ニュースでいきなり、
「中国が、岩崎茂(いわさき・しげる)元統合幕僚長に制裁を発表」
と聞いて、
- 「この人、そもそも誰?」
- 「なんで今、制裁なの?」
- 「台湾とどう関係あるの?」
と、モヤッとした人も多いと思います。
この記事では、
- 岩崎茂さんってどんな人?
- なぜ台湾の「行政院顧問」になったの?
- どういう理由で中国から制裁されたの?
- これって日本や私たちにどんな意味があるの?
を説明していきます。
岩崎茂元統合幕僚長って誰?
自衛隊「制服組トップ」を務めた人物
岩崎茂さんは、元自衛隊の一番上の現場トップだった人です。
正式な肩書きは「統合幕僚長(とうごうばくりょうちょう)」。
ざっくり言うと、
陸・海・空の自衛隊をまとめて、防衛大臣の指示を現場に伝える最高責任者
というイメージです。
プロフィールを整理すると、こんな感じ。
- 1953年生まれ(岩手県出身)
- 防衛大学校の卒業生
- 航空自衛隊出身で、戦闘機パイロットとしてキャリアを積む
- 航空総隊司令官、航空幕僚長(空自トップ)などを歴任
- 2012年〜2014年、自衛隊の制服組トップである第4代統合幕僚長を務める
つまり、自衛隊の中でもかなり「ガチ中のガチ」の安全保障のプロです。
退官後も、安全保障や外交に関するインタビューや寄稿を通じて、
日本の防衛や東アジア情勢について発信してきました。
統合幕僚長って結局なにする人?
名前が固いので、ここはサクッと整理しておきます。
ざっくり言うと「自衛隊の現場トップ」
日本の指揮系統をものすごく単純化すると、
- 最終決定は内閣・総理大臣
- 防衛大臣が自衛隊の指揮命令を出す
- その命令をまとめて現場に伝えるのが統合幕僚長
- その下に、陸上・海上・航空自衛隊の各トップがいる
というイメージです。
なので統合幕僚長は、
- 有事のとき、自衛隊全体の運用方針を考える
- 普段から訓練や装備、日米共同訓練などの調整を行う
- 各国の軍高官と会談し、防衛協力を話し合う
といった役割を担っています。
「日本の防衛の頭脳のひとつ」と言ってもいいポジションですね。
なんで台湾の「行政院顧問」になったの?
ニュースを追うと、今回の制裁のきっかけはここです。
2025年3月、台湾行政院の「政務顧問」に就任
2025年3月21日、台湾の行政院(日本でいう内閣に近い機関)が、
岩崎茂さんを「政務顧問」に任命したと発表しました。
任期は1年、無給のポストで、
主に安全保障分野での助言役として期待されていると報じられています。
台湾政府としては、
「日本の防衛トップまで務めたプロの知恵を借りて、
台海の安全保障を強化したい」
という思惑があるとみられています。
日本政府のスタンスは?
就任当時、日本政府は
「退任した元自衛官の個人的な活動であり、政府としてコメントする立場にない」
という、距離を置いたコメントをしています。
とはいえ、
- 台湾は日本にとって重要なパートナー
- 台海の安定は、日本の安全保障にも直結
という前提があるので、
「台湾と日本の安全保障協力が一歩進んだ象徴的な出来事」
と見る専門家もいます。
今回の「制裁」って、何をされたの?
では本題の「制裁」の中身を見ていきましょう。
中国外務省が制裁を発表
2025年12月15日、中国外務省は、
岩崎茂元統合幕僚長に対して、制裁措置を発動すると発表しました。
発表された主な内容は、
- 中国(香港・マカオを含む)への入国禁止
- 中国国内にある資産の凍結
- 中国の企業や個人との取引・協力の禁止
などです。
この制裁は、中国の「反外国制裁法」という法律を根拠にしています。
この法律では、
「中国の主権や安全を害した」と中国側が判断した外国人や団体に、
入国禁止や資産凍結などの措置を取れる
と定めています。
本人は困るの?
正直なところ、
- 岩崎氏が中国に資産を持っているかどうかは不明
- 仕事の中心も日本・台湾・欧米なので、実務的なダメージは限定的
と見られています。
ただし、政治的な意味合いはかなり大きいです。
- 「台湾側に立つ人は容赦しないぞ」という対外的なメッセージ
- 日本に対しても「台湾に近づきすぎるな」という牽制球
としての効果を狙った動きだと分析されています。
中国はなぜ怒っているのか?(中国側の主張)
中国外務省は今回の制裁について、
「公然と『台湾独立』勢力と結託し、
『一つの中国』原則に著しく反した。
中国の内政に深刻に干渉し、主権と領土の一体性に重大な損害を与えた」
と強い表現で批判しています。
ここで出てくるキーワードが、「一つの中国」原則です。
「一つの中国」原則ってなに?
中国政府の立場は一貫して、
「台湾は中国の一部であり、
世界に『中国』は一つだけ」
というものです。これが「一つの中国」原則。
この立場から見ると、
- 台湾を「一つの独立した国」と扱うこと
- 台湾と軍事的な協力を深めること
- 台湾側に立って発言すること
は、「中国の領土をバラバラにしようとしている動き」に見えます。
だから中国政府は、
「台湾有事に備えよう」と語る日本や台湾の政治家・専門家を、
「台湾独立勢力と結託している」と批判することがある
わけです。
台湾・日本側はどう見ている?
台湾側の狙い:日台の安全保障協力を強めたい
台湾行政院が、わざわざ元自衛隊トップを顧問に招いたのは、
- 日本との安全保障協力をより実務レベルで深めたい
- 台湾有事のシナリオについて、経験豊富な人物からアドバイスを受けたい
という狙いがあると見られています。
岩崎氏自身も過去のインタビューで、
- 中国の軍事的台頭
- 台湾有事のリスク
- 日米台の連携の重要性
などについて、かなり率直に語ってきました。
日本政府の反応:制裁には「遺憾」
制裁発表を受けて、日本政府・木原官房長官は、
「威圧するかのような一方的措置は遺憾だ」
とコメントしています。
- 元自衛隊トップへの制裁
- その理由が「台湾との関係」だということ
は、日本としても放っておけない問題です。
ただし日本政府としては、
- 中国との関係も完全に壊したくはない
- でも台湾との関係も大事にしたい
という、非常に難しいバランスの中で対応しているのが実情です。
私たちにとってのポイントは?ざっくり3つ
ここまでの話を、ニュースを見るときのポイントとしてまとめてみます。
① 台湾有事は「遠い世界の話」ではなくなっている
- 台湾と日本の距離は、与那国島から約110kmほど
- 台海が不安定になると、日本のシーレーン(海上輸送ルート)にも影響
- 米軍も関わるので、日米同盟の問題にも直結
そんな中で、元自衛隊トップが台湾政府の顧問になったことは、
「台湾有事は現実のテーマ」だということの表れと言えます。
② 中国の「制裁」はメッセージ性が強い
今回の制裁は、実務的なダメージよりも、
- 台湾に味方する人たちへの「見せしめ」
- 日本を含む周辺国への「牽制」
という政治的メッセージの意味合いが強いです。
「怖いから台湾に近づくなよ」という、
無言の圧力として使われている側面があります。
③ 日本の立場はますます難しくなっている
- 経済的には中国とのつながりが深い
- 安全保障的には、台湾やアメリカとの連携が重要
この板挟みの中で、
日本は「どうバランスを取るか」を問われ続けています。
今回の岩崎氏への制裁は、
その板挟みがさらに強まっている象徴的な出来事とも言えます。
よくありそうな疑問Q&A
最後に、読者が気になりそうな点をQ&Aで整理しておきます。
Q1. 制裁されたってことは、「悪いことをした」という意味?
A. 法律違反が認定された、という話ではありません。
- 中国側が、「自国の原則に反している」と政治的に判断した
- その結果として、中国の法律(反外国制裁法)に基づいて制裁した
という流れです。
日本や台湾の法律で罪に問われたわけではなく、
「中国の立場から見て許せない行為だった」という意味での制裁です。
Q2. これって戦争が近いサインですか?
A. すぐ戦争、という話ではありませんが、緊張は確実に高まっています。
- 中国は台湾周辺での軍事演習を増やしている
- 日本やG7も「台海の平和と安定は重要」と繰り返し表明している
今回の制裁も、
「言葉と制度を使った圧力」の一つと見ることができます。
ただ、だからといってすぐ戦争、というよりは、
「台海周辺は、今まで以上に慎重に見ていかないといけない状況」
になっていると理解するのが現実的です。
Q3. 私たちの生活には何か影響ある?
A. 直ちに日常生活が変わる、というレベルではありません。
ただし長い目で見ると、
- 台海が不安定になる
→ 海上輸送が不安定になる
→ エネルギーや物資の価格に影響する可能性 - 日本企業が中国・台湾との付き合い方をどう変えるか
→ 働き方やビジネスの方向性にも影響
など、じわじわ効いてくるテーマではあります。
日々のニュースで、
「台湾」「台海」「一つの中国」「制裁」
といった言葉が出てきたら、
「岩崎さんのニュースの延長線上の話なんだな」と思い出してもらえると、
全体像がつかみやすくなるはずです。
まとめ
ここまでの話を、もう一度ギュッとまとめると——
- 岩崎茂元統合幕僚長は、自衛隊の制服組トップまで務めた安全保障のプロ
- 2025年3月から台湾行政院の「政務顧問」に就任し、日台の安全保障協力の象徴的存在になった
- これに対し中国は、「台湾独立勢力と結託し『一つの中国』に反した」と強く批判し、
反外国制裁法に基づく入国禁止・資産凍結などの制裁を発動した - 日本政府は「威圧するような一方的措置は遺憾」と反発しつつ、
中国・台湾の両方との関係に頭を悩ませている
ニュースって、つい
「誰が悪い」「どっちが正しい」
という目線で見がちですが、
今回の件はそれよりも、
「どの国が、どんなメッセージを発しているのか」
「その裏に、どんな力関係や不安があるのか」
を意識して見ると、ぐっと立体的に見えてきます。
