2025年10月31日。静岡県伊東市の田久保眞紀(たくぼ・まき)市長は、市議会で2回目の「不信任決議(ふしんにんけつぎ)」が可決され、その日のうちに市長をやめること(失職)が決まりました。
つまり、伊東市はきょうから“市長がいない状態”に入ります。
この記事では、
を順番に説明します。ニュースを追っていない人でも、この記事だけで流れがつかめるようにまとめます。
いま何が起きているの?一言でいうと「市長がいなくなった」
伊東市議会は2025年10月31日の臨時会(特別に開かれた会議)で、田久保市長に対する2回目の不信任決議案を出して、賛成多数で可決しました。出席した20人の市議のうち19人が賛成した、かなりはっきりした結果です。
この「2回目の不信任決議」が決まったことで、田久保さんはその日のうちに職を失います。つまり「市長ではなくなる」ということです。
市議会の議長はこの状況について「一区切りがついたが、正直むなしい」と話し、副議長も「これで本当に終わるのかはまだわからない」とコメントしています。伊東市では“ひとまず第一幕が終わった”という空気と同時に、“でもまだ終わらないかも…”という不安もあります。
つまり今は、「市長がいなくなったけど、まだこの騒動の先がある」という、かなり異例で落ち着かない状態です。
そもそも、どうしてこんなことになったの?(ここが一番大事)
原因は一言でいうと「学歴の話」と「議会とのケンカ」です。
もう少しやさしく流れを整理します。
(1) 学歴詐称(がくれきさしょう)といわれた
- 田久保さんは「東洋大学法学部を卒業しました」と公的な経歴に書いていました。これは、市の広報や選挙のときの経歴にも使われていました。
- ところが、市議会に「実は卒業していないのでは?」という告発が届きました。
- 調べた結果、「卒業」ではなく「除籍」(在学中に籍がなくなった状態)だったことがわかった、と報じられました。
ここで市議会側は「これは学歴詐称(学歴を本当と違う形で見せていた)だ」と強く問題視しました。
一方で田久保さんは、これは“うそのつもりでやったわけではない”“法的な問題はないはずだ”という立場で、最後までハッキリと謝罪・訂正はしませんでした。証明書類についても、はっきり全部を示さないまま疑問が残った、と報じられています。
この「説明があいまい」「納得できる証拠を見せない」という対応が、市民や議会の不信感を一気に高めた決定打になりました。
(2) 市議会との対立が一気に激しくなった
学歴の問題を受けて、伊東市議会は2025年9月1日に1回目の「不信任決議」を全会一致で可決しました。
ふつう、ここまでハッキリ不信任が出ると、多くの首長(市長・知事など)は自分から辞職します。でも田久保さんは辞めずに、逆に「議会を解散」させるという強いカードを切りました。
これは法律で決められているルールの1つで、「議会が市長を不信任にしたら、市長は『辞める』か『議会を解散させる』か選べる」という仕組みです。
- 田久保さんは「私は辞めない。議会を解散する」を選んだ
- 議会は一度なくなる
- そのあと、解散された議会は選挙をやり直すことになる
実際に、伊東市では10月19日に新しい市議会議員の選挙が行われました。ここで当選した20人のうち19人が、田久保さんを支持しない、いわゆる“反田久保”と見られる人たちでした。
つまり、新しく選び直した議会も、ほぼ全員が田久保さんに厳しい、という結果になったのです。
そして10月31日。この新しい議会が、もう一度(2回目の)不信任決議を出し、可決しました。
この2回目の不信任が通ると、市長は自動的に失職します、という決まりがあります。地方自治法という法律に、そう書いてあります。条件として「議員の3分の2以上が出席して、その過半数が賛成したら、市長はその時点で職を失う」と定められています。
これが、きょう(10月31日)起きたことです。
つまりまとめると:
- 学歴の説明があいまい→議会は不信感MAX
- 議会が「不信任だ」と言う→田久保さんは辞めずに議会をつぶす
- 新しく選び直した議会も、ほぼ全員が田久保さんに反対
- 2回目の不信任決議を出して可決→法律上、自動的に市長失職
このコンボで、田久保さんは市長の座を5か月ほどで失うことになりました。
田久保さんはどんな人?なぜここまで話題になったの?
田久保眞紀さん(55)は、もともと伊東市議会の議員でした。そのあと2025年5月25日の伊東市長選で初当選し、現職市長(当時3期目を目指していたベテラン)を破って市長になりました。これは伊東市で31年ぶりに「非・与党系(いわゆる自民系ではない流れ)」の市長が誕生したとも話題になりました。
観光と防災を重視し、新しい図書館計画の見直しなどを争点に掲げ、「市民目線の改革」を打ち出していたと言われています。
一方で、市長就任後すぐに学歴の疑問が出て、メディア対応がチグハグになり、疑いを晴らせないまま説明責任だけがどんどん大きくなっていきました。
さらにその後は「議会はおかしい」「私は正しい」という対立構図がはっきりしていき、テレビ・ネットニュースでは“田久保劇場”という言い方まで出ました。
これはもう市内の政治ニュースというレベルを超えて、全国で「何が起きてるの?」と興味を集める状態になりました。
在任期間はわずか5か月ほどなのに、全国区レベルで名前が知られるようになったのはこのためです。
いま伊東市はどういう状態?市は止まらないの?
田久保さんが失職したからといって、市役所の業務が全部止まってしまうわけではありません。
市には副市長や部長クラスなどの幹部職員がいて、日常の予算執行や災害対応などは続きます。実際、10月31日の臨時会は、台風被害からの復旧に使うお金(補正予算)を早く通すためでもあるという説明も出ています。
つまり「政治のゴタゴタはゴタゴタとしてあるけれど、市民生活に必要なお金はちゃんと回したい」ということです。
ただし、“誰がトップの判断をするのか”という点では、長く空白にはできません。だからこのあと「市長選挙」を開いて、新しい市長を決める流れになります。
市議会側も「一区切り」と言いながら、「これでやっと市政が前に進む」とはまだ言い切れていません。対立は深かったし、市民の分断も残っているからです。
「この5か月で市役所全体の信頼が揺れた」という声もあり、ここから信頼回復できるかどうかが、次の市長の最初の仕事になるでしょう。
田久保さんはもう政治家じゃないの?このあと何をするの?
失職=公職を失った、というだけで、本人が政治活動を全部やめなきゃいけないわけではありません。
実は、田久保さん本人は10月31日時点で「明日以降はいち市民として情報発信を続けます」と表明しています。
さらに、「これからは、ネットの記事などで事実と違うものがあれば、誤報にはきちんと抗議して訂正を求めます」とも書いています。つまり、沈黙するつもりは全くない、という宣言です。
このメッセージからわかるのは、田久保さんは「私はまだ終わらない。私は黙らない」というスタンスだということです。
また、議会側から「これで第1幕が終わったけど、第2幕はあるのか?」という言い方まで出ていることからも、本人がまた表舞台に戻る可能性は、市の中でも“十分ありえる”と見られています。
「再出馬するの?」がいちばん気になるところ
ここが、多くの人の最大の関心だと思います。
まずルールから言うと──
市長をいったん失職しても、その本人が次の市長選に立候補することは法律上は可能です。つまり「クビになったから、もう二度と市長にはなれません」という決まりはありません。
では田久保さんはどうするつもりなのか?
10月31日の時点で、田久保さんは「これからの自分の進退(出馬するかどうか)は、支援者と話し合って決めたい」とだけ語っています。具体的に「出ます」とはまだ言っていません。
同時に、「一生懸命がんばった。やり切った」と涙ぐみながら話す場面も報じられていて、精神的にはかなりギリギリまで戦ったことが伝わります。
ただ、ここで冷静に考えたいのは「勝てるのか?」という現実です。
- 新しく選ばれた市議20人のうち19人が、田久保さんに批判的な立場で当選している
- つまり、いまの伊東市の政治空気は「田久保さんNO」という方向がとても強い
- 学歴の説明もまだ「すべて納得された」という状態にはなっていない
この状況で出馬すれば、正面から“反田久保”勢力とぶつかる再戦になります。これをあえてやるのか?それともいったん静かにして信用回復をはかるのか?いまはそこが焦点になっています。
一方で、本人は「投げ出すことはしたくない」「伊東市のためにやれることをやりたい」という趣旨の発言もこれまでにしてきました。
この言葉をそのまま受け止めると、「まだ終わりにしたくない=もう一度戦うつもりがあるのでは?」と読む人もいます。
つまり結論はこうです。
- 法律的には、再出馬はできる
- 空気的には、かなり逆風
- でも本人は完全には諦めていないように見える
この3点が、今の「再出馬するの?」という質問へのいちばん正確な答えです。
次はどうなる?伊東市はこれから何を見るべき?
これからの大きなポイントは3つあります。
(1) 市長選はいつ、だれが出るのか
今回の失職によって、伊東市は近いうちに新たな市長選挙を行うことになります。報道では年内(12月ごろ)に市長選が行われる見通しと伝えられています。
誰が立つのか、田久保さんは名乗りをあげるのか。ここが最大の注目点です。
(2) 「学歴問題」はどう扱われるのか
今回の騒動は、ただの「好き嫌いのケンカ」ではなく、「公的なプロフィールに事実と違う内容を書いたのでは?」という非常にわかりやすい不信のタネから始まりました。
次の市長選では、候補者の経歴チェックはこれまで以上に厳しく見られるでしょう。伊東市民は「もうごまかしはイヤだ」という気持ちが強くなっているはずです。
(3) 市政そのものを立て直せるか
台風被害への対応、観光と防災のバランス、公共施設の見直しなど、伊東市には現実的な課題が山ほどあります。
ここ数か月は「学歴」「不信任」「解散」「再不信任」「失職」という政治バトルに時間も労力も吸われました。その間、市の意思決定は遅れ、市民は不安を感じていました、と市議会側は話しています。
次の市長はまず「普通に市政を動かす」という、当たり前だけど一番大事な仕事を求められます。
まとめ
静岡県伊東市の問題は、ひとりの市長の進退だけではありません。
- 「リーダーは正直であるべきか?」
- 「議会は市民の声をどう代弁するべきか?」
- 「説明しないトップを、市民は許すのか?」
すごくシンプルだけど、とても重たいテーマが表に出てきました。
これから行われる市長選は、伊東市だけの問題じゃなくて、日本中の地方都市が抱える“信頼のガタつき”をどう立て直すか、というテストケースにもなります。
 
  
  
  
  