメント)
→ 「これは問題だ」「素晴らしい」などの解釈
が混ざっています。
偏向を感じたときは、
「これは事実なのか?
それとも、この番組・この人の“意見”なのか?」
と、一度切り分けて考えてみると整理しやすくなります。
まとめ
最後に、この記事のポイントを整理しておきます。
● 「偏向報道」とは?
- どちらか一方に有利な形で情報をゆがめて伝えること
- 「都合の悪い情報を出さない」「一部だけ切り取る」なども含まれる
● オールドメディアが偏向していると言われる主な理由
- スポンサーの存在
→ 広告主に不利な内容を強く報じにくい空気が生まれる - 視聴率・部数のプレッシャー
→ 視聴者・読者が喜ぶ論調に寄りやすい - 社内文化・編集方針
→ 歴史や社のカラーで、扱うテーマや切り口が固定化 - 受け手側のバイアス
→ 自分と違う意見のニュースを「偏向」と感じやすい
● ネットやSNSは「中立」なのか?
- 誰でも発信できるメリットがある一方で、
過激な意見・陰謀論・デマがバズりやすいという別の偏りがある - 「テレビ=悪・ネット=正義」という単純化は危険
● 私たちにできること
- 同じニュースを、複数のメディアで見比べる
- 反対の立場の意見にも一度は目を通してみる
- 「事実」と「意見」を分けて考えるクセをつける
オールドメディアにも、ネットにも、
それぞれ短所と長所があります。
「どこか一つのメディアを盲信しない」
「自分の中の偏りにも気づこうとする」
この2つを意識するだけでも、
「偏向報道だ!」という怒りに振り回されず、
落ち着いてニュースと向き合えるようになっていきます。
この記事が、
テレビや新聞、そしてSNSとのちょうどいい距離感を考えるきっかけになればうれしいです。

