女子スキージャンプ界で、今いちばん「覚醒した」と言われている選手が、丸山希(まるやま・のぞみ)選手です。
2025–26シーズンのスキージャンプW杯で、
個人戦・開幕3連勝。
これは、日本女子では初めての快挙。女子全体でも、高梨沙羅選手以来2人目というすごい記録です。
しかも、その裏には
- 北京五輪を目前にして負った 左膝前十字靱帯断裂などの大怪我
- そこからの 手術とリハビリの日々
- 「まだ怖い」と言いながら、それでも飛び続けた時間
がありました。
この記事では、
- 2021年の大怪我から何があったのか
- どうやって復帰し、世界トップレベルに「覚醒」したのか
- W杯開幕3連勝までの流れ
を追いかけていきます。
プロフィールと「覚醒前」の丸山希
まずはサクッと、基本プロフィールから。
- 名前:丸山 希(まるやま・のぞみ)
- 生年月日:1998年6月2日(27歳/2026年時点)
- 出身:長野県下高井郡野沢温泉村
- 所属:北野建設スキー部
- FISコード:6681(女子スキージャンプ)
野沢温泉村は、スキー場と温泉で有名な「雪の村」。
子どものころから雪とスキーが身近な環境で育っています。
覚醒前も「有望株」だった
実は、今回の3連勝より前から、丸山選手は「ポスト高梨」「将来のエース候補」として注目されていました。
- 2020–21シーズンのW杯総合11位
- 2021年STV杯では女子組優勝
- ジュニア時代から国際大会でも好成績
と、もともと実力は十分。北京五輪でも代表入りが有力視されていました。
しかし、その流れを大きく変えてしまう出来事が起こります。
北京五輪目前の大怪我——左膝前十字靱帯断裂
運命の日は、2021年10月24日。
北海道・大倉山ジャンプ競技場で行われた全日本選手権ラージヒルでした。
- 1本目で129.5mの大ジャンプ
- しかし着地で転倒
- 診断は、左膝前十字靱帯断裂・外側半月板損傷・骨挫傷
という、選手にとっては非常に重い怪我でした。
この怪我により、
- そのシーズンは絶望
- 初出場が期待されていた北京五輪の代表入りも消滅
まさに、「人生でいちばん悔しいタイミング」での大怪我でした。
手術・リハビリ・“恐怖心”との戦い
前十字靱帯断裂の場合、多くのアスリートは手術+長期リハビリが必要になります。
丸山選手も例外ではなく、
- 手術
- 走ることすらできない期間
- 曲げ伸ばしのトレーニング
- 筋力を戻すための地道な筋トレ
と、地味でつらいリハビリを長期間続けました。
「まだ恐怖心と闘っている」
2022年8月、札幌の宮の森サマージャンプ大会が“復帰戦”になりました。
- 95m、91mを飛んでいきなり優勝
- 合計219.0点という高得点
結果だけ見れば「いきなり復活V」ですが、本人はインタビューで
「まだ恐怖心と闘っている」
「今できる一番いいジャンプをそろえられた」
と語っています。
膝を一度大きく壊した選手が、
もう一度あのスピードで踏み切り、空に飛び出す——。
頭では「大丈夫」と思っても、
体はどうしてもブレーキを踏んでしまいます。
それでも、
- 「この競技が好きだと、改めて感じた復帰戦だった」
と話していて、
「ジャンプが好き」という気持ちが、恐怖心を上回った ことがわかります。
この「怖いけれど、それでも飛ぶ」期間が、
のちの“覚醒”につながる大きなポイントでした。
復帰後の数シーズン:結果が出ない時期もあった
復帰戦で優勝したとはいえ、
そこからすぐに世界のトップに返り咲いたわけではありません。
- 膝への不安
- フォームの微妙なズレ
- 国際大会での成績の波
など、課題もたくさん残っていました。
W杯でも、
- 予選落ちや中位に沈む試合
- 「あと一歩で表彰台」に届かない試合
といった日々が続きます。
“土台づくり”の時間だった
ただ、この時期は決してムダではなく、
- ケガ前とケガ後で、体の使い方がどう変わったか
- 膝に負担をかけすぎないフォーム
- 風の読み方や、踏み切りのタイミングの取り方
などを、ひとつひとつ調整していった時期でもありました。
まさに、
「ケガをきっかけに、自分のジャンプをゼロから見直した」
という“土台づくり”の期間だったと言えます。
きっかけはサマーグランプリ総合優勝
流れが大きく変わり始めたのが、
2025年夏のサマーグランプリです。
- サマーグランプリでシリーズ総合優勝
- 「丸山、世界のトップ争いに完全復帰」といった見出しが並ぶ
ここでの活躍が、自信につながり、
続く冬のW杯シーズンへの大きな追い風になりました。
サマーシーズンで結果を出せたことで、
- 新しいフォームが「正解だった」と確かめられた
- 「ケガした後の自分でも世界と戦える」と実感できた
この2つは、メンタル面で大きな意味があったはずです。
2025–26シーズン開幕:リレハンメルでW杯初優勝
そして迎えた、2025–26シーズンのW杯開幕戦。
会場はノルウェー・リレハンメルです。
開幕戦(個人第1戦)で“W杯初優勝”
- 女子ラージヒル個人第1戦で、悲願の W杯初優勝
- これが、キャリア初のW杯個人戦勝利でした。
同じ週末には、
- 初日の混合団体戦:日本チームの一員として優勝
- その後の個人第2戦でも連勝
という内容で、
個人2連勝+混合団体優勝=開幕週“3連勝”
という“完璧なスタート”を切ります。
この時点で、
- 「グランプリ総合優勝」
- 「W杯初優勝」
- 「個人2連勝+団体優勝」
と、「覚醒」の前兆はすでに十分でした。
ファルンで個人3連勝達成=W杯「開幕3連勝」
続く女子個人第3戦の舞台は、
スウェーデン・ファルン(ノーマルヒル)です。
ここでも丸山選手は、
- 1本目:94m
- 2本目:91m
- 合計229.6点
という圧巻のジャンプで優勝。
2位に18.5ポイント差をつける“ぶっちぎり”でした。
これで、
- 個人第1戦:優勝
- 個人第2戦:優勝
- 個人第3戦:優勝
と、W杯個人戦で開幕3連勝 を達成。
高梨沙羅以来の快挙
報道によると、
- 女子で「開幕から個人3連勝」は2013–14シーズンに4連勝した高梨沙羅選手以来
- 日本女子で「初優勝からの3連勝」は初めて
という、歴史的な記録になりました。
つまり、
「かわいい若手」
から
「女子ジャンプ界の新しい女王候補」
へと、一気に立ち位置が変わったわけです。
丸山希はなぜ“覚醒”できたのか?5つの理由
では、なぜここまで一気に「覚醒」できたのでしょうか。
公開情報や試合内容から、主な理由を5つにまとめてみます。
理由① フォームの安定と「ミスしない飛び」
FISやメディアの試合レポートを見ると、
今季の丸山選手について繰り返し出てくる言葉が
- 「安定感」
- 「大きなミスがない」
です。
- 助走でのスキーの揺れが少ない
- 踏み切りのタイミングが安定している
- 空中姿勢がきれいで、スキーと体の角度が揃っている
この「どのジャンプも大きく外さない」強さが、
試合ごとに点数を積み上げる土台になっています。
理由② 風や条件の変化への対応力
リレハンメルもファルンも、風が難しいことで知られる台です。
それでも、
- 風向きの変化に合わせて、助走や踏み切りの感覚を微調整
- 多少条件が悪くても、致命的なミスにならないように飛ぶ
という“引き出しの多さ”が、高く評価されています。
これは、ケガからの復帰後にいろいろ試行錯誤してきた経験が、生きている部分と言えます。
理由③ 「ケガを経験したからこそ」のメンタル
膝の大怪我で北京五輪をあきらめ、
長いリハビリを乗り越えて復帰——。
その過程で、
- 「ジャンプができるだけで幸せ」
- 「飛べること自体がありがたい」
という感覚が強くなったと、取材で何度も語っています。
今季のインタビューでも、
「一戦一戦を楽しんで飛びたい」
という言葉が出ていて、
勝ち負けだけにとらわれすぎていない、落ち着いたメンタルが伝わってきます。
結果として、
- プレッシャーのかかる場面でも固くなりすぎない
- 状態が良くない日でも、自分の“最低限”は出せる
という、“勝てるメンタル” を手に入れたと言えるでしょう。
理由④ サポート体制と環境の充実
所属する北野建設スキー部や、サポート企業(ザムストなど)も、
丸山選手の復活と飛躍をしっかり支えてきました。
- 膝を守るサポーター
- トレーニング環境
- 海外遠征の体制
こういった“裏方の支え”があるからこそ、
選手は安心して全力で飛ぶことができます。
理由⑤ サマーから冬まで“途切れない”好調維持
サマーグランプリ総合優勝 → W杯開幕3連勝
という流れを見ると、
- 夏からずっと良い感覚を維持して冬に入った
- 「サマーで勝てた」という成功体験を、そのままW杯につなげた
というリズムの良さも大きな要因です。
ジャンプはメンタルのスポーツでもあるので、
「最近ずっと調子がいい」
という感覚が自信につながり、
それがまた良いジャンプを呼び込む“好循環”が生まれているように見えます。
「覚醒丸山」の先にあるもの——ミラノ・コルティナ五輪へ
各メディアは、
2026年2月開幕の ミラノ・コルティナ冬季五輪 で、丸山選手を金メダル候補の一人として挙げています。
4年前は立てなかった五輪の舞台
2022年の北京五輪では、
- 代表入り確実と言われていた
- しかし膝の大怪我でそのチャンスを失った
という、非常に悔しい経験をしました。
それから4年。
- 膝を治し
- ジャンプをゼロから見直し
- サマーグランプリ総合優勝
- W杯開幕3連勝
と、遠回りをしたようでいて、
実は「今がベストのタイミング」で五輪を迎えようとしています。
「無理にドラマチックな美談」にしないことも大事
ここまでの流れだけ見ると、
- 大怪我 → つらいリハビリ → 復活優勝 → 覚醒 → 五輪で金メダルへ!
という、マンガやドラマのようなストーリーに見えます。
しかし実際には、
- リハビリの途中で落ち込んだ日もあるはず
- 復帰後も結果が出ず、悩んだ時期も長かった
- 今でも膝の不安や恐怖心が完全になくなったとは言えないかもしれない
そんな「見えない部分」がたくさんあるはずです。
だからこそ、
この記事では安易に「大怪我のおかげで覚醒した」とは書きません。
むしろ、
大怪我という“マイナスの出来事”を、
少しずつ“プラスの力”に変えてきた
その積み重ねが、
今の丸山希をつくっている と受け止めたいところです。
まとめ
最後に、ここまでのポイントを整理します。
■ 何があったのか?
- 2021年10月:全日本選手権ラージヒルで転倒し、左膝前十字靱帯断裂などの大怪我
- 北京五輪代表入りのチャンスを失う
- 手術と長期リハビリで、ジャンプから離れる時間が続く
■ そこからどう復活したのか?
- 2022年8月:宮の森サマージャンプで復帰戦優勝
- 「まだ恐怖心と闘っている」と言いながらも、笑顔でカップを掲げる
- その後の数シーズン:結果の波もあったが、フォームや体の使い方を地道に修正
- 2025年夏:サマーグランプリ総合優勝で自信を深める
■ そして、どう“覚醒”したのか?
- 2025–26 W杯開幕:リレハンメルで
- 混合団体優勝
- 個人第1戦 初優勝
- 個人第2戦 連勝
- 続く第3戦・ファルン:94m+91m、229.6点で優勝
- 個人戦で 開幕3連勝 達成(日本女子初、高梨沙羅以来の快挙)
■ 覚醒の理由(要約)
- フォームの安定と「ミスしない」飛び
- 風や条件の変化に対応できる引き出しの多さ
- 大怪我を経験したことで手に入れた“折れないメンタル”
- チーム・企業など周囲のサポート体制
- サマーから冬まで続く好調の“流れ”
「覚醒」とは、ある日突然起こる魔法ではなく、
見えないところで積み重ねてきた時間が、一気に花開いた瞬間なのかもしれません。
北京では立てなかった五輪の舞台に、
今度はどんな顔で立つのか。
リレハンメルとファルンで見せた、
あの安定したフォームと、飛び終えたあとに見せる少し照れた笑顔を思い出しながら——。
これからも、丸山希の「静かな覚醒」の続きに注目していきたいですね。



